SPORTS

2022.04.01

スポーツを支える学生が感じる「スポーツの力」とは?【前編】

スポーツの舞台で挑戦し続けるアスリートの姿は、これまでにも多くの場面で人々に勇気や感動を与えてきました。このように人の感情を引き出したり、感情を揺り動かすことができる"強い力"を持つのが、スポーツの魅力と言えるでしょう。そんな「スポーツの力」は、アスリートだけでなく、それを支える人たちにも、たくさんの価値をもたらしています。スポーツ健康科学部で学びながら「支える側」「広げる側」としてスポーツに関わる学生たちに、それぞれが感じるスポーツの力と価値、順大での学びで広がるスポーツの可能性について聞きました。

学生4人のインタビューはこちらをご覧ください。

選手に寄り添い、共に成長するマネージャーに

鶴我 真弓さん TSURUGA Mayumi

①学科・学年:スポーツ健康科学部 健康学科 4年
②ゼミ名:社会福祉学ゼミナール
③部活動:ハンドボール部(女子)/ マネージャー

支えてくれた人への感謝から“支える側”に

中学まではバスケットボールの選手でしたが、高校・大学の7年間はハンドボール部のマネージャーとして選手を支えることに力を尽くしてきました。
私が選手を支える側に立ちたいと思うようになったきっかけは、中学3年でバスケットボール部のキャプテンになったことです。チームや自分のプレーについて悩むことが多かったのですが、先生方や保護者の方にアドバイスをいただきながら、最後までやり遂げることができました。その時、支えてくれる人がいる心強さと、スポーツは選手だけではできないことを強く感じました。そして、“支える側”としてスポーツに関わることに興味を持つようになり、高校ではマネージャーになることを選びました。
マネージャーの仕事は、練習中の計時係、練習場所の確保、金銭面の管理、書類作成をはじめ、大会登録や練習試合の調整など多岐にわたります。特にここ数年は、新型コロナの影響で練習時間や場所が制限されているため、決められた時間の中で何ができるかを考えることや、ほかの部や大学との調整にとても苦労しました。その一方で、こうした土台づくりがあるからこそスポーツができるということを、このコロナ禍で改めて実感できたように思います。高校の時は、選手を指導することも、チーム運営をすることも先生が担っていました。しかし、大学では、チーム運営の主体が「学生」に移ったことで、チームをまとめる役割の大きさを常に感じています。
また、大学外では、日本ハンドボール協会のナショナルトレーニングアカデミー(NTA)事業に携わり、運営スタッフとして、中高生選手の育成サポートにも取り組んできました。学外で活動の幅を広げられたことは、順大のネットワークがあったからこそだと思っています。大学で学んだことを活かしながら、今後も“支える側”として、競技に積極的に関わっていきたいです。

選手の異変にいち早く気付いてサポート

「マネージャー」というと、雑務や事務作業のイメージが強いかもしれません。しかし、一番の役割は、“チームの練習が円滑に進むためにサポートする”ことです。そのうえで、私は、選手の体や心の異変にすぐに気づき、声を掛けることができる存在になることを一番に考えて努力してきました。中学時代の私がそうであったように、プレーや人間関係で悩みを抱える選手は少なくありません。競技面のアドバイスはなかなかできませんが、悩みを聞くだけで選手の気持ちが落ち着き、問題解決の道筋が見えてくることもあります。選手の表情や言葉ににじみでる悩みの“サイン”を見逃さず、タイミングを見計らって声を掛けることはとても難しいですが、それができるようになったのは7年間のマネージャー経験の賜物だと思っています。選手が悩みを乗り越えてプレーしている姿を見るのは、自分のことのように嬉しいです。その喜びが、選手を支えるエネルギーになっています。
選手の話を聞く時には、授業で受けた「発達心理学」の学びを生かして、自分の言葉を挟まずに、選手の話にじっくり耳を傾ける「傾聴」の姿勢を大切にしています。また、スポーツマネジメントに関する授業では、お金や人材の活かし方、企業運営についても学びました。授業で得ることができた知識が、部活動のチームマネジメントにも役立ったと思います。部活動に関わるうえでも、スポーツ健康科学部で学んだからこそ理解できること、共感できることがたくさんありました。
また、順大の各クラブには、選手以外にも多くの学生スタッフが所属し、先生方と意見を交わしながら部を運営しています。ほかの部のマネージャーとはよく情報を交換し、良いところはお互いに真似をして、より高いレベルで活動できるよう切磋琢磨しています。支える側としての良い経験と学びが得られる環境も、スポーツ健康科学部ならではの魅力です。

マネージャーとして選手に寄り添ってきた鶴我さん(写真左端)

“チームの顔”となれるマネージャーに

私は、マネージャーは「チームの顔」だと考えています。大学の4年間では、日常生活から選手の手本となって、誰に見られても恥ずかしくない行動ができるよう、常に意識してきました。そうした雰囲気がチーム全体にも広がって、周囲から「良いチーム」と称えられるようなチームになることが、マネージャーとしての私の目標でした。その思いは、後輩のマネージャーや選手たちが受け継いでくれると思っています。
 長い間、部活動のマネージャーとして選手に寄り添い、チームが勝った時には「結果に繋がる環境をつくることができた」という達成感と喜びを味わってきました。卒業後も、この経験は生きると信じています。スポーツを通して学んだ「他者に寄り添い、支え、一緒に高め合う」ことを大切にしながら、私が感じてきた「支える側の魅力」をたくさんの人に伝えていきたいです。

鶴我さんが感じる「スポーツの力」とは?

