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2024.05.21
今井正人氏、田中秀幸氏が男子駅伝チームのコーチに就任! 悲願の箱根駅伝優勝へ、レジェンドOB2人の決意
2024年度に新たな指導者が男子駅伝チームに加わりました。3年連続で箱根駅伝5区区間賞と金栗四三杯(大会MVP)を獲得し、トヨタ自動車九州では主にマラソンで活躍した今井正人コーチ(スポーツ健康科学部2007年卒)と、2013年の箱根駅伝4区で8人をごぼう抜きして区間賞を獲得し、2024年のニューイヤー駅伝では5区区間賞でトヨタ自動車の優勝に貢献した田中秀幸コーチ(同2013年卒)。経験豊富な2人に、指導者としての抱負や学生時代のエピソード、箱根駅伝に向けた強化策などを聞きました。
ーー母校に指導者として帰ってきました。どんな思いで指導に当たっていますか?
今井コーチ「まさか自分が母校でコーチングできるとは思っていなかったので、素直に嬉しいです。自分が育ててもらった大学でもありますし、すごく思い出もあります。同時に緊張感もあり、身の引き締まる思いです。選手と一緒に強い順天堂大学を目指していきたいです」
田中コーチ「僕も母校に戻ってこられたことがすごく嬉しいです。声をかけてくださった長門監督や大学、快く背中を押してくれたトヨタ自動車や陸上長距離部のスタッフの方に感謝の気持ちでいっぱいです。コーチにはすごく興味がありましたので、この話をいただいた時に大学の力になりたいという思いがすぐわいてきました。大学時代は2年間箱根駅伝に出られない時期も過ごしましたし、苦しいことばかりでした。その借りを返す、というわけではないですけど、学生たち、そして長門監督、今井コーチとともに優勝したいと強く思っています」
――今井コーチは現役を引退して、指導者の道に進みました。引退を決断した時期やきっかけは何ですか?
今井コーチ「最終的に区切りだなと判断したのは、昨年10月に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ですね。それまでも、世界で戦いたい、マラソンで戦いたいって思っていた中で結果が伴わず、日本のトップクラスで戦えていない状況を感じました。
MGCが終わってすぐはちょっと自分も冷静じゃない部分もあったので、10月の終わりぐらいに周りに相談もしました。決断は10月の終わりでした」
――ここまで長く現役を続けられた秘訣は何ですか?
今井コーチ「性格的に諦めの悪いところですかね(笑)。まぁやっぱり世界で戦いたい、オリンピックで戦いたいという目標を持ってやり続けられたからだと思います。途中でオリンピック出場が叶っていたり、世界陸上である程度の結果が残せていたりしたら、ここまで長く続けられなかったかもしれません。体と心が続くうちは、最後の最後まで世界を目指して取り組めたのが一番の理由かなと思います。オリンピックで戦いたいというのは、高校生で陸上を始めた時に立てた目標だったので、その自分自身との約束を裏切りたくなかったという思いもありました」
――指導者への思いは、いつ頃から芽生えましたか?
今井コーチ「高校生のときに順天堂大学への進学を考えた時から、将来的には指導者になることを考えていました。なので、高校の時から先生の話すこと、言い回しとかも含めて、『自分だったらどうするかな』『こう言うと胸に響くのか』と日々勉強していました。
ただ、正直(コーチを)やってみて、鼻をへし折られたではないけど、やっぱり理想と現実は違うなと思いました。こうしたらいいのにって思っていても、うまく伝えられないというか、伝わらないというか。やっぱり伝えた〝つもり〟では駄目だと思うんです。
今、部員が67人。一人一人にもっとアレンジや工夫が必要で、相手の性格を知ることも本当に大事だというのを実感しています」
――選手とコーチで考え方が大きく変わったのですね
今井コーチ「全然違うと思います。選手の時は自分の視点で物事を捉えて、大げさに言ったら自分のことだけ把握しておけばいい部分がありました。しかし今は、全選手のことを把握する必要があります。まだまだ全然できていません。長門監督に話を聞いたりすると、素直にすごいなって思いますね。そこまで見られているんだとか、あそこまで考えないといけないんだっていうのは思いますね」
――田中コーチは現役選手のまま、指導者になりました。どういう経緯ですか?
