膠原病とは、関節リウマチをはじめ、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎、筋炎などの難治性の慢性炎症性疾患の総称です。順天堂大学医学部膠原病内科は日本初の膠原病専門の診療科で、開設以来50年以上にわたり、膠原病の治療・研究・教育の最先端を追求し続けています。今なお進歩し続ける膠原病治療について、膠原病・リウマチ内科教授の田村直人先生にお話を伺いました。

膠原病に含まれる病気は数十種類

膠原病とは、ひとつの病気を指す名称ではなく、骨・軟骨・筋肉などの結合組織や血管の変性という特徴的な所見があり、全身のさまざまな臓器に慢性的な炎症が見られる病気の総称です。免疫の暴走が発症原因だとされていて、自分自身を異物だと認識して排除しようとするリンパ球や抗体が作られ、それらが慢性的な炎症を引き起こします。膠原病に含まれる病気はとても多く、代表的なものが関節リウマチです。日本国内に80万人以上の患者さんがいるとされている関節リウマチは、手指や手首、肘、肩、膝などの関節が痛み、熱をもって腫れるなどの症状があらわれます。


田村直人教授

そのほか、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、全身性強皮症、乾癬性関節炎、体軸性脊椎関節炎、皮膚筋炎・多発性筋炎、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、ANCA関連血管炎、結節性多発動脈炎、ベーチェット病、リウマチ性多発筋痛症、IgG4関連疾患、その他稀な疾患も含めると、その数は数十にもおよびます。また、これらの多くは国が定める難病に指定されています。関節リウマチは30代から50代の女性に多い病気ですが、最近では50代以上、または高齢での発症が増えています。関節リウマチに次いで患者数が多い全身性エリテマトーデスは、軽症を含めて10万人くらいの患者数といわれています。こちらは20代から40代の若い女性に多く発症します。

病気によって、患者さんによって症状のあらわれ方はさまざま

症状は病気の種類によって違い、同じ病気でも患者さんごとに症状のあらわれ方、時期、強さなどは大きく異なります。多くの病気で共通している症状は、炎症が起きている関節や筋肉の症状、皮膚症状、発熱、倦怠感などです。全身性エリテマトーデスは特に症状が多彩で、関節の痛み、発熱のほか、腎炎を発症して腎臓の機能が悪化するなど、さまざまな症状が見られます。シェーグレン症候群は口や眼の乾燥症状が特徴的ですし、ほかの病気では発疹などの皮膚症状、長く続く発熱などで病気がわかることがあります。症状が多彩であるため、関節の痛みで整形外科、皮膚症状で皮膚科というように、ほかの診療科を受診して、最終的に当科にご紹介いただく患者さんも少なくありません。膠原病内科医は、症状などからどのような病気なのかを想定し、血液検査やCT検査などの画像診断を行って他の病気を除外して診断をしていきますが、確定診断が難しい場合も少なくありません。

一部の膠原病では、血液中の自己抗体(自分の細胞などの成分に反応する抗体)を調べることで、病気の診断を行うことができます。関節リウマチでは、X線検査、超音波(エコー)検査などの画像診断で、関節の骨、関節滑膜の炎症や腫れの程度、状態を調べます。さまざまな膠原病で肺や心臓、腎臓などに病変がみられるため胸部CT検査、心臓超音波検査、尿検査なども重要となります。血液検査や画像診断などでもはっきりとした診断がつかないときは、組織の一部を採取する組織生検を行い、顕微鏡で調べる病理検査が必要になります。

新しい薬が登場して大きく変わったリウマチ治療

膠原病に対する治療は、免疫を抑えるステロイド薬と鎮痛薬が中心でしたが、関節リウマチに関しては、20年ほど前から新たな画期的な治療薬が次々に登場して治療や経過が大きく変わりました。現在の関節リウマチ治療は、免疫異常に働きかけて過剰な免疫を抑える抗リウマチ薬(メトトレキサート)の内服が一般的です。メトトレキサートにより、痛みや症状、リウマチの進行が抑えられるようになりました。その後登場した生物学的製剤(TNF阻害薬やIL-6阻害薬など)は、化学的に合成した薬ではなく、人体で作られているたんぱく成分を生物学的手法で作製して治療薬に応用したもので、点滴や皮下注射によって投与します。また、炎症を起こす複数のサイトカインという物質をピンポイントで阻害するJAK阻害薬(飲み薬)もあります。

関節リウマチでは骨や軟骨が破壊され、進行すると変形などにより関節が使えなくなりますが、生物学的製剤やJAK阻害薬は痛みや炎症を抑える効果に加えて、骨・軟骨破壊を抑える効果も強いことがわかっています。また、骨破壊を防ぐだけでなく、壊れた骨が再生するケースもよくみられてます。早期に治療を始めることができれば、そのまま症状が進行することなく寛解(痛みや炎症がない状態)を維持することが期待できます。進行してから治療を始めても手遅れということはなく、それ以上進行させないことが大切で、痛みや炎症を抑えてQOL(生活の質)を向上させるための治療を行います。

