SPORTS

2021.03.03

スポーツ科学の新たな地平へ世界レベルの研究を目指して活躍する若手研究者

スポーツや健康に関わる多様な研究を通して、社会に新たな価値を発信しているスポーツ健康科学部。順天堂大学ならではの強みを活かした研究環境で、若い世代の研究者も精力的に研究に取り組んでいます。中でも期待を集めているのが、運動生理学を研究する吉原利典助教と、スポーツ遺伝学が専門の宮本恵里助教。同い年の二人が、研究の道に進んだきっかけや研究の魅力、研究と家庭の両立など、若手研究者の視点でお互いの思いを語り合いました。

「骨格筋適応の性差」と「スポーツ外傷・障害の遺伝的要因」

―お二人の研究分野について教えてください。

吉原:私の研究では、骨格筋の適応に注目し、さまざまな刺激が筋肉にどのような影響を与えるのかを分子レベルで分析しています。
中でも、現在取り組んでいるのは、刺激に対する適応の「性差」に着目した研究です。筋肉は、活動すれば肥大し、不活動になると萎縮するのですが、その変化のしやすさには男女差があることが分かってきました。例えば、一般的に女性は男性に比べて、筋力トレーニングをしても筋肉は太くなりにくく、寝たきりの状態になると筋肉は萎縮しやすいと言われています。こうした性差には、ある特定のたんぱく質や遺伝子の増減がかかわっていると考え、実験動物を使った基礎的な研究によってそのメカニズムの解明を進めています。

宮本:私の研究テーマはひと言でいえば「スポーツと遺伝」で、特にアスリートのケガに遺伝的要因がどのようにかかわっているのかを研究しています。
ケガの中でも、今私が注目しているのが肉離れです。肉離れは、アスリートにとって特に発症頻度の高いケガであり、その予防が大きな課題になっています。実は、同じ競技のアスリートでも、肉離れをしやすい人としにくい人がいます。その差が生じる原因の一つとして考えられるのが、筋肉の質です。筋肉の質は、遺伝的要因からどのような影響を受けているのか、どんな遺伝的要因を持つ人が肉離れをしやすいのかを、ヒトの骨格筋や腱の組織分析などを通じて明らかにしたいと考えています。

 

関連リンク

若い頃の運動経験はどのように活かされるのか?サルコペニアの予防につながる筋肉の萎縮メカニズム解明を目指して(吉原 利典 助教インタビュー)

https://goodhealth.juntendo.ac.jp/sports/000215.html

 

宮本 恵里 助教

―ご自身の研究の魅力を教えてください。

吉原:これまで、筋肉は脳の指令を受けて動かされる組織として位置づけられていたんですが、最近の研究では、逆に筋肉が動くことで脳に刺激が送られていたり、筋肉自体が記憶を司っているのではないかということも分かってきています。まだまだ誰も知らない新しい可能性を見出せそうなところが、骨格筋研究の魅力です。

宮本:これまで誰も知らなかった「遺伝子とスポーツの関係性」が実験結果として見えた瞬間は、ワクワクしますね。遺伝子のほんのわずかな個人差が、確実に私たち人の様々な個人差を生み出していて、結果としてケガのしやすさやスポーツパフォーマンスに影響している。その仕組みを明らかにすることは、これまでになかった視点でのケガの予防策や、新たなトレーニング法の開発につながる可能性を秘めており、魅力的な研究分野だと感じています。

研究のきっかけは二人とも「大学の部活動」

―研究に取り組もうと思われたのは、どんなきっかけからですか?