田中コーチ「長門監督からトヨタ自動車側に打診があり、会社が承諾してくれて、という形ですね。僕も大学に入学した時はすでに指導者になりたい気持ちがありました。実業団の時は、コーチになりたいという思いが少し薄まった時期もありましたが、年齢を重ねて若い選手が入ってきて、『こうしたらいいのに』『ああしたらいいのに』というのを感じることが増えました。実業団で年数を重ねて、やってみたいなって思うようになり、そのタイミングで長門監督からお話をいただきました。あとは何より家族ですね。家族が『チャンス逃さない方がいい』と言ってくれて。最後その一言が大きかったです」
「勝つチーム」「はい上がる力」を伝授へ
――順大時代のことになりますが、改めて箱根駅伝に対する思い出を教えてください
田中コーチ「冒頭にもお話しましたけど、悔しい思いがすごく強いですね。箱根駅伝に出たいと思って入学して、予選会で落ちてしまって。それが2年間続きました。先輩達の悔しい姿も見てきました。僕は1、2年生でしたけど、主力選手という立場でもあったので責任感もありました。ただそこから巻き返し、最終学年は総合6位になりました。
僕が長門監督に声をかけていただいた理由の一つに、そこの部分があると思います。その悔しさというのは長門監督、今井コーチは経験していません。この経験は指導に生かすことができると思います。
今のチームは、力はあるので、僕たちがいた時の現状とはちょっと違うとは思います。『こうだったよ』というのはどんどん伝えていきたいですが、今の学生はもっと上を目指さなきゃいけないかなと思っています」
今井コーチ「自分の場合は、順天堂大学は優勝か準優勝しかないチーム、という雰囲気を、高校時代に見て育ちました。勝って当たり前と思っていた中で、1、2年生時はなかなか結果が出せず、悔しい思いもありました(箱根駅伝ではいずれも総合5位)。『自分たちって勝てないのかな?』みたいな雰囲気になっていたところもあると思います。
3年生の時にあのアクシデント(復路で選手に脱水症状)があって優勝は逃したものの、そこまでトップで走ったっていうのは、非常に大きな自信にもなりました。その前の出雲駅伝、全日本大学駅伝が2桁順位で、ある意味どん底を経験したところから、箱根駅伝で優勝できるほどのところまでは持っていけました。さっき田中コーチが話した『予選会で2回落ちたところからはい上がってきた』というのと一緒で、2カ月間でもしっかり思いを持ってやれば立て直せるんだよ、というモチベーションの部分を自分も伝えられたらと思います。
3年生の時〝逃した魚〟は大きかったですが、それによって4年生の時は油断することなく、『自分達は勝てるんだ、勝つためにやるんだ』と団結できたと思います。1回ではありましたが、総合優勝できたというのは、自分の中で非常に大きかったです」
――今井コーチは4年生のときに主将でした
今井コーチ「自分達の学年は個性あふれる学年でした。僕がまとめたというよりは、勝つためにみんながまとまる雰囲気になったんです。3年生ぐらいまではちょっとうまく噛み合わない部分がありましたが、『勝ち』が見えた時にまとまる雰囲気になったというか。僕はキャプテンでしたけど同級生の長門監督だったり、松瀬(元太)や清野(純一)だったりが、勝つためのチームにするために後輩たち、同級生をまとめてくれました。僕はなんとなくお膳立てしてもらったみたいな、そんな感じでした。
4年生のときの箱根駅伝で、僕が(往路の5区で)区間賞を取りました。復路には、長門監督と松瀬が9区と10区にいて、2人からは『お前に(主役を)全部持っていかれたわ』『俺が全部持っていってやろうと思ってたのに』と声かけられました。そういう意識の仲間がいるというのは非常に心強く、『勝つチーム』とはそういうチームなんだと思います。決して嫌味な感じじゃなくて、僕も『あー、悪い悪い』みたいな。
田中コーチも『勝つチームの雰囲気』は、実業団を経験して分かっていると思います。僕は十何年間、勝利の味は知らないので、ちょっと飢えていますが(笑)」
――学生時代、順大の練習環境はいかがでしたか?
