MEDICAL

2021.11.15

【前編】さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な基礎研究者や臨床医が集い、コラボレーションを加速するための研究会

がん領域における分野横断的研究の促進を目指し、基礎研究と臨床医学の垣根を越えて研究者たちが交流する場として2020年12月に設立された「がんブレインストーミング研究会」。がん研究の発展に向けた活発な議論がされる中、中心的役割を期待されているのが若手研究者たちです。ここでは研究会に参加する8人の若手研究者、臨床医が一堂に会し、医学教育研究室の西﨑祐史先任准教授がファシリテーターとなって、研究会に参加することの意義や目標について語り合ってもらいました。

患者さんを救いたいと研究を続ける臨床医

西﨑 祐史(順天堂大学医学部医学教育研究室 先任准教授・順天堂大学臨床研修センター本部 初期臨床研修医担当・順天堂大学医学部総合診療科学講座/循環器内科学講座 准教授)

西﨑 本日は、がんブレインストーミング研究会(以下、がんブレスト研究会)の若手研究者に集まってもらいましたので、基礎と臨床の垣根を越えてコラボレーションすることの意義などについてディスカッションしていきたいと思います。まず臨床系の先生方に伺いますが、先生方はどのように研究に携わっていますか?

 

吉田 私は薬剤師を経て医学部に入学して産婦人科医になりました。薬学部時代は研究がイヤで、臨床をやりたくて医学部に入ったというのに、今こうして研究をしているのは研究がうまくいくことで患者さんの利益につなげたいという思いからです。研究の土台となっているのは「クリニカルクエスチョン」であり、基礎研究というよりも臨床応用研究に近いかもしれません。

 

須田 私は順天堂大学を卒業して、初期研修から外科医志望でそのまま小児外科に入局しました。しかし、大学院での研究をきっかけに基礎研究の面白さを知ってしまって、2017年から3年間留学して基礎研究にさらにのめり込み、ありがたいことに帰国したタイミングで医局から基礎研究を続けてほしいと言われたので、去年から小児外科に戻って基礎研究を続けています。吉田先生と同じで臨床医としての夢が捨てられるわけではないので、小児外科の患者さんに何ができるかという思いで取り組んでいます。

 

石井 私はご縁があって整形外科に入局させてもらっていましたが、出産のタイミングで大学院に入学して基礎研究の基礎の基礎を勉強させてもらう機会を得ました。その後、血液学講座の安藤美樹先生という素晴らしいメンターに出会えたことがきっかけとなり、安藤先生の研究をお手伝いしつつ、自分の専門である整形外科の肉腫疾患をターゲットとした細胞療法の研究も進めています。ここ数年は臨床から離れてしまっていますが、子育て中でもあるので、家庭と仕事を両立させてキャリアを継続させることを重視しています。

 

木下 今回は若手研究者をとのことでしたが、血液内科の博士課程3年生の私は、今日は勉強させていただく立場で参加しました。研究に興味を抱いたきっかけは、大学6年生の海外ポリクリ(臨床実習)でスタンフォード大学に行った際に中内啓光先生のラボを訪問させてもらったことでした。そのときに見た研究のスケールの大きさ、革新的な治療法につながる研究であることなどがとても魅力的で、研究をしたいと思いました。

さまざまなバックグラウンドを持つ基礎研究者

西﨑 基礎研究者の先生方はnon-MDと呼ばれる医学部出身ではない研究者たちがほとんどですが、どんなことをモチベーションに医学の基礎研究に携わっているのでしょうか。

 

新田 私は理学部を卒業して理学系の大学院を修了した基礎研究者です。これまではカエルやハエなど、ヒト以外の生物も対象とした基礎研究をメインで行ってきましたが、順天堂に来てからヒトの疾患を対象とした研究を始めました。もともとの研究者としてのモチベーションは「物事の真理を知りたい」というものでしたが、患者さんとの距離も近いこの環境で疾患ゲノムを研究する中で、多くの患者さんを救う可能性につながる研究というものも意識するようになりました。

 