宮本:大学4年生の時、所属していたゼミで、福典之先生から運動パフォーマンスと遺伝の関係性についての講話を聞いたことがきっかけなんです。
大学時代は陸上競技に打ち込み、人一倍トレーニングをしていたつもりでしたが、結局「トップアスリート」にはなれませんでした(笑)。ところが、同じ部で、同じように練習していても、国際大会に出場するような選手もいたんです。彼らを見ながら、競技パフォーマンスには練習の質や量だけではない別の「目に見えない何か」が影響しているのかもしれないな、と感じていた時期に、福先生のお話をうかがい、とても興味を引かれて研究の道に進むきっかけになりました。

吉原:僕も、大学時代の苦い思い出が研究の出発点です。
僕はバスケットボール部だったんですが、3年生の時、試合中の接触で左足首を骨折してしまい、治療のために1カ月ほど足首を固定することになりました。今の僕の研究での表現を使うと「筋を不活動にする状態」ですね。その1カ月の間に自ら「筋肉が萎縮する」経験をして、練習への復帰にも時間がかかりました。たまたま所属していたのが筋萎縮にもフォーカスしているゼミだったこともあり、なぜこんなに萎縮するのか、萎縮を抑えられればもっと早く復帰できたんじゃないか、と考えたことが、研究を始めたきっかけです。

ランニング中の酸素摂取量の測定

二人がコラボレーションする可能性も?

―今回、「同い年」ということでお二人に対談をお願いしたのですが、かなり前からお知り合いだったとうかがいました。

吉原:宮本先生と初めて会ったのは、大学院時代ですよね。

宮本:2009年でしたね。カナダのトロントで運動生化学の国際学会があって、そこで初めて会いました。

吉原:その後も学会で会うたびに話をしてはいましたけど、まさか一緒の大学で研究することになるとは、思ってもみなかったです。留学から戻ってきて、順大で宮本先生に会った時は驚きました。

宮本:吉原先生が帰国されて、偶然再会したんです、さくらキャンパスの学食で。「おお!久しぶり!」って(笑)

―同い年の研究者として、お互いを意識されることはありますか?

吉原:刺激を受けています。宮本先生のスポーツ遺伝学の研究チームは、世界で戦っているチームなので、非常にうらやましいですね。僕も世界にインパクトを与える研究を目指して頑張っています。

宮本:やっぱり刺激になりますよね。吉原先生はたくさん論文を発表されているので、私も頑張ろうと思っています。

吉原:宮本先生はヒトのDNAや組織を使っていて、僕は実験動物を使った基礎的な研究がメイン。そこが大きな違いなのですが、たとえば宮本先生がヒトを対象にして明らかにした現象について、そのメカニズムを僕が実験動物を用いて調べることもできるかもしれません。

吉原 利典 助教

宮本:今はコラーゲンに着目して研究を進めているのですが、ヒトを対象とした研究で検証できることにはどうしても限りがあって。本当に細かく調べようとすると動物や細胞を用いた研究が必要な部分が出てくるんですよね。

 

吉原:それなら、たとえば、標的となるコラーゲンの発現だけを低下させた筋肉や腱を人工的に作って、高強度の運動を加えたときの断裂のしやすさを比べてみたり、ターゲットとなる遺伝子の発現を強制的に増加させたときの影響を見たりとか……そんなコラボレーションができるかもしれないですね。

 

宮本:それ、やりたいです! ターゲットにする遺伝子が絞られてきたら、ぜひ協力してもらって、いろいろな機能解析もやっていきたいですね。

 

吉原:もちろん、ぜひやりましょう!

 
―順天堂大学の研究環境について、どんな風に感じていますか?

 

宮本:スポーツと遺伝に関する研究をするなら、日本全国で順天堂大学が一番の環境だと思います。まず、設備の面でいえば、スポーツ系の大学でこれほど遺伝子解析の機器がそろっている大学は少ないんです。

 

吉原:そうですね。世界を見てもこれほど設備の整っている大学はほとんどないし、世界レベルの研究ができる環境だと思います。施設面は、本当に文句なしです。どんなにやりたい研究があっても、必要な設備に使える予算がなければ断念せざるを得ないことはよくあることですし。その点、順大は研究に対する予算がきちんと付いていて、新しい研究に次々と取り組めるのが魅力ですね。

 

宮本:それに、人という面でも、私の研究分野では第一人者の福先生がいらっしゃるし、他分野で活躍されている先生方にも相談ができる。吉原先生が所属している運動生理学研究室の内藤久士先生にも、研究を進める中でいろいろなアドバイスをいただきました。最近は、医学部の整形外科医でもあるスポーツ健康科学部の髙澤祐治先生のグループと、共同で研究を進めることで、貴重なヒトの骨格筋や腱組織を用いた研究に取り組むことができています。

