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2020.11.20

選手の考えを信じ、尊重する― バスケ部を率いる監督が貫く信念

順天堂大学男子バスケットボール部の監督として、選手の指導に当たっている中嶽 誠先生。千葉県立八千代高校の教員時代には、男子バスケットボール部を公立高校で8年連続9回のインターハイ出場に導いた経験も持っています。30年以上にわたって選手の競技力と精神力を育ててきた中嶽先生に、指導者としての信念や、研究活動と指導の関係について、お話をうかがいました。

指導者としての3つの信念

9年前から、男女バスケットボール部の監督を務めています。主に男子バスケットボール部を指導していますが、近年は関東大学リーグの2部に定着し、1部昇格を目指して力を付けているところです。
大学卒業から順大の教員になるまでの25年間は、千葉県の県立高校で教員をしていました。母校でもある八千代高校の教員時代は、男子バスケットボール部監督として、学校初のインターハイ出場を果たし、さらに8年連続9回出場という成績を残すことができました。その当時から現在まで、私は3つの信念を持ってチームづくりに当たっています。それは、「真面目に、誠実に」「和をもって貴しとなす」「学生を信じる」の3つです。
真面目に取り組む選手が“ダサい”“ウザい”と言われる雰囲気では、チームが強くなりません。もちろんチーム内での競争は必要ですが、私自身は、チームにおける「和」を大切にしたいと思っています。また、これだけ社会に情報があふれている時代ですから、必要があれば学生たちは自ら情報を集めますし、私以上に知識を持っていると感じることもあります。自ら考えて行う練習こそ、力が付く練習です。選手の意見を尊重し、信じて任せるというスタンスでいるよう心掛けています。

練習も試合も、選手が考えて動く

現在の順大男子バスケットボール部のチームスタイルは、気を抜かない練習を積み重ね、シンプルで体育系大学らしいバスケをすることです。特に、運動量、シュート、スピードにこだわり、強化を図っています。
全体練習は、実戦に即したゲーム形式が中心です。バスケットボールは「5人で行うスポーツ」なので、個人の技能を高めることも大切なのですが、5人で動くゲーム形式の中で課題を見つけ、解決していくことを、より重視しています。さらに40分間のゲームの中で、運動量が減ったりスピードが落ちないよう、シャトルラン形式のトレーニングにも重点を置き、走力アップを図っています。
一方で、練習の具体的な内容を決めるのは、キャプテンを中心とした選手たち自身です。試合の切羽詰まった場面では、指導者の指示ではなく、選手が自分たちの判断に基づいて動く方が本来の力を発揮できるはず。そのため、練習から選手主導を徹底し、選手だけで試合を進める力を鍛えています。
練習時間は比較的短く、1時間半から2時間。これは、公式試合にかかる時間とほぼ同じです。短時間の方が集中して効率的に練習ができますし、集中力が求められる試合の時間を体で覚えることにも繋がります。さらに、毎回の練習で、選手一人一人のシュート、アシスト、リバウンド、スチールなど約20項目のスタッツ※を記録し、年間を通して集計しています。記録は毎回張り出しているため、選手が自らの課題を明確に意識することができるだけでなく、仲間の特徴を把握するのにも役立っています。

※スタッツ:statistics(統計)の略。チームや選手のプレー内容に関する統計数値。

選手一人一人のスタッツを記録している

選手一人一人の良さを把握し、チームをつくる

監督として私が選手たちにしていることといえば、一人一人の良いところを発見し、変化を促すことでしょうか。試合では、体力の消耗などを見ながら選手交代などの判断はしていますが、プレーの選択はできるだけ選手たちに任せています。練習後のミーティングでも、私が話すのは、ほんのひと言ふた言。学生たち自身がしっかりと反省できていれば、何も言わないこともあります。
「自ら考えて取り組む練習が、一番うまくなる練習」というのが私の持論であり、自主練習はその最たるものです。選手の得意なプレー、好きなプレーは、自主練習に表れるもの。コーナーからのシュートに熱心に取り組んでいる選手がいれば、その位置からシュートさせるようなゲーム展開を考えたり、パスをもらってシュートする練習を繰り返している選手には、その流れを組み込んだプレーを全体練習で提案したりしています。現場を自分の目で見て、各選手の良さを把握し、それをうまく組み合わせてチームの力を100から120に上げることが、私の指導者としての仕事だと考えています。

