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2025.05.14

1秒に笑い、7秒に泣いた経験をどう生かすか ~箱箱根駅伝での雪辱に向けて~

順天堂大学男子駅伝チームにとって、2024年度は〝1秒の重み〟を痛感した1年となりました。箱根駅伝予選会では、本戦に進めるギリギリの10位。出走10人の合計タイムは、11位とわずか1秒差という薄氷を踏む通過でした。一方、箱根駅伝本戦でも、最後の最後まで息詰まる競り合いを展開。今度はシード圏内の10位に、7秒届かず11位に終わり、悔し涙を流しました。箱根駅伝での雪辱に向けて、この1年どう戦っていくか。監督就任10年目を迎えた長門俊介監督と、主将という大役を担う石岡大侑選手(4年)に話を聞きました。

――既に新チームがスタートしています。チームの雰囲気はどうですか?
長門監督 「箱根駅伝の悔しい部分を受けて、非常にいい形でここまで来ています。今の4年生が最上級生になることを、不安に思っていたところもありましたが、いざ始まってみたら、これまで眠っていた部分が目を覚ましたというか、少しずつ最上級生としての自覚が芽生え始めています。主となるメンバーが存在感を出して、競技だけではなくて、私生活のところからチームを作っていこうという感じです」

長門監督

石岡主将 「今の雰囲気は今までの中で一番いいのかなって感じています。確かに当初は、自分たちの学年が本当に上級生としてやっていけるのかっていう不安はありました。ただ、上の学年がいなくなると同時に、『最上級生として下の学年から尊敬される学年になろう』とみんな口を揃えて言うようになりました。口で言ったからにはやはり行動で示さないといけない。皆それを考えて行動できているので、下の学年もついていきやすい雰囲気があり、うまくチームが回っている状況です。4年生が背中で引っ張るというより、チーム全体で押し合うというか。みんなで一緒にやっていこう、みたい雰囲気です」

石岡主将

――新チームの強み、弱みを教えてください。
石岡主将「強みは一人がタイムを出すと、他の選手もいけるという流れができやすいところですかね。4月に入って早々に1500mで大野(聖登、3年)が順大歴代3位の好記録をマークしましたが、その直後の記録会で今度は中川(拓海、3年)と吉岡(大翔、3年)がそれをさらに上回る歴代2、3位の記録をたたき出しました。弱みは他の大学に比べて層が薄いというところでしょうか」

――今年度のチームのスローガン「挑戦」には、どんな思いが込められていますか?

長門監督 「この『挑戦』というのが完全に決まったのは、2月後半に実施した23日の新4年生合宿です。ミーティングが中心なんですけど、その中で自分たちに足りないものとか、これからどう最上級生としてやっていかないといけないのかなどを話し合います。私も外から見ていましたが、すごく活発な意見が出ていました。私としては、スローガンはシンプルな言葉で、日頃から口にしやすいものだったらいいんじゃないかってことは伝えていましたが、あとは学生たちが決めました」

 

石岡主将 「箱根駅伝では力を出せなかったわけではなく、力を出した中であの順位でした。『力負け』でしたので、これからはその差を埋めるためにいろんなことに挑戦していかないといけません。今年は日程が結構タイトで、今までにないようなスケジュールの中でやっていく必要があります。新しい流れにも挑戦していかないといけないという前向きな意味を込めて決めました」

■箱根駅伝の粘走で確信

――石岡主将はどういう形で主将に決まりましたか?

石岡主将「当初は、自分達の学年からキャプテンを出せるかどうかという雰囲気でした。チームを引っ張っていけるような学年じゃなかったんです。箱根メンバーに絡んでるのも、自分達の学年は少なくて。ただ、最終学年が近づくにつれて、やはり自分たちの代からキャプテンを出さないといけない、という気持ちになりました。箱根駅伝のゴールの大手町で、先輩が涙を流してる姿を見たときには、自分たちの代はそういう終わり方は嫌だなっていう思いもわいてきました。自分がキャプテンになって、みんながあの場で笑って終われるようにしたい。箱根駅伝が終わった後、自分がキャプテンをしたいと監督に話をして決まりました。他の同期に聞いても、自分たちの学年になるんだから、自分たちでチームを作っていきたいっていう意見がありました。『期待されてない学年なんだから、最後ぐらいしっかり結果や雰囲気で見返してやろう』ということで、チームが動いています」

