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2019.03.22
スポーツボランティアの学生がパラスポーツ「ゴールボール」を小学生に指導
順天堂大学は、平成29年度より2年連続でスポーツ庁「大学スポーツ振興の推進事業」に採択され、障がい者スポーツ(パラスポーツ)をテーマに、産・学・官・スポーツ団体の協働によるモデル事業に取り組んでいます。2018年1月26日には、一般社団法人日本ゴールボール協会、一般社団法人日本ボッチャ協会と、それぞれ連携協力協定を締結。パラスポーツ(障がい者スポーツ)競技である「ゴールボール」と「ボッチャ」の強化・普及活動や、指導者を目指す学生の教育、指導教材の開発などを進めています。活動の一環として、2019年2月には、本学スポーツ健康科学部の学生・大学院生が中心となって、千葉県印西市内の小・中学校7校で「ゴールボール体験会」を行いました。その中から、2月8日に印西市立いには野小学校の5年生に向けて行った体験会の様子をご紹介します。
ゴールボール体験会の様子を動画でご覧いただけます
パラスポーツ体験会を契機に競技の普及と学生の成長を目指して
2020年東京パラリンピックでは、さまざまな障がいを持つ選手が22競技で競い合います。「ゴールボール」もその一つ。順天堂大学では日本ゴールボール協会と連携協力協定を締結し、スポーツ健康科学部がある千葉県内の小中学校でゴールボール体験会を定期的に実施しています。
「体験会には必ず学生を同行させ、学生が中心となり子どもたちにゴールボールを指導します」と語るのは、パラスポーツ指導者の育成に取り組むスポーツ健康科学部准教授の渡 正先生です。「本学部の学生は体育の教員を目指す人が少なくありません。学生は体験会で子どもたちと触れ合うことで成長し、ひいてはパラスポーツ指導者の育成にもつながっていきます」
渡先生によると、体験会を経験することで学生は子どもたちとの接し方を覚え、将来について具体的に考えるきっかけを得ています。同時にパラスポーツへの造詣が深まり、日常のさまざまな場面で障がい者など他者に配慮する気持ちが強まります。その効果は、「たった1日でも学生の変化が感じ取れるほど」(渡先生)だと言います。
スポーツボランティアの機会を学生に
学生と大学が協働しながらパラスポーツを推進
順天堂大学では、パラスポーツの指導者育成を進める一方で、パラスポーツに関心のある学生がスポーツボランティアに関わるための仕組みを整備しています。多くの学生がパラスポーツとの接点を持てるよう、学生ネットワーク「Para Sports Support Network in JUNTENDO(PaSSNet)」をつくり、PaSSNet登録学生には、パラスポーツイベントやボランティア情報を大学側から提供。希望する学生は、大学と協力連携関係にある自治体や日本ゴールボール協会、日本ボッチャ協会が実施するパラスポーツ体験会やイベントなどに運営スタッフやボランティアとして参加することができます。
2018年5月には、このPaSSNet登録学生の中でも特にパラスポーツへの関心が高い学生たちが「障がい者スポーツ同好会」を設立。順天堂大学では、「学生と大学が協働しながらパラスポーツの普及・推進に取り組んでいます」(渡先生)。
今回の体験会の対象となるのは、いには野小学校の5年生2クラス(76名)。クラスごとに分かれ、2回に渡って実施されました。体育館に集まった子どもたちにゴールボールを指導するのは、「障がい者スポーツ同好会」に所属するなど、スポーツボランティアに取り組むスポーツ健康科学部の学生・大学院生たち。大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程1年の吉原 奈美さんが中心となって指導者役を務めました。
「パラリンピック」は知っていても、実際に「ゴールボール」をやるのは、この日が初めての子どもたち。初めてのスポーツに興味津々の様子です。
「ゴールボール」とは?
ボールの“音”だけを頼りにゴール数を競う団体競技です
では、ゴールボールとはどんなスポーツなのでしょうか?
