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2021.09.16
順天堂大学の基礎研究をソフト・ハードの両面から支える「研究基盤センター」
順天堂大学の基礎研究をさらに発展させることを目的に設立された「研究基盤センター」は、電子顕微鏡や質量分析計などの最新の機器が整備され、誰でも利用可能な共同施設です。機器類が充実しているだけでなく、専任のテクニカルスタッフが多数常駐していることも強みの一つで、研究に不慣れな臨床医や若手研究者たちの研究を強力にサポートしています。ここでは副センター長を務める横溝岳彦教授と小出寛特任教授のお話を伺いしながら、研究基盤センターをご紹介します。
横断的な中央共同研究体制でリソースを共有
順天堂大学の「研究基盤センター」は、各種機器類を大学全体の資産として購入・管理することで基礎研究や実験を支援する施設です。センターの前身は、1956年に発足された臨床共同研究室。当時は基礎研究に時間を割きにくく、実験環境にも恵まれていない臨床医のための研究施設でしたが、順天堂大学には50年以上も前から「研究リソースを学内で共有する」という横断的な中央研究体制ができあがっていました。
その後、2003年の施設再整備により、臨床・基礎にかかわらず学内の誰もが利用可能な共同研究施設として設立されたのが「研究基盤センター」です。2020年に新たな研究施設として7号館が完成すると、7号館の4階・5階の広大なフロアがセンター機能の中心となり、最先端の機器類をはじめとした研究環境がさらに充実。順天堂大学の"基礎研究推進のための心臓部"として、多くの研究者に利用されています。
2020年に新しく完成した7号館(研究施設は高層棟)
最先端の機器が揃った理想的な研究環境
研究基盤センターは、①細胞機能研究室、②生体分子研究室、③形態解析イメージング研究室、④アイソトープ研究室、⑤共同研究・研修室、⑥疾患モデル研究室の6研究室からなり、それぞれの研究領域に特化した機器類が完備。電子顕微鏡をはじめ、共焦点レーザー顕微鏡、セルソーター、質量分析計などの最先端機器、共通で使える細胞培養室、P1・P2レベル実験室、解析室、低温室なども揃っています。
「多くの大学では、研究に用いる機器類はそれぞれの講座が購入し所有するのが一般的で、ほかの講座では使えないものですが、順天堂大学の研究基盤センターでは誰でも使うことができます。購入された機器類のメンテナンスもセンターで行いますし、実験に使用する試薬や遺伝子改変モデルなども提供しています。こうしたセンターの運営費の一部には国からの予算を割り当てていますが、人件費を含むほとんどが大学独自の予算です。それだけ順天堂大学が基礎研究に重きを置いているということで、どの大学でも真似できることではないと思います」
そう語るのは、センターの運営全般を管理している横溝岳彦教授。横溝教授自身が生化学研究者として基礎研究に取り組んでいるからこそ、このセンターの魅力を強く感じるといいます。
「実は、私が順天堂大学に来ることを決めた理由のひとつに、このセンターの存在がありました。以前は自前の機器でできる範囲の実験しかできませんでしたが、ここでは電子顕微鏡をはじめあらゆるリソースが利用でき、サポートしてくれるスタッフもいる。これだけ充実したリソースを使えるということは研究者にとってとても魅力的です。実際、こちらで研究をするようになってから実験手技の幅が広がり、研究そのものにも良い影響があらわれています」(横溝教授)
専任のスペシャリストが常駐している強み
研究基盤センターの特長は、機器類が充実していることに加えて、それらを扱うスペシャリストが多数常駐していることにあります。現在は30名の常勤スタッフと数名のパートスタッフの体制で、センターを利用する研究者たちをサポートしています。共同研究・研修室室長であり、副センター長として6つの研究室のとりまとめ役を務める小出寛特任教授も、人材面でのサポート力に強みがあるといいます。
「研究基盤センターのスタッフの多くは機器類の扱いに長けたスペシャリストたちです。普通の研究室で初めての機器を扱う場合、扱い方のわかる先輩などを探して教えてもらうしかありませんでしたが、ここでは専任のスペシャリストがその場で教えてくれますし、標本作製や解析まで任せることもできます」(小出特任教授)
機器の扱いに長けた専門スタッフ
多くの大学では、機器類が各講座所有であるのと同様に、それらを扱う技官と呼ばれるスペシャリストも講座所属であることが一般的です。しかも、近年はコスト削減により技官を雇用できなくなっている大学、講座も少なくありません。そのような中、技官もすべてセンターの専任として、全学的な研究サポート体制を整えている大学は非常に珍しいと言えるでしょう。
臨床医や若手研究者の研究をバックアップ
現在、"ユーザー"と呼ばれる学内の登録研究者は、各研究室に約500人。その中には、研究に不慣れな臨床医や若手研究者も数多くいます。小出特任教授はそのような若い研究者たちの相談窓口という役割も担っています。