長門監督「私も結構、『下の学年から主将を出すことも考えてるよ』と言っていました。それぐらい心配していた世代だったんです。学年ミーティングで喧嘩をしているという話もあって、私がミーティングに顔を出したこともあります。石岡の直談判が無ければ、3年生からキャプテンを出していた可能性はありました。まあ、箱根駅伝前からちらっとは、石岡がキャプテンやりたいという話は耳に入ってきていました。私の気持ちが固まったのは、やっぱり箱根の走り。今まで彼の走りって、ぷつんと切れるところがあったんです。離れ始めたらもうレースに戻ってこないみたいな。それが前回の箱根駅伝で、何度も何度も戻ってきてくれました。シード権争いでしたけど、あそこまで持っていったっていうのは間違いなく9区で石岡が何度も苦しみながら戻ってきたおかげです。そこで本当はやれる男なんだなっていうことを確信しました。監督車に乗って後ろから見ていて、これで本人がキャプテンをやるって言うんだったら、任せてもいいかなって思いました」

2025年箱根駅伝。9区で力走する石岡選手

――石岡主将はどういうタイプのキャプテンですか?

長門監督 「西澤(侑真、2023年卒、現トヨタ紡織)は例外ですが、うちでキャプテンをやる子ってチームを引っ張っていくっていうよりも、一緒にやっていこうよ、っていうようなタイプが多いんです。周りを巻き込んで、穏やかにやっていくような。でも、石岡は1年生のときに強烈だった西澤も見ています。順大のキャプテンらしい穏やかさの中にも、西澤みたいにしっかり引っ張る力っていうのはあるのかなって感じています。石岡はキャプテンになってから、本当によく話をしに来るようになりました。『こうしたいんですけど』って。こちらからというよりも自らコミュニケーションを取ってきてくれるので、きっと他の学生たちにもそういうコミュニケーションを取っているのだと思います。こちらの意図を理解し、『自分自身が嫌われ役になってでも言っていかないといけない』とも言ってくれています」

――石岡主将はどんなリーダーが理想ですか?

石岡主将「自分が1年生の時に主将を務めていた西澤さんですかね。人としても、キャプテンとしても本当に言うことない素晴らしい方でした。自分に対しても厳しいですし、周りに対しても厳しい。言いたくないこともたくさんあったと思いますが、しっかり口にしていました。一方で、優しさもありましたが、それが甘さにはなっていませんでした」

 

長門監督「西澤のキャプテンシーというのは、自分に厳しく、人にも厳しくというもので、彼を尊敬する後輩たちは多くいました。西澤はいいキャプテンだったと思いますが、石岡が今のまま、みんなとコミュニケーションをしっかり取って、リーダーシップをとっていってくれたら、彼よりもいいキャプテンになるかもしれない、とも感じています」

――主将としてどんなチームを作っていきたいですか?

石岡主将「やはり結果が全てなので、結果を出していけるチームにするというのは、もちろんあります。そこにたどり着くために、チーム全員で大きな目標に向かっていくのが大事になってきます。今年でいうと『箱根駅伝5位以内』っていう目標があります。その目標に到達するために何が必要で、どうしたらいいかというのを一人一人が考えて、より良いチームを作っていきたいです」

■あの悔しさを忘れずに

2025箱根駅伝終了直後の報告会

――2024年度はどんなシーズンでしたか?