関わる全ての人がお互いに高め合い、成長することができるもの。

初めて知った「勝つ喜び」とは違う世界

加藤 千聖さん KATO Chisato

①学科・学年:スポーツ健康科学部 健康学科 4年
②ゼミ名:教育学ゼミナール
③学外活動:NPO法人 B-Net子どもセンター 理事長

大学進学を機に“支える側”に

私が理事長を務めているNPO B-Net子どもセンター(以下、B-Net)は、順大の学生と、さくらキャンパスの隣に位置する千葉県酒々井町の方々が協力して運営しているNPO法人です。地域の小学校での放課後子ども教室、スポーツや自然体験のイベント、高齢者施設での健康体操教室、子ども食堂の運営など、子育て支援やまちづくりに貢献する事業を展開しています。
私がB-Netに参加した理由は、スポーツを「する側」とは違う視点から物事を見て、世界を広げたいと思ったからです。私は小学生の時にドッジボールチームで全国制覇を経験し、中学・高校はバレーボール部に所属。高校時代には関東大会にも出場しました。高校まで選手としてスポーツ漬けの毎日を送っていましたが、大学進学を機に競技から離れ、今までとは違う視点で、スポーツを通してさまざまな挑戦をしたいと思って入学したのが順大です。子どもは好きでしたし、ボランティアにも興味を持っていたので、入学後に啓心寮で同室だった先輩にB-Netに誘われた時には、ぜひやってみたいと参加を決めました。

「できる」より大切な「楽しむ」

B-Netでは、子どもたちが体を動かす機会をたくさんつくっています。放課後子ども教室では、宿題を指導した後にバドミントンや縄跳びをして一緒に遊び、スポーツイベントでもさまざまな競技の指導を行っています。そして、こうした活動の際に最も大切にしていることが、子どもたちにその日触れたスポーツを「楽しい」と思って帰ってもらうことです。そのために、子どもたちがそのスポーツのどんな要素を「楽しい」と感じるかを考え、簡単に楽しめるようにアレンジして取り組んでもらうこともあります。
高校時代までの私が感じていた「スポーツの楽しさ」は、仲間と一緒に練習して強くなること、そして試合に勝つことでした。「自分を鍛えて上手になる」、「勝たなければならないプレッシャーの中で勝ちきる」など、確かにスポーツにはそうした喜びや楽しさがあります。ただ、B-Netで子どもたちとスポーツをする中で見えてきたことは、それとは全く違う世界でした。たくさんのスポーツに触れ、たとえ上手にできなくても楽しいと思えることの大切さを、私はB-Netの活動を通して知りました。もちろん活動では「うまくできるようになるため」に指導をしていますが、心の中では「たとえできなかったとしても、楽しんでくれればいい」と思っている自分もいます。
その想いが通じたように思えたことが、先日企画したドッジボールのイベントでした。うまくボールを捕って投げることができない子が多く、みんなが楽しめるか不安もありましたが、私たちは大げさなくらい大きなリアクションで喜んだり褒めたりして盛り上げました。するとイベントが終わった後、うまくできなかった子のうちの一人が「すっごく楽しかった!」と嬉しそうに言ってくれました。上手にできなくても楽しんでくれたことが表情からも伝わってきて、私も本当に嬉しかったです。スポーツを楽しむ子どもたちの無邪気な反応や笑顔を見られた時が、一生懸命イベントを企画してよかったと心から思える瞬間でした。

スポーツイベントの最後に子どもたちと(前列左から2番目が加藤さん)

子どもの自信を育む教員になりたい

スポーツを「する側」から、スポーツをする人を「支える側」になったことで、自分が変わったと思うことがもう一つあります。それは、物事の中心が“自分”から“周囲の人”に移ったことです。プレーヤーだったころの私は、いつも「自分が」勝ちたい、「自分が」うまくプレーしたいと考えて行動していました。B-Netで活動するようになってからは、「子どもたちが上手になるには何が必要だろう」、「B-Netの仲間が楽しく活動するためにどうすればいいんだろう」と周りの人を軸に物事を考えるようになり、見える世界がより広がったように思います。
大学では特に特別支援学校の教員になるための勉強に力を入れてきましたが、授業での学びを活動に活かすことができています。B-Netのイベントでは、簡単な動きから始めて徐々にステップアップするなど、子どもたちが成功体験を積み重ねられるように工夫しています。そのメニューを考える時には、教職課程で学んだ知識を活かしています。また、障がいがある方や高齢者の健康に対するアプローチを学んだことも、高齢者施設での活動などで役立っています。順大には、自分と同じような経験を持ち、同じような想いを抱いて入学してきた仲間が多く、本当に分かり合える友人と出会えたことに感謝しています。
卒業後は特別支援学校の教員になり、これまでとは違う立場で子どもたちと関わります。ただ、子どもたちが自分に自信を持てるように支えていきたいという想いに、変わりはありません。子どもたちにはさまざまな挑戦をして、その中から自分が得意なことを見つけてほしいと思っています。「B-Netで取り組んできたことを活かし、子どもの成長の糧になる経験を提供できる」と信じて、自信を持ってこれからも子どもたちに関わっていきたいです。

教育学ゼミナールの牛尾直行先任准教授と

加藤さんにとって「スポーツの力」とは?

人と人とをつなげてくれるもの。人と人とのコミュニケーションには、言葉、アイコンタクト、動作などさまざまな方法がありますが、スポーツにはそれが詰まっていると思っています。

※本記事は、2021年12月に取材を行っています。

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