富永 私は学位取得後、国立がんセンター、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)を経て、順天堂に着任しました。国立がん研究センター時代には検体を提供していただく乳がん患者さんに直接会うことがあり、中には「自分は助からないかもしれないけれど将来的に乳がんの患者さんが減るなら」と同意してくれた末期患者さんもいました。私は臨床医ではないですが、そういう人たちの病気を治したいという思いで研究をしています。また、4歳と7歳の子どもが「お母さんのようなサイエンティストになりたい」と言ってくれていることがとてもうれしく、子どもに負けないように頑張ろうという励みになっています。

 

山下 私は農学部出身で、細胞生物学教室で学位を取り、上皮細胞のがんを研究対象とするなど比較的医学に近い分野で研究をしてきました。研究のモチベーションは新田先生と同じように「真理を明らかにしたい」という思いでしたが、最近になって「出口のある研究をしたい」という気持ちが強くなってきて順天堂大学の仕事に魅力を感じました。また、身近な人ががんなどで闘病していた様子を見てきたので、そういう患者さんを救いたいという気持ちもあります。

 

目澤 私は生命科学部出身で、大学4年生のときに分子病理病態学の折茂彰先生が書かれた実験医学の総説を読んでがん微小環境に興味を抱いたことがきっかけで修士課程から順天堂に来ました。現在は博士課程4年です。学部時代からの興味が今も変わらず、今の研究のモチベーションとなっています。

目澤 義弘(順天堂大学大学院医学研究科分子病理病態学/病理・腫瘍学講座 博士課程4年)

クリニカルクエスチョンが研究の土台

須田 一人(順天堂大学医学部小児外科学講座 助教)

西﨑 今回の議論のメインテーマは「基礎研究と臨床のコラボレーション」ですが、基礎研究を行っている臨床医は、自分一人で研究と臨床を行っていますね。先生方はそのバランスをどのようにとっているのでしょうか。

 

吉田 基礎研究と臨床とのバランスを取ることは、難しいこともあります。基礎研究中心でやっているとしても、医局員である以上臨床業務もあるのですが、そのときに研究から診療に気持ちと頭を切り替えるのが難しかったです。しかも、外科系ではバリバリ手術をしていくのに、研究をしている分自分はそれができません。そうしている間にも診療科のみんなは手術がうまくなっているんだろうなとか、自分は診療科の役に立っているのだろうかなど葛藤はあります。

でも、ある日上司が「医師として一生の間に助けられる患者さんの数に対して、基礎研究ですごい成果が出せればその比にならないほどたくさんの患者さんを救える。だから君はそれを頑張りなさい」と言ってくれました。その言葉があるから今も研究を続けられています。そして、基礎研究だけに搾らずにわずかでも臨床に関わっているのは、患者さんと接する中で気づくことやクリニカルクエスチョンが身近にある環境を大切にしたいと思っているからです。

 

須田 私も吉田先生と同じような葛藤は感じました。私が研究にどっぷり浸かった留学から帰ってきて約1年ですが、手術がメインの小児外科にいながら臨床と研究の両立することは本当に難しいと痛感しています。留学前は帰国したら外科医としてバリバリ手術をやろうと意気込んでいたのに、結局手術の腕も上がっていません。このままで後輩のチャンスを潰すことになりかねないと思ったため、最近「私は研究に専念します」と医局で宣言したところでした。ありがたいことに医局では私の気持ちを完全に汲み取り、「研究を論文化して大学院生やほかの人にも波及性を生み出すのが須田の仕事だ」と言ってくれました。こういう形が可能になるのは環境が大事だと思います。

 

西﨑 ということは、外来を含む全ての臨床を行わないということですか?

 

須田 今はいったん外来も外してもらいましたが、外来やカンファレンスへの出席は続けたいと思っています。外来をすることでクリニカルクエスチョンを見つける目を維持したいですし、スタッフとのコミュニケーションをとることも大切だと思うので、そこは大切にしたいです。

臨床と研究のバランスの難しさと葛藤

木下 血液内科の大学院生は、4年間のうちの最初の1年間は病棟、真ん中の2年間がベッドフリー、そして最後の1年間をまた病棟に戻りながら論文にまとめることになっていて、限られた研究期間です。結局のところ、病棟に戻ってから研究を継続できる若手医師はほとんどいません。基礎研究を臨床と兼業するには、かなり熟練している上にタフな医師でないと難しいと思います。

 