長門監督「これまで何度も言ってきていますが、予選会では1秒に笑い、本戦では7秒に泣きました。〝1秒の重み〟は学生たちも感じてると思いますし、私もここまで痛感することはありませんでした。1秒をどう削っていくかという気持ちで、真剣にやっていかないといけません。また、崩れるのは早いけれど、一度崩れた組織力、チーム力を立て直すのはやはりすごく時間かかるとも感じました。昨年度から今井コーチ、田中コーチが来ましたが、数カ月じゃ当然結果は出ません。全日本大学駅伝の予選会で落ち、箱根駅伝の予選会もぎりぎりで通過し、周りからは『大丈夫かよ』っていう声を多くいただきました。ただ、中にいるメンバーは、今やってることをやり続ければ大丈夫だと信じてやり抜いてきました。ぶれずにその信念を貫いてきたら、結果がついてきて、今みんながその流れに乗っかっている感じです。新たないい組織ができてきたなと思います。この競技は気持ちの部分がすごく重要で、信念を曲げずに、貫いてやっていくことが重要だというのを改めて感じました」

 

石岡主将2024年度は2つの予選会(全日本大学駅伝、箱根駅伝)に出ましたが、自分たちは経験したことがありませんでした。予選会が無かったのは恵まれていたんだなと感じました。同時に、未経験で勝ち上がるのは、とても大変なことだと感じました。今思うと、全日本大学駅伝予選会のときは、チームが少しバラバラな状況もあったと思います。それが全日本予選会を経て、改めて『やるしかない、やらないと負けてしまう』とみんなが思いました。箱根駅伝予選会では、10位で1秒差の通過でしたが、信じてやってきた中での成果だったので、チームを作れたというか、崩れた状態から少しずつ立て直せたと感じました。すごく実りのある1年だったと思います」

 

長門監督「ずっとかみ合わなかった歯車がカチッとはまったのは、箱根の予選会後ですかね。順大の場合、数年前に結果がトントン拍子に出ていたところもあったので、そこでちょっとぬるま湯につかってしまっていたというか。甘えの部分が強く出てきていたのかもしれません。そういう中でスタッフが減って大変になった時期もありました。選手たちとのコミュニケーションを取る機会が自分自身も減っていたと思います。そこが間違いなくひずみになってたので、そういうところから取り返していかないといけないと思ってやっています」

――石岡主将は3年時が箱根駅伝初出走でしたが、振り返ってどうでしたか?

石岡主将「もちろん、箱根は憧れていた舞台だったので、走れてすごく嬉しい気持ちありました。ただ、走れた喜びよりも、そこで自分がどうにかしておけば、10区でもどうにかなったんじゃないかっていう悔しさの方が大きいです。もう後悔しないように、年間通して、それを思い続けてやっていくのが大切なのかなと思います」

――箱根駅伝5位以内という目標に向け、上位校との差を埋めるために何が求められますか?

長門監督「今年箱根駅伝を走った中から、浅井(1区出走)、海老澤(3区出走)、堀越(4区出走)が抜けました。三人しか抜けていないと思うのか、彼らが抜けた穴を大きいと思って取り組むのか。結果がついてきて油断したら、また同じことの繰り返しになります。予選会参加校って、予選会参加校の意識になってしまって、ずっとそこにい続けることが多々あるので、早くシード校に帰り咲かないといけません。早く抜け出すために油断なく準備していきます。昨年度は全日本の予選会も箱根の予選会も経験したので、その経験値の中で何をしないといけないというのは考えられると思います。去年はそれすらない状態で、こちらが全部情報を与えました。この予選会のDVDも見ておいた方がいいとか、いろんな準備をしました。今年度は自分たちで何をすべきかということを考えられると思います。ただ先ほども話しましたが、去年はこうだったから、これぐらいやればいいという油断があると絶対に足元をすくわれます。スローガンではないですが、常に挑戦していくんだっていう気持ちを忘れないでやっていくことが大事だと思ってます」

 

石岡主将「チームの底上げも大事ですが、他大学に比べたら、エースというエースがいない状況です。練習の設定のペースもすごく上がってきているので、自分で壁を作らず、みんながエースになるという意識で取り組んでいけるかが大事になってきます。今はチャンスで、殻を破ることができれば、誰でもエースになることができます。自分が、自分が、という意欲が大事です」

■10000m27分台を3人以上に

――高校生に向けて、順天堂大学の魅力はどんなところですか?

