MEDICAL

2021.11.16

【後編】充実の研究環境が研究を後押し!基礎・臨床の垣根を越えた若手研究者たちの活躍に期待

がんブレインストーミング研究会(がんブレスト研究会)の若手研究者たちによる座談会の前編では、主に臨床医の先生方に研究と臨床の両立で意識していることなどを伺いました。また、そこから研究と家庭の両立についても話が広がり、有意義な議論が行われました。続く後編では、基礎研究者から見た臨床とコラボレーションの意義、順天堂大学で研究することのメリットなど、さらに広い視野で議論を展開。他大学から来た研究者だからこそ実感することができる「順天堂の研究力」を垣間見ることができました。

基礎の研究者が臨床とコラボする意義

西﨑 前編では臨床医の先生方に、臨床と研究を両立することの難しさなどを赤裸々に方ってもらいました。今度は医学部出身ではないnon-MDの研究者の先生方に、臨床と近いところで研究することの良さなどを教えてもらえればと思います。

 

山下 私の場合、non-MDといってもキャリアのほとんどが医学部の基礎教室でしたから、大学院生として講座に来るお医者さんと関わることも多く、臨床とのコミュニケーションはとっていたほうだと思います。ただ、臨床の先生と共同で研究をするようになったのは順天堂大学に来てからで、生の腫瘍を見たのも初めてでしたから、今すごく勉強になっています。私たち基礎研究者にとって臨床現場から提供されるサンプルはとても貴重なものです。現状はそれらが生かしきれていない印象もあるので、今後に向けてもっと有効活用できる方法を考えているところです。

 

目澤 周囲に臨床の先生がたくさんいて、臨床に関するさまざまな情報を耳にする機会が多いことは、順天堂大学に来てよかったと思うことのひとつです。また、論文を書くときにはその研究成果を診断や治療にどう役立てるかといった視点も大切になりますが、普段から臨床の先生方と接していると臨床現場での課題も見えてくるので、がん研究をしていく上での具体的な目標が持てます。対して、自分にはマウスや細胞、遺伝子の実験ができるというスキルがありますので、臨床の先生とコラボレーションして、よりよい基礎研究を目指したいと思っています。

 

西﨑 基礎研究者が臨床の先生から臨床のことを学ぶように、臨床の先生が基礎研究者から基礎の実験のことを学ぶという関係が構築できるのはいいことですね。また、順天堂は日本トップクラスの手術症例数や外来患者数があり、全部の病院を合わせると病床数は3400床超にのぼります。それらから得られる貴重なサンプルや臨床データを、基礎研究と臨床で効率よくシェアしてがん研究の発展に役立てることについて、病院、大学全体で議論していく必要があると思います。

 

富永 臨床の現場からいただくサンプルと患者さんの情報は、私たちにとって本当に貴重です。普段私たちが実験している細胞やさらに小さな分子では患者さんの状態まではわかりませんが、実はそれはとても大事な情報でもあります。例えば、培養したけれどすぐに不活化してしまった細胞について、そのサンプルを提供してくれた患者さんの状態を臨床の先生に尋ねたところ、「実はすごく悪くて何度も再発を繰り返しているんです」と教えてもらうことがあります。そういった情報や病理結果からヒントを得られることは多いので、自分の研究をさらに発展させるために活用させてもらっています。

 

新田 難病の診断と治療研究センターはほとんどがnon-MDの研究者で構成されていますが、このセンターには学内の臨床医の研究を基礎の面からバックアップするというミッションも課せられているので、日頃から各科の先生方とコラボレーションしています。私たちにとっても臨床の先生方の協力は不可欠で、臨床検体を提供していただいたり、臨床医としての目が入ることで研究を進めることができます。一例をあげますと、私が今行っている疾患ゲノム研究では、臨床から届いた検体に何らかの遺伝子変異が見つかると、患者さんの臨床症状を共有してもらい、その遺伝子変異と臨床症状との関連の可能性などを基礎研究者、臨床医が一緒になって議論する。そのように日頃から共同して研究が進んでいます。

 

吉田 私も難病の診断と治療研究センターに在籍させてもらうことで産婦人科医をやりながらじっくり研究をする機会を得られましたが、現在も医学部大学院生や若手医師たちを研究者として育てるということでも大いに助けてもらっています。臨床医の立場としては、私たちのカンファレンスなどに基礎の先生に来ていただくこともウェルカムですし、そういうコミュニケーションが病院のなかでもっと活性化していけばいいなと思っています。

山下 和成(順天堂大学大学院医学研究科分子病理病態学/病理・腫瘍学講座 助教)