ゴールボールはバレーボールと同じサイズのコートを使い、両サイドにサッカーのようなゴールを設けます。選手は2チームに分かれ、全員がアイシェード(目隠し)を装着。これは視覚障がい者にもさまざまな視力の程度があることを踏まえて、全員を平等な状態にするためです。
攻撃側は床に転がすようにボールを投げます(これをスローといいます)。ボールには鈴が入っており、守備側は鈴の音やボールが転がる音を頼りにキャッチするとブロック成功。ボールをキャッチできず、ゴールに入ると攻撃側の得点になります。投げる人は1名ずつで、守備をする人は3名。守備位置にはあらかじめ凹凸のあるラインテープが3本引かれており、目の見えない人もラインテープを触ることで自分のポジションが確認できる仕組みです。守備をする人は両手を床につき、スパイダーマンのような姿勢で低く構えます。そしてボールが近づいてきたら、両手両足を思い切り伸ばし、ボールをブロック。攻撃側は相手の逆をついて、ブロックしづらいところに投げることがポイントです。
小学生が守備練習に挑戦!
“スパイダーマン”のポーズから「右」へ「左」へブロック!
子どもたちがおおよそのルールを理解したところで、吉原さんをはじめとした学生指導員による、デモンストレーションと守備練習が始まりました。
吉原さんが「はい、スパイダーマンのポーズ!」と告げると、子どもたちは周囲の学生指導員の真似をしながら、一斉にポーズを取ります。そして、ボールが右側に来たら右足で床を蹴って、全身を右側へ投げ出します。左側に来たら、腕の力を使って左方向へ全身を滑らせ、左側の進路をブロック。体育館の床の上で、子どもたちは右へ左へ身軽に体を滑らせ、意識して両手両足を伸ばします。何度か繰り返すうちに、どんどん動きが自然になり、吉原さんから「素晴らしい!」と称賛の声が。
続いて全員がアイシェードを装着。すると子どもたちから「全然見えない!」と驚きの声が挙がります。さらに、吉原さんから次のような注意事項が説明されました――ゴールボールは目が見えない状態でおこなうスポーツ。音だけが頼りだから、ボールを投げるときはみんな静かに。審判が「クワイエット・プリーズ(お静かに)」と言ったら、静かにしてボールの行方に集中すること。そしてゴールが決まったら、全員で思い切り喜ぶこと。「しっかりメリハリをつけようね」という吉原さんの言葉に、子どもたちは深くうなずいていました。
「ミニゲーム」がスタート!
スロー&ブロックでの“かけひき”や、スローの正確性が勝敗を分ける
さて、いよいよミニゲームのスタートです。
3人1組に分かれたチームが順々に攻守を切り替え、吉原さんの「クワイエット・プリーズ」の掛け声と笛を合図に、1人1回ずつスロー。通常のゴールボールでは攻守ともにアイシェードを装着しますが、今回はミニゲームなため、スローする側はアイシェードを外して投球。学生指導員が見守る中、子どもたちは交代しながら、スロー&ブロックを繰り返します。
アイシェードをしてボールを受けることに、最初こそ不安を感じて戸惑っていた子どもたちですが、2巡目のスローになると、「クワイエット・プリーズ」の合図でボールの音に耳を傾け、思い切り手足を伸ばして床の上を滑ります。何度かブロックされるとスローする側も「どこに投げれば決まりやすいか」学習し、ゴールの両端を狙うように。ブロックする側が両端の守備を意識するようになると、次は裏を取ってど真ん中にスロー。学生指導員のアドバイスも聞きながら、スロー&ブロックを繰り返します。意外性のあるゴールが決まると、全員がワッと盛り上がり、学生指導員と子どもたちの間で笑顔とともに「ナイスボール!」の掛け声が飛びました。サッカーのPK戦のように、相手の意図の読み合いやスローの正確性が勝敗を分けることが伝わってきます。
ミニゲームの時間は30分。学生指導員たちがコート2面の要所要所に立ち、子どもたちに声をかけながらゲームを進め、あっという間に時間が過ぎていきました。
最後に…
ルールや道具を少し工夫することで、障がい者もスポーツを楽しめる
学生指導員による体験会が終わると、スポーツ健康科学部助教の中丸信吾先生から子どもたちにお話がありました。
「普段見えているものが見えないと、みんな不安だったでしょう。でも、音がするとわかるし、床にテープがあるとわかる。ちょっと工夫すれば、目の見えない人もスポーツを楽しめるんです」
実際にゴールボールを体験した子どもたちは、中丸先生の言葉を実感とともに受け止めている様子です。