石岡主将「順大は選手個人に任せられる部分が大きいのかなって思います。課されたメニューはそこまで多くはないので、プラスで何をやっていくのかが大事になってきます。ジョグもペースは自由なので、その時の自分に足りないことを考えないといけません。考える力がすごく身に付きますね」

 

長門監督「いわゆるポイント練習という柱になる練習はこちらが決めてやっていますけど、普段のジョギングの時間、距離やペースは、自分たちで考えながらやってもらっています。意識を高く持たないと当然差がついてくるということはあります。高い意識を持っている選手に対しては、わがままを通すわけではないですけれど、意見を聞いて、個々にあった内容で練習を組んだりしています。あとは、練習環境、施設環境が恵まれているということですかね。クロスカントリーコースだったり、怪我の時のリハビリ環境だったり。寮にも低酸素ルームがあったりと、いろんなものを駆使して成長していける環境が整っていますね」

クロスカントリーコース
駅伝部寮

――世界陸上の日本代表に選ばれた近藤亮太選手(2022年卒、現三菱重工)など、卒業生の活躍も目立ちます

長門監督「私が監督になって、日本代表に長距離各種目で輩出しているんですよ。1500mはちょっと難しいんですけど、3000m障害、5000m、10000m、マラソンで」

  • 3000m障害:塩尻和也選手(2019年卒、現富士通)、三浦龍司選手(2024年卒、現SUBARU)
  • 5000m  :松枝博輝選手(2016年卒、現富士通)、塩尻和也選手
  • 10000m  :塩尻和也選手
  • マラソン  :近藤亮太選手

 

石岡主将「長距離に限らず、各種目にトップクラスの選手がいるというのも順大の魅力ですね。トップアスリートの動きを見ることができるのは大きいですね。刺激的な練習環境です。陸上以外の他の競技の選手とも話す機会も多いです。1、2年時の自分たちのクラスから、バレーボール部や、他の部のキャプテンがたまたま出ました。いまだにキャプテン同士で連絡を取ったりしています」

――どんな高校生に順天堂大学に来てほしいですか?

石岡主将「個性を大事にする大学なので、個性の強い人に来てほしいですね。個性を潰さず生かしていける環境です。駅伝も大事ですけど、各種目で上を目指したいという人も順大にあってるのかなと思っています」

 

長門監督「まさにその通りです。駅伝も頑張りたい、でもしっかり個人としても結果を残したいっていう人に来てもらいたいです」

――改めて今年度1年間の目標を教えてください

石岡主将「チームは大きな目標として、箱根駅伝5位以内を掲げています。そこにたどり着くために、1年間通して考えてやっていくことが大事になってきます。前半シーズンでいうと、全日本大学駅伝予選会があります。去年そこで悔しい思いをしているので、まずはしっかり通過して、後半のシーズンにうまくつなげたいです。今、他大学のタイムもものすごく上がってきています。箱根駅伝5位以内を目指すには、1000027分台が3人は必要になってくると思います。そこに加わっていけるように、自分もエースの一人になれるように、頑張っていきたいです」

 

長門監督「やっぱり箱根駅伝でリベンジするということです。学生たちが5位という目標を掲げましたが、叶わない目標ではないと思ってます。しっかりそこに向けて、一つ一つの大会で自信をつけれるように消化していきたいです。また、今年は東京で世界陸上があります。世界陸上代表はなかなか難しいかもしれませんが、ワールドユニバーシティゲームズ*もありますので、日本代表という肩書きを背負える選手を一人でも多く出していきたいと思います」

 

*ワールドユニバーシティゲームズ…2年ごとに開催される学生を対象とした国際的な総合競技大会。「大学生のオリンピック」とも呼ばれる。

Profile

長門 俊介 NAGATO Shunsuke
順天堂大学陸上競技部長距離ブロック(駅伝)監督
順天堂大学スポーツ健康科学部 特任准教授

2003年、順天堂大学入学。4年時の箱根駅伝では9区で区間賞を獲得し優勝に貢献した。卒業後、JR東日本に入社し実業団選手として活躍、現役選手を引退した2011年に陸上競技部コーチに就任、2016年より監督。塩尻和也選手、松枝博輝選手、三浦龍司選手などを育成した。

石岡 大侑 ISHIOKA Hiroyuki
順天堂大学スポーツ健康科学部4年

鹿児島県出水中央高校出身。2025年箱根駅伝9区区間8位。

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