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2021.05.14

霞が関から再び本郷へ。鈴木大地教授が考える「スポーツと医学の融合」のこれから

この春、順天堂大学は新たな組織「スポーツ健康医科学推進機構」を設立し、機構長に鈴木大地教授が就任しました。順天堂大学在学中にソウル五輪で金メダルを獲得後、本学の教員などを経て、昨年まではスポーツ庁初代長官として手腕を発揮しました。新たなポストでスタートを切った鈴木教授に、スポーツ健康医科学推進機構の役割、スポーツと医学の連携の重要性と今後の展望についてうかがいました。


スポーツ健康医科学推進機構の役割とは

順天堂大学は江戸時代後期に医学塾として始まり、戦後「病気を治す」だけでなく「病気にならない体を作る」ことを目指す体育学部(現・スポーツ健康科学部)を開設しました。スポーツ健康科学部には、医学的知識を備えたスポーツ指導者を目指す多くの学生が入学していますし、医学部入試の面接では、「スポーツ医学を志しています」と答える受験生が少なくないと聞きます。両学部の1年生は、本学の特色である1年間の寮生活を通じてお互いの学問を意識し、さまざまな気付きに繋がる経験をしています。医学とスポーツが本学の教育研究の両輪であることは、言うまでもありません。

これまでも我々の強みであった、医学とスポーツ。その連携をより強固で有機的なものにするための組織が、スポーツ健康医科学推進機構です。私たちは、医学とスポーツの融合によって、時代のニーズに応え、広く社会のみなさんの問題を解決できる組織を目指しています。

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2021年4月に発足した順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構の初代機構長に就任

今、スポーツや医学の領域では、それぞれの分野の研究だけでは解決できない、複雑な問題が生まれています。

スポーツが健康に良い、というイメージは多くの方が持っていると思いますが、健康状態には、運動やスポーツだけでなく、食事、生活環境などさまざまな要素が複雑に絡み合って影響しています。さらに、スポーツにはケガのリスクがあり、やりすぎは逆に健康に「良くない」という結果になりかねません。健康に「どう良いのか」を医科学的に証明するのは、簡単そうで実は難しいのです。

そうした問題の解決には、スポーツだけ、医学だけでの研究にとどまらず、専門家が垣根を超えて連携し、シナジーを発揮することが重要です。たとえば、スポーツ健康科学部には、トップアスリートを指導する先生もいれば、幼児や高齢者の運動を研究する先生もいます。ほかにも、スポーツに関わる遺伝子、スポーツ用品の素材、スポーツツーリズムなど、さまざまな専門領域で研究を進める先生方がそろっています。それぞれの専門領域でスポーツや社会の発展に参画することはもちろん、医学のバックグラウンドを持つ先生方とコラボすることで、より深く、多角的な教育研究のデータを得ることができるはずです。

本学は、これまでも医学とスポーツの融合を掲げ、教育研究やさまざまな事業を進めてきました。今回、スポーツ健康医科学推進機構が発足したことで、さらに医学とスポーツが有機的に結びつき、これまで以上に教育研究活動が広がりを見せることを期待しています。

 

*現在、新型コロナウイルス感染症の流行拡大のため、医学部1年生の学生寮「啓心寮」への入寮を取り止めています。

健康で豊かな生活にスポーツの力を

「スポーツに関する研究」と聞くと、「トップアスリートの競技力向上」といったイメージを持つ方もいるかもしれませんが、決してそれだけではありません。たとえば、本学発・日本初のスポートロジーセンターでは、スポーツと医学の融合による健康寿命の延伸を目指し、予防医学に焦点を当てた研究を行っています。科学的な根拠に基づき、広くみなさんに「普段からスポーツ、運動、エクササイズをすると、こんなにメリットがあるんですよ」とお伝えしていくことは、スポーツと医学を研究する私たちの重要な役割です。

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元町ウェルネスパークには、順天堂発・日本初の「スポートロジーセンター」の研究拠点も移転予定

スポーツ庁が行った調査では、就学前の幼児期にたくさん運動した人は、大人になっても頻繁にスポーツや運動をする傾向があり、逆に、幼児期にほとんど運動しなかった人は、大人になっても運動の機会が少ない傾向にあることが分かっています。日本では年間に約5万人が「運動不足」で亡くなっているといわれていますから、幼児期の運動やスポーツの習慣は、成人後の運動習慣、さらに、寿命にも影響を及ぼす可能性があります。

小学校以降の子どもの運動については、すでに文科省が取り組み、学校教育のカリキュラムも練られています。しかし、もっと早い段階からアプローチする必要があるのではないかと考え、スポーツ庁時代に、就学前の子どもを対象にした施策をスタートさせました。これからは、その実践を担うような事業にも取り組みたいと思っています。

本学は現在、本郷・お茶の水キャンパスに隣接する旧元町小学校の敷地に、元町ウェルネスパーク(仮称)の開設準備を進めています。文京区と協働で運営するこの施設では、保育施設の開設やスポーツプログラムの提供も予定しています。こうした場を通じて、幼児期から高齢期まで生涯にわたるスポーツ実践をサポートし、体を鍛えながら健康で豊かな生活を送る人を増やしていくことに繋げたいと考えています。学外の組織ともうまく連携し、社会のさまざまな分野でスポーツの力を発揮できるような組織、環境を整えていきたいですね。

 


スポーツ庁での経験を活かして

スポーツ庁時代は、競技力向上、教育、健康増進、ビジネス、外交、大学スポーツ、部活動など、スポーツに関わるあらゆる分野の施策に取り組みました。その過程では、厚生労働省、国土交通省、経済産業省といった省庁とのコラボも経験しました。スポーツの世界が本当に幅広い分野、多様な業種との関わり合いによって成り立っていることを再認識し、同時に、あらためてスポーツが持つ力も実感することができました。

スポーツ庁で手掛けた多様な事業は、どれも可能性のあるものばかりです。霞が関でもフットワーク軽く、「攻めの行政」をやってきたつもりですが、さらに自由に動ける順天堂大学という環境を活かして、今度は民間の立場から分野の垣根を超えて取り組み、スポーツが持つ力を証明していきたいと考えています。

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「順天堂大学という環境を活かし、"スポーツが持つ力"をさらに証明していきたい。」

医学とスポーツが連携し、社会課題の解決に向かうことは、時代の要請です。広く医学界、スポーツ界、さらに社会全体に資する研究成果を発信できるよう、力を尽くしていきます。

順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構のHPはこちら

鈴木 大地(すずき・だいち)
順天堂大学スポーツ健康科学部 教授/副学部長
順天堂大学スポーツ健康医科学推進機構 機構長


1988年、大学4年生で出場したソウル五輪男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。1989年、順天堂大学体育学部卒業。1993年、順天堂大学大学院体育学研究科修了。2007年、順天堂大学から医学博士の学位を授与された。2013年、順天堂大学スポーツ健康科学部教授、財団法人日本水泳連盟会長等を歴任。2015年10月、スポーツ庁の発足に伴い初代長官に就任し、2020年9月退任。2021年4月より現職。現在は特定非営利法人日本オリンピアンズ協会会長、文部科学省顧問、フジテレビ『めざまし8』のコメンテーター等も務める。

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