「障がいのある方々は普段の生活で困っていることがたくさんあります。私たちはどんな工夫をすればその人たちと一緒にいろいろなことを楽しめるのか、考えなくてはなりません。障がい者をはじめ、様々な人が住みやすい“インクルーシブな社会”を、スポーツを通じて創っていきましょう」
今回、学生指導員の指導のもと、ゴールボールを初めて体験した子どもたち。中丸先生が投げかけた「ゴールボール、楽しかったですか?」の言葉に、子どもたちみんなが笑顔で大きく手を上げ返事をしてくれました。
体験会参加者の声
いには野小学校5年1組 河津 宏幸さん
「ゴールボールを見たのも知ったのも今日が初めてです。スローする時は、 どこへ投げればいいかをみんなで相談し、いろいろ作戦を立てました。ミニゲーム中、僕が投げた時は相手が飛び込んで来てブロックされてしまい、“どうすればいいか、もっと考えないといけないな”と思いました。今日の体験会のことは家に帰ってお父さんやお母さんに話したいです。2020年東京パラリンピックでは幕張メッセでゴールボールの試合があるので、ぜひ見てみたいです!」
いには野小学校5年1組 海老原 知記さん
「僕は地域の少年サッカーチームでゴールキーパーをしています。ゴールボールはTVニュースで見たことはあったけど、するのは初めて。実際に体験してみて、“サッカーに似ている!”と思いました。楽しかったのは、目が見えないので音だけでボールの行方を判断すること。難しかったのも目が見えないことで、どちらに転がってくるのか音だけが頼りだということ。僕の手の先をかすめてゴールを決められた時は、とても悔しかったです。今日の体験はサッカー仲間に絶対話したいと思います」
いには野小学校5年1組担任 矢部 哲男 教諭
「ゴールボールを体験するのは、私を含めクラス全員、今日が初めて。学生の皆さんからゴールボールを教わり、子どもたちはみな“楽しかった”と言っていますし、体験できて本当によかったです。普段の体育の授業ではどうしても運動技能の差が出て上手な子どもが中心になってしまいますが、ゴールボールにはその差がありません。どの子も活躍できるスポーツですね。
世の中には、いろいろな人がいて、どうしたらみんなが楽しく生活していけるか、スポーツを通して子どもたちが考える機会になりました。小学5年生という時期に、このようなパラスポーツ体験ができるのは、とてもいいことだと思います」
学生指導員の声
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程1年 吉原 奈美さん
「私の将来の夢は特別支援学校の教員になること。そのためパラスポーツの知識と体験を深めたいと思い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科に進学しました。ゴールボールやボッチャのナショナルチームのメンバーが順天堂に在籍していますので、パラスポーツに関われる可能性が高いと感じます。
2018年4月から、ゴールボール体験会の学生指導員を数え切れないほど経験しました。ゴールボール自体が楽しいので、子どもたちからは“もっとやりたい!”という声をよく耳にします。また、子どもたちがスポーツを通して障がいについて理解を深めていく様子も目の当たりにしています」
順天堂大学スポーツ健康科学部2年 坂口 ちひろさん
「パラスポーツに興味があり、大学の「障がい者スポーツ同好会」に入会。さまざまなスポーツボランティアの依頼がある中で、今回、初めて体験会に指導員として参加しました。
体験会の間、子どもたちがみんな楽しそうにやっている姿が、とても印象的でした。とくにゴールシーンが盛り上がります。これからも子どもたちに競技への興味をもっと持ってもらえるように、活動していきたいです。
将来は地方公務員になって、パラスポーツを広めるのが夢。そのためにも学生時代に多くのパラスポーツ体験会に参加し、経験を積みたいです」
印西市内の小・中学校で実施したゴールボール体験会
1)いには野小学校【日時:2019年2月8日(金)、対象:5年生(2クラス 76名)】
2)滝野小学校【日時:2019年2月12日(火)、対象:4年生(2クラス 65名)】
3)印旛中学校【日時:2019年2月14日(木)、対象:1年生(4クラス 133名)】
4)西の原小学校【日時:2019年2月15日(金)、対象:4年生(3クラス 81名)】
5)小林小学校【日時:2019年2月19日(火)、対象:6年生(1クラス 18名)】
6)木下小学校【日時:2019年2月22日(金)、対象:4年生(2クラス 53名)】
7)西の原中学校【日時:2019年2月28日(木)、対象:2年生(5クラス 170名)】