今井コーチ「順大には自主性を重んじる環境があると思います。コンディショニングを考慮し、自分でメニューを考えてみたり。自分でどうやって強くなるかということを考えることができると、実業団に行ってからの伸び方が全然違います。実業団で多くの先輩方が活躍しているというのは、そういうところを順天堂大学の指導者が大事にしてきたからだと思います。ただ、自主性を履き違えてしまうと、自分に甘えようと思ったら甘えられるということでもあります。それを判断できるかどうかが重要になってきます。自分に甘かったと気づいて、自分が強くなるための選択肢に進めるようになってほしいと思います」
田中コーチ「(順大では)スポーツ学や医学の知識を身に付けられるので、実業団に行ってから他の選手との知識の差を感じました。また、順天堂大学はトラック&フィールドを大事にする大学で、駅伝だけでなく、トラック種目も重要視します。そのため、実業団に行ってから、トラックやマラソンなどでOBが幅広く活躍しています。大学対校戦もすごく大切にしている大学なので、陸上競技部の仲間意識は強いと思います」
3人で良い〝化学反応〟を
――どんな指導者が理想ですか?
田中コーチ「人としてどう成長するかが一番だと思います。また、指導者と選手が一緒に成長できるような関係性を築いていくことが大事とも思っています。競技力もそうですけど、人間力という部分で、僕自身もまだまだ成長していかなければいけません。競技面だけでなく、就職面なども含めて目標への道筋を作ってあげるのがコーチという立場かなと思っています。まあ、後は楽しくやるだけです(笑)」
今井コーチ「僕は〝伴走型〟でやっていきたいと思っています。一緒に横で走っていくような。もちろん実際には走らないですけど(笑)。僕自身、能力があるわけではない中で、これまで長くやらせてもらえました。目標に向かって進む中で、何度も心が折れかけたところを立て直すことができました。それは、僕一人でできたわけではなく、周りの支えやアドバイスがあったからです。一緒に泣いたり、笑ったり、時には叱ったり。私もそういう存在になりたいです。長門監督と僕も違うし、僕と田中コーチも違う。やっぱり三人で良い〝化学反応〟を起こせられたらと思います」
――田中さんは選手を続けながらコーチになります。選手とコーチを兼任するのは難しくないですか?
田中コーチ「難しいんですかね?(笑)」
今井コーチ「性格的には僕はできないです。でも自分が走りながら、学生を見ることができ、(自分の競技力向上に)これを取り入れよう、ということもできますよね。自分もそういうのにチャレンジできたらよかったなって見ていて思います。
ただ、自分のことだけを考えて時間を使えたのが、ある程度(学生の)練習を見てからやらないといけない。今まであった自分だけの準備の時間が取れないというのはすごく大変だと思います。でもそれをやる中で、柔軟性が生まれたり、視野が広がったり、田中コーチが〝選手〟としての幅が広がるんだろうなと思います」
田中コーチ「すごくそれは思います。トヨタ自動車の大石港与選手が同じような感じで(母校の)中央大学に行きました。その大石さんの話もいろいろ聞きました。『田中にとって、選手としても人としてもコーチとしても確実に大きくなるよ』って。トヨタというカテゴリーを出て、教育現場で外から見て学生たちと接し、その学生達と一緒に練習できるというのはすごく貴重な経験だったそうです。僕の場合、長門監督と今井コーチにいろいろ助けてもらえますので、そこがすごく大きいと思います」
――お二人から見た、長門監督ってどんな人ですか?
今井コーチ「やっぱり〝兄貴〟だなって思いますね。大胆でダイナミックな感じもあるし、でも結構きめ細やかな気遣いもできるし。後輩や選手が寄ってくるんですよ。長門監督のそういう懐の深さを感じますね」
田中コーチ「自分が大学3年生の時にコーチとして来られました。でも歳も近いので、お兄ちゃんみたいな存在です。今井コーチが言った通り、すごくしっかりもされてますし、意外といったらあれですけど、きめ細やかですし。あと、軸を持っていながら、柔軟性も感じます。僕が一言ポロって言った意見を採用し、最後の練習の調整の部分に取り入れてくれたり。既にすごい指導者ですけど、もっともっと成長していこうというのを感じます」
近い将来の「箱根駅伝優勝」が目標
――チームは箱根駅伝での巻き返しを目指しています。チームの課題はどういうところでしょうか?