いかにステロイド薬を減らすかが治療のポイント

関節リウマチに対しては新しい治療薬が開発され、さまざまな選択肢があるのに対して、未だに膠原病の中にはステロイド薬しか選択肢のない病気が数多くあります。しかし、そのような病気についても、できるだけステロイド薬の投与量を減らすことが重視されています。そのため全身性エリテマトーデスなどでは、ステロイドに替わる治療薬の開発が進み、今まさに多数の治験が進行中です。ステロイド薬は、からだの副腎という臓器から作られる重要なホルモンである副腎皮質ステロイドというホルモンを合成により作った薬で、炎症や静める作用や高用量では免疫を抑える作用に優れています。効果も早く、膠原病のような免疫異常が関わる炎症性疾患にはとても有効なのですが、さまざまな副作用があることが問題視されています。ステロイド薬服用により免疫を抑えることで感染症にかかりやすくなるほか、糖尿病、高血圧、白内障、消化管潰瘍などを合併することがあります。特に女性では、長期間服用による骨粗鬆症という問題があります。
だからといって、急にステロイド薬の服用を止めるとショックを起こす恐れがあり、副作用以上に危険です。自己判断で服用を止めたりせず、必ず医師の指導のもとで適正に薬を服用することが重要です。

専門的な治療のための入院も

一部の膠原病に対しては、血液を体外循環させて血中の有害物質を浄化する血漿交換療法を行い、自己抗体や炎症を起こすサイトカインなどを除去する治療を行います。その効果は一時的ではありますが、短時間で効果があるため、状態が急激に悪化して入院中の患者さんや、何らかの理由で薬が使えない、薬の効果がすぐには得られないといった場合に用いられます。

膠原病の診療は多くは外来で行いますが、診断のための検査や初回の治療で高用量のステロイド薬や点滴での治療が必要な場合などは、入院して治療を行います。また、高熱が続く、肺や腎臓など内臓の病変がみられるなどの場合も入院して治療することになります。順天堂の膠原病・リウマチ内科の入院治療では、内科全般、整形外科・スポーツ診療科、皮膚科、産科・婦人科、小児科・思春期科、メンタルクリニック、耳鼻咽喉・頭頸科、眼科などの診療科と連携し、病態や合併症に合わせた、より専門的な治療を行っています。

日本初の膠原病専門の診療科として治療や研究を牽引


順天堂大学の膠原病内科は、1969年に日本で初めて設立された膠原病専門の診療科であり、様々な膠原病の患者さんが多数、通院されております。開設以来、膠原病の病態解明や治療法開発のための研究を継続して行っており、現在も数多くの臨床研究や治験を実施しています。診療に関しては、幅広い膠原病に対する高い専門性を持つ約55名の医師たちが、患者さんのQOL向上に向けて、新規治療薬なども取り入れた最善の治療を進めています。私自身も、全身性エリテマトーデスや血管炎、脊椎関節炎などの診療ガイドライン作成メンバーであり、厚生労働省の難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班の研究代表者を務めています。ANCA関連血管炎や高安動脈炎、巨細胞性動脈炎などの血管炎の診断・治療についても豊富な実績があります。

将来の診断や治療につながることを見据えた基礎研究にも力を入れており、全身性エリテマトーデスなどについては、免疫病態の解明、薬剤治療との関連などの臨床的研究から、患者さんの血液検体を用いた研究、臨床のコホート研究まで、幅広い研究を展開中です。最新の研究では、免疫を抑える制御性T(Treg)細胞に着目しています。全身性エリテマトーデスの患者さんではこの細胞の働きが低下している可能性があるため、患者さんに研究へのご協力の同意をいただき、血液から制御性T細胞を取り出し、体外で活性化させてから再び患者さんの体内に戻す細胞療法の研究を共同で進めています。同じように、患者さんの血液から取り出して体外で遺伝子改変したT細胞を体内に戻し、抗体を作る細胞を攻撃させる最新のCAR-T細胞療法についても、まもなく治験に参加する予定です。

QOLを向上しながら、最適な治療を提供していく

膠原病は病気の種類が多く、同じ病気でも患者さんごとに症状のあらわれ方や進み方がかなり異なります。今後は遺伝子や細胞レベルで一人ひとりに合わせた個別化医療が進んでいくでしょう。そのような未来を見据えつつ、最新の知見に基づいた現時点での最適な治療を提供することを進めていきます。治療を進めるにあたっては、患者さんやご家族にも、ご自身の病気のことをよく理解していただくことが大切です。病気や治療によっては生活が制限されることがあり、ときにはご自分で工夫していただくこともあり、またご家族のサポートが必要になります。例えば関節リウマチでは、ある程度安静にする必要がある一方で、しっかりと関節を動かしていないと、関節が動かなくなってしまう可能性があります。どの程度なら適度な運動といえるのか、本人の感覚によるところも大きいですから、担当医と相談しつつうまく病気とつき合っていただきたいと思います。

若い女性に発症が多い全身性エリテマトーデスなどでは、仕事や学校、妊娠・出産などの問題にも直面しますが、治療を続けながら妊娠・出産も可能です。そのために産科・婦人科、小児科・思春期科などと連携した治療も行っています。
私たちは、多くの患者さんの診療から豊富な経験を持っており、病気や治療のことはもちろん、QOL(患者さんの生活の質)に関わるさまざまな問題についても寄り添えるような医療者でありたいと思っています。気になることなどあれば、お気軽にご相談ください。

Profile

田村 直人 TAMURA Naoto
順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病・リウマチ内科 教授/臨床研究・治験センターセンター長/順天堂大学医学部内科学教室・膠原病内科学講座 主任教授

1987年順天堂大学医学部卒業。同大学医学部附属順天堂医院内科にて臨床研修の後、同膠原病内科に入局。順天堂伊豆長岡病院(現静岡病院)内科助手を経て、1994年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)リウマチ科リサーチフェローとして留学。帰国後は順天堂大学医学部膠原病内科准教授などを経て2017年より現職。厚生労働省難治性血管炎の研究代表者を務めるなど、膠原病の病態解明、治療法開発などの研究にも注力。日本リウマチ学会理事。主な専門分野は、リウマチ・膠原病内科学、臨床免疫学。

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