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2024.10.01

24時間体制で命の最前線に立ち続ける~「チームで守り、医療で攻める」順天堂救急科~

順天堂救急科(救急災害医学講座/救急科)は、一般外来患者の初期診療だけでなく、24時間体制で事故による外傷などの救急疾患、意識障害・腹痛などの急性期疾患に対応しているほか、敗血症の病態解明や創薬の研究にも注力しています。一刻を争う救命救急の現場で、日夜奮闘し続ける順天堂救急科について、近藤 豊 主任教授に伺いました。

心肺停止から頭痛やめまいまで幅広い疾患に対応

――順天堂救急科の特徴と現在注力していることを教えてください。
順天堂医院救急科は、地域の救急拠点病院として年間約7200台の救急車を受け入れています。当院は一般外来患者の初期診療だけでなく、心肺停止、外傷、中毒、ショック、敗血症、熱傷、熱中症、アナフィラキシーといった救急疾患や、意識障害、頭痛、めまい、発熱、胸痛、動悸、腹痛、吐気、下痢などの急性期疾患の診療も行っています。院内患者の急変時などにも対応しており、とても幅広く対応しています。

どんな患者さんでも幅広く受け入れている救急科ですが、全体の割合として内科的疾患の患者さんが多いという特徴があります。その中でも特に注力しているのが敗血症で、長年にわたって敗血症研究に取り組んできた実績があり、現在も積極的に進めています。

近藤 豊 主任教授

――敗血症とはどういう病気なのでしょうか。
感染症が原因となって臓器不全に陥る病気を敗血症と呼びます。症状は多彩で、発熱やふるえ、息苦しさなどの呼吸器症状、腹痛などがあり、意識レベルが下がって血圧が低下する症状が典型的です。敗血症で救急科に搬送される状況もさまざまですが、最近は高齢化社会ということもあり、自宅で動けなくなっていたところを搬送されたら敗血症だったというケースが目立っています。
敗血症の原因となるのは呼吸器からの感染症が多いです。呼吸器感染症から肺炎になっても、ほとんどは臓器障害をきたさずに治癒するのですが、肺炎から敗血症に進展する高齢者が増えています。そのような場合は人工呼吸器や血圧を上げる薬を使って治療します。

sepsisの意味:敗血症

――敗血症にかかると治癒は難しいのでしょうか。
かつては30%~40%の人が亡くなる病気で、いかに救命するかが課題でしたが、死亡率は年々改善傾向にあり、10年くらい前には20%、現在は10%台まで下がりました。それでも約5人に1人は亡くなる病気なので、もっと有効な治療法や薬を開発する必要があります。

敗血症の病態解明と創薬に向けた研究を推進中

――研究で注力しているのはどのようなことですか。
当教室では以前から敗血症性DIC(播種性血管内凝固障害)という病態について研究してきました。これは、敗血症が原因となって凝固異常をきたすものです。その流れを引き継いで、現在は敗血症をより広く捉えた研究を行っています。

――具体的にはどのような研究をしているのでしょうか。
敗血症自体は治療が進んで命が助かるケースが増えていますが、敗血症から回復した後に社会復帰が難しいことが大きな問題となっているので、妨げになっている要因のひとつである脳機能低下に注力した研究を行っています。高齢者の敗血症では、敗血症性脳症により認知機能の低下が見られます。その背景には炎症性サイトカイン*2の脳への作用が考えられているため、敗血症によって炎症性サイトカインが脳へ移行する仕組みやその作用を研究しているほか、炎症性サイトカインの産生を抑え、脳保護作用を有する物質が脳へ移行できるような治療法を模索しています。
また、敗血症は筋肉が萎縮して運動機能が低下します。ここにも炎症性サイトカインの作用があると考えられるため、敗血症による筋萎縮のメカニズム解明と新規治療薬の開発も目指しています。

 

*2炎症性サイトカイン・・情報伝達物質であるサイトカインの中でも、細菌やウイルスが体の中に入ってきたときに情報を伝達して炎症反応を促進させる働きをする

――研究室でほかに取り組んでいる研究はありますか。
より実際の医療に近い研究として、病院所有の救急車の有用性を検討しています。病院救急車は患者さんの緊急搬送のみならず、医師が同乗して救急対応にあたることもあり、多様な目的で利用することが可能なので、利用実態などと合わせてより良い活用法について分析を進めているところです。
私自身は、敗血症のメカニズムを解明するという基礎的な研究と、敗血症患者さんの医療ビッグデータを使った臨床研究の二本柱で進めてきました。留学中は海外の患者データを使った研究を行ってきたので、それらを国内のデータと比較するなど、さらに大規模に展開していきたいと考えています。

――内科から外科、そのほかの領域まで幅広い知識や経験が問われる救急科ですが、教育で重視しているのはどんなことですか。
学部生に対しては、救急医療を通じて、どの診療科に進んでも急変時に適切な対応力を持つ人材を育成したいと思っています。そのため医師として知っておいてほしいことを幅広く教えることを心掛けています。
 一方、大学院生に対しては、一つの研究テーマを深く掘り下げることを学んでほしいので、それぞれの興味があることを掘り下げていけるような教育を重視しています。