今井コーチ「リーダーシップ的なところが少し足りないのかなと思っています。もしかしたらちょっと遠慮があるのかもしれない。別にきつく言うからリーダーシップがあるとかそういうことではなく、『一緒にやろうよ』っていう〝熱さ〟でもいいんです。そういうところが出てきたら変わるんじゃないかな。本当はみんな持ってるはずです。高校時代はそういう風にやっていたでしょうし、やれていたから高校の実績もあると思います。だからそれをうまく引き出してあげたいというのはありますね。別に言葉に出しなさいってわけでもないし、でも言わないと伝わらないところもある。その大事なタイミングで発揮してくれればと期待しているところです。それを出せる雰囲気作りっていうのは、僕らができる部分なのかなと思います」
田中コーチ「今井コーチとほとんど一緒で、中心となり引っ張っていくという部分で、ちょっと弱いのかなというふうに感じています。別に誰が悪いとかそういうのはないと思うんですね。そういう存在が現れるように、僕たちスタッフがうまくコントロールしてあげたいと思います。それは、選手が絶対持っている能力なので。その能力を引き上げてあげるというのが自分たちの役割かなと思っています。
一緒に練習もする立場で、長門監督や今井コーチより選手を近くで見られる部分があります。その際、自信という部分ではあんまりないのかなと感じることがあります。すごくいい練習もしてますし、僕自身も結構きつくていっぱいいっぱいな練習もあるんですけどね。『実業団でもこういう練習だよ』とか『他大学の選手はこういう練習してて、皆も同じぐらいできてるよね』とか、自信を持てるようにそういうことはよく話をしています。小さな成功が一気にこのチームを変えるような気がします。その小さな成功を自分達3人がうまく作ってあげられたらなと思います」
今井コーチ「田中コーチが一緒に走って、学生に踏ん張りどころで声をかけてるんですが、そうすると練習がしまるんです。田中コーチが良い見本になっていて、雰囲気も変えてくれていと思います」
――1年生に期待することは何ですか?
田中コーチ「僕は小さくまとまらず、思い切ってやってくれれば1年生はそれだけでいいかなと思います」
今井コーチ「型にはめず、やりたいようにやらしてあげるという感じでしょうか。カテゴリーが一つ上がるので、高校の時みたいにうまくいかないこともたくさんあると思いますが、自分が今までやってきた強みをどんどん出してほしい。それでうまくいくのか、うまくいかないのかを経験すれば、それがまた次の強さになるはずです」
――今後の目標を教えてください
今井コーチ「やっぱり箱根駅伝で近い将来に優勝するということです。それは今年度かもしれないし、来年度かもしれない。そういうところを目指せるチームを、しっかり自分自身も勉強しながら、作っていけたらと思っています。OBの方々に喜んでもらえるような結果を出すために、しっかり努力したいです。あとはこの大学で4年間やってよかった、やり切ったぞって選手が言えるような、サポートをしていきたいです」
田中コーチ「やっぱり目標は近い将来に箱根駅伝で優勝して、〝最後の優勝メンバー〟として長門監督や今井コーチが写っている写真を入れ替えるということです。あとはもう一つ、全員自己ベスト更新というのが僕の中で目標としてあります。誰一人欠けることなく、しっかりと自己ベストを出し、喜びを分かち合いたいです。
まぁ指導者というより、僕自身は自分が選手だと思ってるので、学生に近い立場で道筋をいっぱい作ってあげて、そばで支えてあげられたらと思います。その結果として、箱根駅伝優勝と全員が自己ベスト更新という目標を叶えられるよう、精一杯やっていきます。長門監督と今井コーチにいっぱいしごかれ(笑)、勉強したいと思います。
まだトヨタの選手でもあるので、1月1日(ニューイヤー駅伝)と、1月2、3日(箱根駅伝)で続けて胴上げができたらうれしいですね」