2019年秋に行われた「第95回関東大学バスケットボールリーグ戦」の試合中、選手に声をかける中嶽先生

研究で得た確証が、指導の支えに

球技の魅力といえば、やはり得点シーンでしょう。バスケットボールも、何といってもシュートが醍醐味ですし、多くの選手がこだわる技術でもあります。そして、3m5cmの高さがあるリングにシュートするバスケットボールでは、身長が高い方が有利に感じられますし、実際にこれまで指導者の間でもリングに近い長身者の方が得点しやすいと考えられてきました。しかし、本当に身長が高い方が有利なのか――。そう考えて取り組んだのが、身長とシュート成功率の関係を明らかにする研究です。
熟練した男子大学生バスケットボール選手を対象にしたこの研究では、対戦相手の妨害を受けないフリースロー(FT)に着目して調査を行いました。シュートの距離をリングから5段階(1.0mから7.0mまで)に設定し、選手の身長とシュート成功率の相関関係を調べたところ、どの距離でも、身長とシュート成功率には、有意な相関は見られないという結果が得られました。また、関東大学リーグ、旧日本バスケットボールリーグ(NBL)、アメリカのNBAの各リーグの公式試合記録をもとにした検証では、競り合いの中で放たれる2ポイントシュート(2FG)は、身長の高さが有利に働くことがわかりましたが、遠方より放つ3ポイントシュート(3FG)と相手に邪魔されずに放つFTは、どのレベルのリーグにおいても、身長とシュート成功率に有意な相関関係は見られませんでした。
実のところ、3FGやFTの場面では「身長が高くても、シュートの成功率が高いとは限らない」という“感覚”は、一定の競技経験を持つバスケットボール選手であれば、その多くが持っていたものだと思います。この研究では、その“感覚”を科学的に検証することができたと言えるでしょう。得点を争うバスケットボールでは、リバウンドやルーズボールなどの「ボール保持」をめぐる争いが起点となり、攻守の切り替えが頻繁に行われます。この競り合いの場面ではやはり高身長が有利になりますが、3FGの成功率を上げるなどして得点力をアップできれば、必ずしも高身長の選手が揃わなくても、十分勝負できる可能性が見つけられると思います。

また、この研究の過程で、各リーグのシュート成功率について調査したところ、例えばNBAでは試合中の2ポイントシュートの成功率が50%、3ポイントシュートでは35%程度ということもわかりました(近年はアップしています)。部活動の指導では、練習中の選手の記録を残しているとお話ししましたが、こうした研究成果や、研究の過程で集めたデータは、指導の裏付けとして役立てています。これらの研究データと選手の日々の記録を照らし合わせて目標とすべきシュート成功率を示すと、目標の根拠が明確なので、選手も納得して練習に取り組むことができているようです。
部活動の指導だけでなく、スポーツ健康科学部の授業でも、学生には「N B A選手でも2回に1回はシュートを外すんだから、失敗しても気にしなくていいよ」と声を掛けたりもしています。教員になる学生が多い学部ですから、将来、彼らが体育の授業で子どもたちに同じように声を掛け、子どもが失敗を恐れずにスポーツを楽しむことに繋がれば嬉しいですね。

教員としてバスケに関わり続けてほしい

2016年にBリーグが誕生し、高校や大学でプレーしていた選手が、卒業後もバスケットボールを続けられる環境が広がりつつあります。私の教え子たちもさまざまな道に進んでいますが、私個人は「教員として、子どもたちを指導しながらバスケットボールを続けてほしい」という思いを持っています。
順大バスケットボール部で私が指導した選手のうち、男子部員だけでも52人がすでに教員になりました。彼らが全国各地の学校で頑張っていることは、私の喜びでもあります。これからも、バスケットボール部の活動を通じて、真面目さや誠実さ、自主性を伸ばし、教員をはじめ社会のさまざまな場所で力を発揮できる学生を育てていきたいと考えています。

Profile

中嶽 誠 NAKADAKE Makoto
順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科 先任准教授
バスケットボール部 部長・監督

1987年、順天堂大学体育学部体育学科卒業。2009年、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程修了。修士(スポーツ健康科学)。2011年、順天堂大学スポーツ健康科学部准教授となり、2016年から現職。
順天堂大学在学中は、バスケットボール部の主将として活躍。大学卒業後、千葉県の公立高校教諭として千葉女子高校、八千代高校などに勤務。母校でもある八千代高校時代には、男子バスケットボール部監督として8年連続9回のインターハイ出場を果たす。その後、勤務を続けながら、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科で修士号を取得。2011年から、順天堂大学男女バスケットボール部の監督を務めている。

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