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2021.03.16
基礎研究と臨床医学の垣根を超えて、次なるがん研究ステージへ! 若手研究者に手厚い順天堂大学の試み
2020年12月、順天堂大学はがん領域における分野横断研究を検討し、基礎研究と臨床の垣根を超えて若手研究者に交流の場を提供する学内委員会「がんブレインストーミング研究会」を設立しました。同研究会の委員長に就任した順天堂大学大学院医学研究科分子病理病態学の折茂彰教授が、その設立意図と活発な活動の様子を語ります。
「がんブレインストーミング研究会」とは
分野の垣根を超えて、がん研究の基礎研究者と臨床医をマッチング
一般的に、臨床分野のがんの研究は消化器外科なら消化器がん、血液内科なら白血病、整形外科では骨肉腫というように、臓器別に進められています。一方、基礎研究の講座は臓器別ではなく、研究室が特定のがん種を研究対象として選び、例えば細胞増殖や細胞死などのメカニズムを中心に研究することが多いです。つまり、がん研究は分野分断的で、診療科や研究室をまたいだ研究体制は少ないのが現状です。
順天堂が目指すのは、がん研究に携わっている学内のすべての基礎研究者と臨床医のマッチングです。順天堂には附属6病院があり、医学部以外のスポーツ健康科学部や看護学部にもがんを研究する先生方がおられます。基礎研究と臨床医学の垣根だけでなく、所属先や学部の垣根も超えて、多くの先生方が「がんブレインストーミング研究会」に参加いただければ、「誰がどんな研究をしているのか」「何に興味を持ち、どんなことを明らかにしたいのか」など基本的な情報を知ることができ、ご自身の研究との接点が見つかりやすくなります。その結果、他の先生方の意見を伺ったり、新たな共同研究につながる可能性が増し、学内の研究がより活性化すると考えています。もちろん、学外との共同研究へと発展することも期待しています。
がんブレインストーミング研究会の目的
基礎研究と臨床医学の融合を図り、若手研究者に交流の場を提供
本研究会の発端となったのは、2020年12月3日に本学の服部信孝医学部長・医学研究科長のリーダーシップのもとに開催された「がん領域における分野横断研究を考える会」です。当日は若手研究者から教授に至るまで、さまざまな年代や分野の臨床医・研究者が40名以上集まり、3時間にわたって活発な議論を展開しました。
その結果、がん領域の革新的な分野横断研究の立ち上げを目的とする「がんブレインストーミング研究会」が設立され、血液内科、整形外科、呼吸器内科、人体病理、産婦人科、病理・腫瘍学の臨床医・研究者が運営委員に就任しました。
研究会の目的は次の3つです。
① がん領域に特化したクローズドな研究会の開催(年4回)
② 研究相談窓口の設置
③ COVID-19収束以降に親睦会の開催
研究会のコンセプトは、「基礎研究と臨床医学の融合」「若手とベテランの研究者のマッチング」「若手研究者の交流による研究の活発化」。研究会ではベテランと若手が各1名、計2名の研究者が登壇し、臨床でのアンメットメディカルニーズとなる問題を提示し、質問や議論を行います。基礎研究者を交えての研究コンサルタンティングも適宜行う予定です。
研究会後によくある「あの質問をもう一度確認したい」「今後も連絡を取り合いたい」という要望に応えるため、出席者全員のメールアドレスを共有。若手研究者の人脈づくりに役立てていただきたいと考えています。さらに、がんブレインストーミング研究会事務局でSlackのチャンネルを用意し、前述の運営委員がそれぞれの専門性に基づいて、がん研究相談を今後受け付けていきます。
がんブレインストーミング研究会の活動内容
年4回の研究会で研究者が発表。順天堂がん研究者がワンチームに!