各科と連携しながら24時間体制で救急医療を提供

「チームで守り、医療で攻める」

――救急科では、一刻を争う状況の中、どのようにして病気を見極めて治療しているのでしょうか。
普通の診療科では、まず適切な診断をつけることが非常に重要で、その診断にもとづいて治療をします。しかし、救急科の場合には正確な診断に加えて、治療を早くしなければいけないという側面があり、その両方を常に意識する必要があります。
もちろん正確な診断は大切ですが、そのために治療が遅れてはいけないので、まず「急を要する疾患かどうか」を見極めます。そこで急ぐ必要があると判断したら、診断がつかなくても救命のために治療をすることがあります。例えば心臓が止まった患者さんが搬送されてきた場合、心臓が止まった原因がわからなくても救急では心拍を再開させる治療を始めます。それによって心拍が再開して状態が落ち着いてから診断をつける、といった普通の診療科とは違う流れになります。

――状態が良くなった患者さんはそれぞれの診療科に送るのですか。
症状が落ち着いたら帰宅してもらったり、専門の診療科で診てもらったりすることもありますが、その後も救急科で診るほうがいいケースがあります。例えば、薬の大量服用や何らかの中毒などで救急搬送されて処置後入院になったり、肺炎の人が転んで骨折するなど複数の診療科にまたがる治療が必要になった場合や、敗血症のような重症な病態のときには救急科でそのまま入院して治療します。
そのために当院救急科はHCU(準集中治療室)16床、一般病棟11床の計27床があり、入院治療ができるという強みもあります。例えば救急搬送されても骨折だけならば整形外科に入院となりますが、複合的な疾患を抱えた患者さんがとても多いため、重症から軽症まで救急科で入院治療ができる体制を整えています。

――24時間体制で診療するために努力していることなどありますか。
救急では色々な価値観を持った医師が多く、多様性に富んでいます。そのため輪を大事にしながら、協調性を重視したチームづくりを心がけています。同時に、救急医療では積極的な診療が求められますので、「チームで守り、医療で攻める」ような体制を目標に、日々運営を行っています。

救急医療と災害医療の拠点として地域に貢献していく

――先生ご自身はなぜ救急科を選んだのでしょうか。
かなり前から救急医療に対して強い思いがあり、救急科医になることを目的に医学部に入学しました。人の命と直結していて、多くの人の役に立つ仕事がしたかったので、救急科に行くことしか考えていませんでした。

――救急医学の難しさややりがいは何でしょうか。
救急医療ではさまざまな診療科が混じり合って方針を検討して治療を進めますが、意見が噛み合わないこともあります。そういうことに難しさを感じる反面、多様な価値観の中で進めることができるのはこの診療科の良さでもあると思います。
また、対象となる疾患がかなり幅広いので、こんなに長く救急医をやってきても未だに予想外の疾患に出会うことがあります。そんな奥深さと幅広さがあることも、難しさでありやりがいでもあります。

――命の最前線では厳しい現実に直面されることもあると思います。
 残念ながら救命できないことはあります。私が研修医をしていた病院は敗血症の患者さんが多く、重症敗血症の患者さんを救命できなかった経験を何度もしています。実は、そのときの悔しい思いが、大学院に進んで敗血症研究をしようとしたきっかけでした。

――今後に向けて、臨床と研究の目標を教えてください。
臨床については、救急科による主体的な診療をおこない救急車の受け入れ台数を増やすことを目標としています。また、重症患者対応の強化も積極的におこないます。都内では救急患者さんがかなり増えていますので、当院で受け入れる数を増やすことで地域の救急医療の質向上に貢献していきます。
また、当院は災害拠点病院でもありますので、DMATの整備や災害時の派遣、受け入れの体制も整備していきます。2025年4月にオープン予定の元町ウェルネスパークは災害時の救護所になることが決まっていますので、そちらも当院救急科と連携してシームレスな治療ができるような体制を作っていきます。さらに今後は、各附属病院との横の連携を強化して、順天堂大学全体で救急医療を充実させたいと考えています。

順天堂大学医学部附属順天堂医院 救急科HP :https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/kyukyu/

Profile

近藤 豊 KONDO Yutaka
順天堂大学大学院医学研究科救急・災害医学 主任教授
順天堂大学医学部救急・災害医学講座 主任教授
順天堂大学医学部附属順天堂医院 救急科長/救急プライマリケアセンター センター長
2006年琉球大学医学部医学科卒業。沖縄県立中部病院、聖路加国際病院で研修医を勤め、2010年から琉球大学大学院医学研究科救急医学講座勤務。医学博士号取得。米国Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School留学、順天堂大学浦安病院救急診療科、米国Harvard Medical School & Harvard Pilgrim Health Care Instituteを経て、2024年4月より現職。主な専門分野は敗血症、救急医学、集中治療医学。

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