「こんな研究をしてみたいけれど何をしていいかわからないという臨床医や若手研究者が、適切な実験をして研究成果をあげられるようにするための案内役です。このセンターをよく知るあるベテラン研究者は、細胞培養の経験がないという若手研究者がいると『じゃあ研究基盤センターの共同研究・研修室で教わってきて』とここに送り込んでくるんです。そうすれば自分で教えないで済みますから(笑)。でも、それでいいんです。ここでは大学院生たちの教育もしていますし、若い人たちを教育することも私たちに課せられた大切なミッションだと感じています」(小出特任教授)
センター主催のセミナー
センターでは、大学院生や研究初心者を対象にピペットの扱い方をはじめ実験を始めるときの心構えなどを教えるセミナーや、かなり高度な技術について学べるメーカー主催の勉強会などを頻繁に開催しています。若手研究者たちはこのセンターを利用することで、新しい研究にチャレンジしやすくなるメリットもあります。
「少ない研究費でやりくりしなければいけない若い研究者は、高価な機械を買うことなどできませんし、たとえ買えたとしてもメンテナンスの費用が出せません。その点、センターの機器を使えば必要最低限の利用料と試薬だけ買えばいい。やろうとしている実験のために利用できる機器類がすでにあるということは、科研費申請のときにも書きやすいはずです」(小出特任教授)
センター内でのディスカッションの様子
「思いやりの心」が共同研究施設を可能にする
これほど充実した共同研究施設が実現し、維持できている背景には、順天堂大学に根付く学風の影響が大きいのではないかと、両副センター長は口を揃えます。
「順天堂の人たちはものに対する執着心が強くないのか、これは自分のものだと強く主張したりしません。講座で購入した機器をセンターに置いてほしいと依頼してくる研究者もいます。そうした機器の置き場所がなくてこちらに持ってきたのでしょうが、もともと機器は学内で共有するという意識があるのだと思います。私たちのように順天堂大学出身ではない医師や研究者が多く、それでも分け隔てなく活躍の機会を与えられる『三無主義』の影響もあるのでしょうが、ここにいる人みんなの思いやりを感じます」(横溝教授)
横溝 岳彦 副センター長
「私も他大学から順天堂に来ましたが、同じことを感じています。研究基盤センターには自分の研究をしながらサポート業務をしている研究者もいますが、ユーザーが声をかければ、彼らは自分の実験の途中でも必ず作業を止めてユーザーを優先します。そういう姿勢にも順天堂の人たちの人柄の良さがあらわれていると思います」(小出特任教授)
さらに活用される研究基盤センターを目指して
研究施設である7号館にセンター機能が集約してからは、機器類、実験環境のさらなる整備が進み、オープンラボとしての機能が強化されました。基礎と臨床のさまざまな領域の研究者が同じスペースを利用する中で、思いがけないコラボレーションが生まれる可能性が広がりつつあります。
この充実した共同研究施設を活かしてより多くの研究成果につなげていくために、研究基盤センターもさらに成長していくことが求められます。
小出 寛 副センター長
「ここで多くの若い研究者たちと関わることを楽しんでいますし、自分の研究テーマとは違うさまざまな研究領域に触れられることも私にとっては刺激的です。ただ、研究者同士をつなぐハブとしての機能はまだ不十分なところがありますので、今後はオープンラボの良さをもっと活かして、研究者コミュティーとしても活用してもらえるセンターを目指します。まだこのセンターを利用したことがないという人は、ぜひ利用してみてください」(小出特任教授)
「現時点でも、順天堂大学の研究環境は日本一だと自信を持って言えます。学外の優秀な研究者が多数集まってきているのにも、この研究環境が一役買っているはずです。それでももっと上を目指していくために、クライオ電子顕微鏡などさらに高精度での解析が可能な機器の導入、あらゆる最新のテクニックを使いこなせるスペシャリストの育成など、まだまだやるべきことはあります。有限のリソースの中で、できる限りのことをやっていきます」(横溝教授)
横溝 岳彦(よこみぞ・たけひこ)
順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター副センター長
順天堂大学副医学部長、医学部生化学第一講座教授
1988年東京大学医学部医学科卒業。1995年同大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。同大学院医学系研究科助教授を経て、2006年より九州大学大学院医学研究院教授。2012年より現職。主な研究テーマは、生理活性脂質の代謝酵素と受容体。
小出 寛(こいで・ひろし)
順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター副センター長・特任教授、共同研究・研修室室長
1987年東京大学理学部生物化学科卒業。1992年同大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了(理学博士)。大学院修了後は、アメリカ留学、東京工業大学生命理工学部、金沢大学医学部准教授などを経て、2015年順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター特任教授、2021年より副センター長。主な研究テーマは、幹細胞やがん細胞におけるシグナル伝達。