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2025.01.22

順天堂リレーエッセイ【Jバトン】第10回 「日の出で拓こう、薬学の新たな未来」

リレーエッセイ「Jバトン」は第10回を迎えます。前回は、青木 茂樹 健康データサイエンス学部長に、近年のAI技術の変化と「すごいもの」について記していただきました。 今回は、岩渕 和久 薬学部長にバトンが渡り、薬学を取り巻く環境の変化と薬学部について綴っていただきました。

私は薬学部の学生時代、決して真面目な方ではありませんでしたが、卒業研究で1年半通った三菱化学生命科学研究所での経験が、私にとって基礎研究の出発点となりました。遺伝子発現の研究に取り組む研究者の方々と過ごす中で、研究の楽しさと厳しさを初めて実感したのです。

一方、卒業後に進んだ大学院の研究室では、天然物から生理活性物質を見つけ出し、創薬開発に繋げる研究を行っていました。私は、臓器や菌などの天然材料から、血小板凝集阻害や血圧降下作用を持つ物質の分離、構造解析、生理活性の測定プロジェクトに参加し、企業との共同研究にも関わる機会を得ました。研究室には多くの製薬会社の方々が訪れ、日本の製薬業界が新薬開発に積極的であることを実感しました。学生時代の経験を通じて、基礎研究と創薬研究開発の重要性を理解し、日本の基礎科学と創薬研究が共に世界をリードしていると感じました。

しかし、それから40年が経ち、薬学を取り巻く環境は大きく変化しています。日本の主要な製薬企業は統合を進め、グローバル化を図っていますが、日本発の新薬開発が難しくなり、グローバル市場での競争に対応できていないとの指摘があります。要因の1つとして、欧米の製薬企業に比べて、日本ではバイオベンチャーや大学との連携によるオープンイノベーションの取り組みが遅れていることが挙げられます。

また、薬学教育も6年制の導入以降、臨床実習が強化されていますが、必要な施設や教員の不足が課題となっており、実践的教育が十分に行われていないとの指摘があります。特に、臨床経験や患者とのコミュニケーションスキルが不足している薬剤師もおり、実習内容の充実や指導者の確保が求められています。薬剤師と薬学研究者の養成をバランスよく進めることも、大きな課題です。

薬学部1年生 実習の様子

こうした中、順天堂大学が浦安・日の出キャンパスに開設した薬学部は、186年に及ぶ本学の医学・医療の実践と教育・研究で培った資産を活かし、臨床能力の高い薬剤師の養成に加え、新薬や健康の維持に貢献する素材の開発と、それを担う研究者の育成を目指しています。浦安・日の出キャンパスに集う若い皆さんが、本学での生活を通して研究や臨床の厳しさ、楽しさそしてやりがいを体験し、臨床の場で創薬につながる新たな発見や気づきを得られることを願っています。

※本記事は学内報「順天堂だより」337号(2024年11月号)の「Jバトン(第10回)」の記事をもとに再構成したものです。記事の内容は掲載時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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