臨床の強みを活かして基礎力も向上

新田 和広(順天堂大学大学院医学研究科難病の診断と治療研究センター 講師)

西﨑 では、ここからは順天堂で研究することの意義について伺います。他大学や多施設と比較していい点や悪い点などを教えてください。ちなみに、この中で順天堂大学出身なのは須田先生と木下先生だけだとは意外でした。こんなところにも「三無主義(出身校・国籍・性別による差別がないこと)」の良さが存分にあらわれています。

 

吉田 順天堂に来た理由が、まさにそれです。派閥がなく、さまざまなバックグラウンドの人たちがいることが魅力的でした。実際に来てみても順天堂出身ではない人がたくさんいるので、多様な人たちが集まることで意外な化学反応が起きればと期待しています。

 

西﨑 逆に、物足りないことはありますか?

 

吉田 理化学研究所では、海外の有名な研究者が頻繁にセミナーなどでやってきましたし、留学生や外国人研究者が多くて共通語が英語という環境でした。その環境はとても刺激的でしたから、順天堂にもそういった環境ができればいいなとは思います。

 

須田 私が卒業した12年前の順天堂は明らかに臨床の大学でしたが、近年の順天堂大学は基礎研究を強くしていこうという方向性を明確に打ち出し、ここにいる先生方のように優秀な研究者たちがたくさん来てくれたおかげでどんどん研究力が高まっているのを感じます。そう考えると、順天堂の研究の強みはクリニカルサイエンスにあり、臨床を土台に研究をよくしていくポテンシャルです。

がんブレスト研究会についても、そのような流れの中で生まれたものだと理解しています。少し自分の話をさせてもらうと、小児外科医である私がシンガポールに留学した際は、腸管上皮細胞を3D培養してオルガノイドを作成する技術について研究していました。その後PIPrincipal Investigator)の先生に指示されたのががん研究で、当初はすごくがっかりしましたが、がん研究はあらゆる医学研究の中心です。上皮細胞はもちろん、幹細胞、ニッチなど、研究の色々なファクターを詰め込んだ集大成だということがわかりました。突き詰めてみれば自分の専門領域である先天性小児疾患の病態解明などに活かせますし、研究の幅を広げるうえでとても役立つものだと思っています。

 

石井 私は大学卒業後に一度は救急医療を選んだものの、3年後に整形外科に進路を変えて順天堂に来ることになりました。しかも、そのタイミングで出産となってしまったのですが、大所帯で懐の広い順天堂の整形外科は「一人一人に合ったキャリアプランでいい」と言ってくれて、今でもこうして研究をさせてもらえています。順天堂の整形外科には本当に感謝しています。研究をしていく上でも、病院が近く、さまざまな症例の臨床検体が集まってくることは大きな強みです。そんな順天堂大学に課題があるとすれば、やはり海外の研究者との交流が少ないことではないでしょうか。海外研究者とのコミュニケーションが活発化すれば、もっと国際色豊かになると思います。

 

新田 順天堂大学といえば駅伝で有名な大学というイメージくらいしかなかったので、まさか自分が順天堂にご縁があるなどと全く予想していませんでした。実際に来てみて目から鱗だったのは、研究にとても力を入れている大学であることです。私は地方の国立大学を卒業後、東京大学で学位を取得して、フランスの発生生物学研究所、スウェーデンのカロリンスカ研究所、理化学研究所を経験していますが、国を代表するような研究機関と比べても、順天堂大学の研究に対する姿勢、設備、環境などは素晴らしいと思います。

とはいえ、ほかの先生方も指摘されているように日本人比率は高いと思います。少なくとも英語は必須ですし、若い人たちへの教育という面から考えてもさらなる国際化は不可欠であると感じています。ただし、順天堂大学の医学部生が非常に優秀であることには本当にビックリしました。日本の若者も決して負けていないですから、国際色豊かな環境になってくればさらに充実するのではないでしょうか。

 

西﨑 皆さんおっしゃる通り、国際化はさらに発展させなければいけないポイントです。本学は北京大学などの海外の医学部を卒業し、かつ日本の医師国家試験を合格して働いている医師の数が日本トップクラスですが、彼らは非常に優秀ですし、バイリンガル、トライリンガルも当たり前です。中国人の患者さんの対応もしてくれるなど、中国や東南アジアとの連携におけるキーポイントになってくるでしょう。