吉田 確かに、私が大学院生だったときも最初の1年間は臨床業務もあって、週に1日研究できるかどうかでした。そこで、2年目からは理化学研究所にジュニアリサーチアソシエイト(大学院生研究者)という形で行かせてもらったので、週に何回かは外勤や当直もありましたが、3年間集中して研究ができたのです。今は医局所属で忙しいですが、臨床デューティーをしながら、研究を継続させてもらっている状況です。そうして少しずつでも実績を上げることで、周囲に認めてもらえるようにならなければいけないと思っています。

 

須田 そういう努力は周囲に伝わるものですよ。

 

吉田 その辺はMD Ph.D共通の悩みかもしれないですが、少しずつ続けていくことで認めてもらえるチャンスは増えてくるのかなと思います。

 

石井 私の場合は、整形外科として先生方と同様の葛藤があることに加えて、7歳と5歳の子どもがいる中でキャリアを積んでいくことの難しさも感じています。整形外科はすごく大所帯で理解してくれている先生方がいるお陰で、現在は血液内科のポスドクとして特別研究費をいただいて研究に専念できる形になっています。そうはいっても、朝から晩までラボにいられるわけでもなく、子どものお迎えの時間には帰らなければいけません。昼間はできるだけ時間を効率的に使えるようやりくりして、書きもの仕事は家に持ち帰ってやることも多いです。そういったことができるのも、上司を含む周囲の先生たちをはじめ、配偶者や家族などの理解があってこそだと思っています。

吉田 恵美子(順天堂大学医学部産婦人科学講座・順天堂大学大学院医学研究科難病の診断と治療研究センター 助教)

家庭との両立という悩みも存在する

富永 香菜(順天堂大学大学院医学研究科分子病理病態学/病理・腫瘍学講座 助教)

西﨑 家庭と仕事のバランスということでは、富永先生もご苦労されているのでは?

 

富永 うちは夫が単身赴任をしているので本当に一人でやっていまして、実際両立できているとはいえないのです(笑)。ただ、研究との両立については意識しているものがあります。ひとつは、強みと思えるような技術や知識を持っていること。研究や実験の実働時間が限られていても、私にしかできないことがあるから仕事を任せてもらえると思っています。また、業績についてもかなり意識しています。しっかりした論文があれば、育児のために研究時間が短くなっていても認めてもらえます。

 

石井 私は周囲の人と上手にコミュニケーションをとることが大事だと感じています。以前は全部自分でやれていたことを人に任せるのがとても苦手だったのですが、物理的な時間や余裕がない以上は人に頼らざるをえません。やってほしいことを明確に伝え、任せたことはちゃんと任せて、フィードバックするというやり方ができるようになったことで仕事がうまく進むようになったように思います。加えて、順天堂大学の男女共同参画室の研究者支援制度を利用すると研究支援員を配備してくださり、通常の2倍くらい仕事が進むので大変助かりました。そういった制度はどんどん利用したほうがいいと思います。

 

新田 しかし、日本で育児・教育の問題というと、必ず意見を求められるのがまず女性で、そこが議論の出発点になってしまうということ自体がどうなのかと個人的には思います。6歳と2歳の子どもがいて、医師の妻が他大学に勤めている私にとっても研究と家庭の両立は大きな問題で、例えばですが、朝晩の子どもの送り迎えは全て私がやっていました。また、以前のように泊まり込みが当たり前の実験などは朝夕の育児状況からは難しいということもあり、研究テーマを変えたりもしています。もともとは実験生物学者として動物実験などを夜遅くまでやってきましたが、順天堂大学ではある程度自分で時間をコントロールできるコンピュータ解析をメインとした研究テーマとさせてもらって家庭と両立しているのです。

 

西﨑 おっしゃる通りですね。家庭と研究の両立という話題で、私が、まっ先に女性に声を掛けたのがそもそもの間違いでした。

 

新田 男女共同参画の補助なども基本的にはすべて女性限定ですし、保育園に預けられるのも女性職員だけなので男性職員は対象外です。

 

西﨑 さらに制度上の見直しも必要だということですね。とても勉強になりました。後編では、non-MDの先生方に臨床とコラボレーションする意義などを伺っていきましょう。

この記事をSNSでシェアする

KNOWLEDGE of
HEALTH

気になるキーワードをクリック。
思ってもみない知識に
巡りあえるかもしれません。