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2024.01.15
順天堂リレーエッセイ【Jバトン】第4回 「慧眼」
リレーエッセイ「Jバトン」は第4回を迎えます。前回は、和氣秀文 スポーツ健康科学部長・スポーツ健康科学研究科長に、近況とスポーツ健康科学部の教授として思うことについて綴っていただきました。 今回は、平井周 医療看護学部長・医療看護学研究科長にバトンが渡り、近況と昨今話題となっている「生成系AI」について思うことを記していただきました。
「医師」と言う職業柄、非医療系の親類や友人から医療や健康に関する相談や質問を受ける事がしばしばあります。本人や家族の病気のこと、医療機関で受けた説明の解説や補足、治療の選択への助言、果ては最近流行の健康食品やダイエット法まで質問は多岐にわたります。私の専門は「病理学」ですので、病気については病因学(なぜその病気が起こるのか)と病理病態学(その病気は人体にどのような影響を及ぼすのか)を踏まえ、理論立ててなるべく分かりやすく説明するよう心掛けているせいか、概ね好評を博しているようです。もちろんなじみの薄い病気や最近の話題については、きちんと調べた上でお答えしますが、その場合はなるべく新しい教科書のほかインターネットを活用し確実かつ最新の知見を得るようにします。まさに「Teaching is learning」だと実感する瞬間でもあります。
その一方、インターネット検索では多種多様な情報が候補として溢れ出てきますので、医学的基礎知識のない方がその玉石混淆の中から「正しい情報」を取捨選択するのは至難の業ではないかと感じることがあります。医療従事者にとっては噴飯ものの怪情報であっても、一見すると医療や医学に関与していると思えるような肩書を掲げた著者(作者)が、それなりの一貫性と整合性をもって説明をし、さらには自説を裏付けるようなサイトへのリンクまで呈示されていては、誤情報を鵜呑みにしてしまうのもやむを得ないのかもしれません。そんな偽情報を読みながら、では私自身は記事の信用度や真贋をどのように判断しているのだろうと、改めて考えたりしています。
今年は流行語にもノミネートされているように、「生成系AI」が話題となりました。つい先日は、画像生成AIを用いて作成されたとされる偽動画(ディープ・フェイク)の報道もマスコミを賑わせていました。生成系AIを用いるとレポート作成や情報検索なども容易に行え、教育機関ではその有用性とともに危険性も議論の対象となっていますが、この「危険性」とは剽窃や依存性についてばかりが注目されているようで、生成系AIが収集し利用するインターネット情報の真偽や信憑性についてはどうなのでしょうか。日々生み出される膨大なインターネット情報が真贋定かでなくとも、生成系AIは決して錯誤に陥るような事はないのだろうかと、ITに疎い私はつい妄想を膨らませてしまいます。
その一方で、「AIは私たちの仕事を奪う」「AIの出現により私たちの思考力は低下する」と危惧する声に対しては、やはり情報の確認に際し最後に必要なのは私たちの知性と理性なのではないかと考えたりもします。私たちの判断力が果たして客観的・中立的かの判定は棚に上げつつ、ですが。