研究環境の充実ぶりは世界レベル

木下 私は順天堂の外で研究をしたことがないので、先生方のお話を聞いて非常に勉強になりました。中から見た順天堂ということでは、自分が学生だったときより今のほうが研究志向が強くなっていると感じています。入局者を見ても、12年生から基礎研究講座で研究経験を積んできたという学生が各学年に何人かいて、その数が最近になって急激に増えています。そんな学生たちを見ていると、研究に興味を抱かなかった自分の学生時代が悔やまれるほどです。

 

富永 順天堂大学に来て、一番素晴らしいと思うことは研究環境が非常に充実していることです。以前はアメリカのMITにいましたが、世界ランキング一位の大学の基礎研究室だというのに、機器類は古く、どこにあるのか探して、使い方がわかる人を探すので一苦労でした。その点、順天堂大学の共同研究機器はきちんと管理されているのはもちろん、誰でもアクセスしやすく、手続きもスムーズですぐに研究できます。また、JURAJuntendo University Research Administrator)の皆さんにはとてもお世話になっています。研究の申請書を出すときには客観的な評価を専門的にしてくださるので、実際に研究費の申請とかも上手くいっています。そういうところも他施設と比較しても優れていると思います。

 

山下 富永先生がおっしゃっていたように共同研究施設や共同研究機器は非常に充実して、管理もよくされています。共同研究施設には実験のことをよく知らない人でも教えてもらえる仕組みがあり、基礎の若手や臨床系の先生が研究をしていく上でとても助かるでしょう。私も今までさまざまな研究機関にいましたが、そのような仕組みは見たことがありません。課題だと思うことは、海外の著名な研究者が講演される機会が少ないことでしょうか。もうひとつ私から見て気になるのは、順天堂では医学部の学部1年生を「M1」と呼びますが、他の大学で「M1」といったらマスター(修士課程)の1年のことです。今後、健康総合大学として発展していくにあたっても、この略称は見直してみてもよいのではと感じます。

 

目澤 順天堂のよいところについてはすでに全て出尽くした感じですが(笑)、共同研究施設は本当にすごいと思います。機器類と制度が充実していることに加えて、そこにいる人たち人が全員親切で相談しやすいのは本当に素晴らしいです。実験室だけでなく研究戦略推進センターの方々など、親切で頼りになる人がたくさんいることが一番施設としていいなと思っていることです。

 

西﨑 それぞれの部署の人たちがみんな協力的で、そういう人たちが集まって研究の力になっているのは感じますね。

木下 慎太郎(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学 博士課程3年)

広く交流できる場を作り、若手の活躍を後押し

石井 翠(日本学術振興会特別研究員 RPD・順天堂大学医学部血液学講座 博士研究員・順天堂大学医学部整形外科学講座 非常勤助教)

西﨑 ここまでの話を総合して、がんブレスト研究会に期待することを吉田先生にまとめてもらいましょう。

 

吉田 ディスカッションの中でもお話ししましたが、順天堂のいいところは、いろんなところから多彩なバックグラウンドを持つ人が集まってきていて、派閥がなく、ワイワイと一緒にできる土壌があることです。しかし、外から来た人間からすると、どこの誰が何をしているか、よく分からないところもあります。ですから、MDPh.Dというくくりとは関係なく、色んな先生方がディスカッションできて、ここでできた人脈からコラボが始まるような場になればと思ってがんブレスト研究会は発足しました。

須田先生も仰っていたように、がんはさまざまなファクターが詰まった研究領域です。もしかしたら自分の研究に役立つエッセンスが手に入ったり、全く違った目線から発展することもありますので、がん領域の研究者に限らず門戸は広く開いています。順天堂がこれからさらに伸びていくためにも広く活用してもらえればと思います。これからもご協力ください。

 

西﨑 では最後に、ここにいるメンバーを代表して、石井先生から後輩へのメッセージをお願いします。

 

石井 研究に対して最初の一歩を踏み出すのは難しいかもしれませんが、ここでは必ず助けてくれる人がいて、誰でも研究を進められる施設になっています。共同実験施設のほか、さまざまな研究者とコミュニケーションできるオープンラボなど、垣根が低くオープンな環境であることも若い人たちにとって魅力的なはずです。

大学院生を対象としたプロジェクト研究や科学研究費補助など、若い研究者のチャレンジを後押しする仕組みも充実している上に、JURAの皆さんが申請書の書き方などをサポートしてくれます。また、順天堂大学は女性研究者支援プログラムなど女性研究者を育てようという機運もあります。このようなチャンスを存分に活かして、多くの皆さんに研究の面白さ、楽しさを分かってもらいたいです。

 

西﨑 今日は皆さん活発な議論をありがとうございました。これからもこの研究会を盛り上げていきましょう。

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