第1回「がんブレインストーミング研究会」は2021年1月21日に開催され、COVID-19影響下の厳しい状況にもかかわらず、35名の先生方にご参加をいただきました。発表者のひとりで、消化器外科学講座准教授で順天堂医院大腸・肛門外科の医局長も務める杉本起一先生の講演には、非常に多くの先生が質問し、活発な議論が巻き起こりました。まさに順天堂のがん研究者がワンチームになった瞬間を目撃することができ、私もとても感動しました。
とくに若手の研究者がさまざまな意見を述べる姿が印象的で、「若手が交流できる場が重要だ」という想いをますます強くしました。日本の学会では、どうしてもキャリアが長い先生が長く話しがちですが、この研究会は若手がベテランの先生方に研究の悩みを相談したり、若手同士が互いに助け合う場になることを目指しています。1~3年程度の短期的目標は、学内のがん研究者が相互に知り合える土壌づくりと、共同研究や研究費申請につなげること。3~6年程度の長期的目標では、共同研究を活発化させ、学内外に成果を発表することはもちろん、若手が自発的に集まる会にしていきたいと考えています。
施設、スタッフ、そして学風。研究の場としての順天堂の素晴らしさ
私自身は米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に6年半留学後、英国のキャンサーリサーチUK(CR-UK)パターソンがん研究所・癌間質研究部門のグループリーダーとして5年間、在籍した経験があります。欧米の研究環境を長期間にわたり体験したわけですが、順天堂の研究環境は欧米に劣らず優れたものだと断言できます。
順天堂の優れた点に、まず本郷・お茶の水キャンパスに2020年に竣工した新研究棟(A棟)があります。新研究棟では研究室間の壁をできる限り取り払い、異なる分野の研究者同士が立ち話をしたり、情報交換ができるオープンな空間が広がっています。ミーティングルームも数多く設置され、大小さまざまなグループが気軽に集まり、議論ができることも、研究活動を断然進めやすくしていると感じます。このような新研究棟が実現できたのは、小川秀興理事長をはじめ多くの先生方のご尽力の結果で、私も研究者のひとりとして心から感謝しています。この新研究棟のコンセプトも、当研究会と同じ「基礎研究と臨床医学の融合」であることも象徴的です。
さらに私が順天堂の良さだと感じるのは、共同研究室や動物実験室に専属スタッフが常駐し、研究者を丁寧にサポートする点です。医師や研究者はもちろん、事務スタッフの方々に至るまで親切な方が多いのも順天堂の特徴でしょう。私は欧米の研究所以外にも、国内の医療施設・研究室を複数経験してきましたが、順天堂のスタッフの親切さは別格だと感じます。つまり共同研究が生まれやすい環境がそろっているのだと思います。おそらく、その背景には学是「仁」や理念「不断前進」、出身校・国籍・性別による差別をしない三無主義の学風など、慈愛あふれる人材を育てる伝統が息づいているからだと思います。
超一流の研究者が集うMITやCR-UKでの体験。そこにもない良さが順天堂にはある
若手の先生方には、ぜひ大学院に進学し、研究の経験を積んでいただきたいと願っています。将来は臨床医を目指す場合も、基礎研究を数年経験すると患者さんへの診療が丁寧になり、それが医師としての自信につながります。ご存じのようにバイオメディカル分野は急速に進歩し、多数の分子標的薬が登場しています。新薬の効能や副作用はもちろん、分子メカニズムに関しても患者さんにわかりやすく説明ができれば理想的です。
海外留学に関しても、順天堂では医学部同窓会や大学院同窓会で海外留学助成金を準備しており、若手の先生方の留学をサポートしています。留学を考えておられる方は、ぜひご相談ください。
実際、海外での経験は得難いものです。私自身もMITホワイトヘッド研究所に留学する機会をいただき、癌微小環境の重要性について研究を続けました。MITには非常に優れたベーシックサイエンスの研究室があり、ホワイトヘッド研究所の初代ディレクターはノーベル賞受賞者のデビッド・ボルティモア氏。私が所属していた研究室のボスであるロバート・ワインバーグ教授は、ジョンズ・ホプキンス大学のバート・フォーゲルシュタイン教授とともに、2021年日本国際賞を受賞されました。一線級レベルの研究をされている先生方は人としても素晴らしく、貴重な経験を積ませていただいたと思います。さらにMITやハーバード大学との研究交流では、まさに私たちがこれから進めようとしている分野横断研究が行われようとしていました。
このように米国の大学や研究所には輝かしい実績があります。しかし、これまでお話してきたように、欧米の大学にもない大きなポテンシャルが順天堂にはあると私は思います。
折茂 彰
順天堂大学大学院医学研究科 分子病理病態学 教授
順天堂大学医学部 病理・腫瘍学 教授
1989年順天堂大学医学部卒業。1994年東京大学医学系第三種博士課程修了(医学博士)
1995年埼玉医科大学第二生化学・助教、2000年 講師、同年ホワイトヘッド研究所、マサチューセッツ工科大学(MIT)アメリカ(Robert Weinberg教授)に留学、2007年グループリーダーとしてキャンサーリサーチUK(CR-UK)パターソンがん研究所・がん間質研究部門 英国に赴任。2012年順天堂大学医学部 病理・腫瘍学・准教授、2020年より現職