 

吉原:僕は、運動生理学研究室で内藤先生や町田修一先生の下で研究をしているんですが、同じ研究室でも、それぞれの研究テーマは近いようで全く違ったりします。先生方とのディスカッションを通じて、幅広い視点からの意見を吸収できるのもうれしいですね。

 

「育てられる側」から「育てる側」へ

―吉原先生はアメリカへの留学、宮本先生は出産と育休も経験されていますね。
 
吉原:留学先の研究室には、いろいろな国や地域出身のメンバーがいたので、日本人にはない考え方や研究へのアプローチの仕方に触れることができました。同じようなテーマの研究をしていてもこれだけ考え方が違うのか、という驚きもありましたし、自分の研究に対する見方が変わりましたね。
 
宮本:留学は、大学院生の時から興味を持っているんですよね。タイミングが合えば私も行きたいです。
 
吉原:ぜったいに楽しいですよ。海外は、日本以上に家族との時間を大切にしているから、家庭と研究を両立しやすいと思います。育休はどのぐらい取ったんですか?
 
宮本:ちょうど1年間です。
 
吉原:その間研究が止まってしまうのは、なかなか大変なことですよね。
 
宮本:そうですね。でも、子どもが寝ている間に論文を書いたりしていたから、完全に研究から離れたわけではなくて。時間を有効に使い、家族や職場の理解や協力も得られれば、子育てしながらバリバリ研究もできる。私がその姿を見せて、女性研究者の後輩たちが、出産後も研究を頑張ろうと思えるような雰囲気を作りたいと思っています。
 
吉原:研究者は、自分で時間をコントロールできる部分が大きいので、比較的仕事と育児を両立しやすい職業かもしれないですね。アメリカで僕がいた研究室も、家族に何かあればすぐに帰宅できる環境だったし。「家族も含めて一つのチーム」という意識がありました。
 
宮本:そういう意識を日本でもつくっていけるといいですよね。

―最後に、今後の展望や目標をお聞かせください。
 
吉原:今年度、科研費の基盤研究Bに採択されて、レベルの高い研究ができる環境が整いました。まず、それを成功に導きたいですね。成功させることで、また違った角度から研究にアプローチできると思いますし、今が踏ん張りどきだなと思っています。
 
宮本:最終的には、研究を通じてケガで苦しむアスリートを少しでも減らすことが目標ですが、まずは、今取り組んでいる研究を確実に形にしていきたいです。
 
吉原:宮本先生ともコラボして、これまでよりもさらに発展した研究ができたらいいですね。
 
宮本:そうですね、吉原先生とのコラボで、さらに一歩踏み込んだ研究もしていきたいですね。それに、まだまだ日本ではスポーツ遺伝学の研究者が少ないので、この分野の発展のためにも、後輩の育成には力を入れていくつもりです。
 
吉原:僕も宮本先生も、2021年度からゼミナールを持つことになるんですが、後輩たちには、いろいろなことに興味を持ってほしい。たとえば、運動生理学だけにとらわれるのではなく、スポーツ遺伝学にも興味を持ってほしいし、そこからまた運動生理学に対する新しい見方が生まれる可能性もあります。ぜひ、いろいろな分野の人とのディスカッションを通して、自分の考え方の幅を広げる経験をしてほしいですね。

Profile

吉原 利典 YOSHIHARA Toshinori
順天堂大学スポーツ健康科学部 助教

2009年、山口大学教育学部健康科学教育課程スポーツ健康科学コース卒業。2013年、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了。2015年、順天堂大学COIプロジェクト室特任助教。2017年、日本学術振興会海外特別研究員として米国フロリダ大学へ留学。2020年より現職。博士(スポーツ健康科学)。

宮本 恵里 MIYAMOTO Eri
順天堂大学スポーツ健康科学部 助教

2008年、早稲田大学スポーツ科学部スポーツ医科学科卒業。2013年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。2017年、鹿屋体育大学スポーツ生命科学系助教。2018年、順天堂大学健康総合科学先端研究機構特任助教。2020年より現職。博士(スポーツ科学)。

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