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2023.05.16

患者さんを中心とした「真のチーム医療」。多職種連携で価値を生み出す"臨床薬剤師"を語る。

順天堂大学は、2024年4月、千葉県浦安市の浦安・日の出キャンパスに薬学部(仮称)を開設する予定です(設置認可申請中)。近年、医療の現場では多職種連携によるチーム医療の重要性が増しています。新設する薬学部では、医学部や医療看護学部と連携した教育を行いながら、臨床能力の高い薬剤師の育成をめざします。今回は順天堂大学医学部附属順天堂医院の乳腺センターの医師、看護師、薬剤師が、チーム医療の重要性と薬剤師の活躍の場について語り合いました。

チーム医療の重要性と薬剤師の役割

木村:まずは順天堂医院の乳腺センターでは、どのようにチーム医療を実践しているのか教えてください。


齊藤:
このセンターは2006 年に日本の大学病院として初めて開設された乳腺センターです。乳がん専門医、内科医、放射線科医、病理医といった医師のほか、看護師、臨床検査技師、薬剤師など多職種の医療スタッフが連携しながらチーム医療を推進しています。ここでは各専門職の専門性や考え方を尊重しつつ、単なる分業にならないよう互いの領域までカバーし合います。例えば、看護師は事前にカルテをチェックして、重点的なケアを必要とする患者さんが受診する時には私の横に座って診察に同席します。薬剤師も薬の説明にとどまらず、事前に患者さんのヒアリングをしてくれています。


木村:
看護師の髙さんが多職種連携の現場に入られたときはどうでしたか。


髙:
私は2020年4月から乳腺センターに来たのですが、齊藤先生は私たちの意見をとてもよく聞いてくれて、患者さんのことを一緒に考えたり、悩んだりしています。当初は患者さんの話を聞いて自分だけで抱え込んでいましたが、乳腺センターに来てからは多職種のチームでいろいろな意見を出し合うことがとても大切なことだと実感しました。


木村:
そのような中で、薬剤師はどのような役割を担っているのでしょうか。


佐野:
私も事前にカルテをチェックして、使っている薬をはじめ、病気の進行具合や治療内容などに関する情報を収集しています。その上で薬物治療に重点を置いてフォローの必要な患者さんをピックアップして、処方支援を行っています。


木村:
薬剤師として主体的に患者さんと関わっているのですね。


佐野:
これまではある程度、治療方針が決まって処方が出てから患者さんに関わることが多く、受動的な仕事が中心でした。しかし、それだけで良いのだろうかという疑問を抱いていたのです。そこで乳腺センターでは、事前に薬の内容や検査などから考えられる注意点を確認し、診察前に自分で患者さんにお話しさせていただいています。患者さんの考えや問題点をよく整理して、その内容を医師や看護師に報告して診察につなげることを大切にしています。


木村:
患者さんからよく薬剤師に寄せられる不安や相談はどのようなものですか。


佐野:
例えば、新しい薬の副作用やその副作用が生活に及ぼす影響や期間、対処する薬の有無などです。最新の薬は高価なものが多いので、年単位で継続することへの経済的不安などもよく聞きます。相談内容は医師や看護師さんとも重複するような内容もあるため、薬剤の面で私が話せる範囲を説明したうえで、医師や看護師につないでいます。


齊藤:
チーム医療で重要なことは職種間で線引きをしないことだと考えています。佐野さんが言うように、互いの職種で重複するのりしろ部分があることが大切です。そこを多職種間で共有して患者さんの治療にあたるのが真のチーム医療ではないでしょうか。そうでないとただの分業になってしまいます。

多職種の視点で患者さんを「立体的」に理解する

木村:医師から見て、多職種連携のメリットはどんなことですか。


齊藤:私自身は患者さんに寄り添っているつもりでも、患者さんは医師というだけで身構えてしまうことがあります。一方で、看護師には患者さんが気軽に話せることがたくさんあります。そこで聞いた内容をきっかけに課題をつかみ、多職種でコミュニケーションをとって解決に向かうことは多いです。しかし、それでも各自が見ているのは患者さんの一面に過ぎません。そこで最近では、「立体」という言葉をよく使います。医師、看護師、薬剤師などが互いに見ている患者さんの情報をすり合わせることで患者さんをあらゆる面からさらに深く見て立体的に理解しようとしています。もちろん、それぞれの専門知識が不可欠で、例えば、乳がん治療薬のタモキシフェンと抗アレルギー薬のエピナスチンは意外と相性が悪いことなど、医師の専門外の薬のことを薬剤師から教えられて初めて知ることも少なくありません。


木村:看護師や薬剤師の立場で患者さんが話しやすいように何か工夫をされていますか。


髙:私が来た当初、処置室はドアを閉めていましたが、思い切ってそのドアを開放し、患者さんから処置室の中が見えるようにして「いつでもお声がけください」という貼り紙をしました。そうすると、ふとしたときに「ちょっといいですか」とか声をかけてくれることが増えました。


佐野:薬剤師が忙しそうな口ぶりで話すと聞きにくいと思うので、なるべくゆっくりと話して、患者さんが「こんなことを聞いてもいいのかな」と思うようなことも話しやすい雰囲気づくりを心掛けています。そのようなやりとりから薬剤師として得た患者さんの困ったことや問題点をひとつでも多くチーム内で共有できればと考えています。

専門性を活かしつつ患者さんに寄り添えるように

木村:佐野さんはがん専門薬剤師の資格を取得していますね。


佐野:以前に呼吸器内科と泌尿器科の病棟を担当し、様々な病態のがん患者さんを見てきました。そのときにもっと勉強していれば患者さんのためになる医療ができたのではないかという悔しい思いを何度もしたので、専門的に勉強することを決断しました。取得まで5年くらいかかりましたが、自分が興味のある専門分野なので積極的に学ぶことができました。何よりも学びから得た知識を日々の業務を通じて患者さんの治療に活かすことができるので、やりがいを実感しています。


木村:医師や看護師として、これから薬学部をめざす学生に望むことはありますか。


齊藤:医療の現場では、医師をはじめとする医療従事者や、患者さん、そのご家族など、とても多くの人たちと関わる必要があります。そのような中で、これからの薬剤師は、職種、肩書、立場に関係なく誰とでも対等にオープンに話せる人が求められていると思います。チーム医療を担う一員として、専門性もちろんですが、コミュニケーション能力を磨く必要があるでしょう。


髙:そうですね、チームの一員として一緒に取り組んでほしいので、意志疎通を積極的にとれるような人が増えるといいなと思います。


木村:佐野さんは薬剤師として今後取り組みたいことはありますか。


佐野:全ての患者さんが、それぞれ個別に悩みや不安を抱えており、個々の薬物治療が必要になっています。そのような患者さんを薬剤師の立場で一人でも多く支援できればと思います。そのためにも後進の薬剤師が患者さんに近いところで活躍できるように、私自身もチーム医療に責任をもって取り組んでいきたいと考えています。薬剤師の活躍の場が増えることで、結果として多くの患者さんにより良い医療を提供できればうれしく思います。


木村:病院の薬剤部としても、そのような環境を実現していけるよう努めたいと思います。

臨床現場の近くで幅広く薬学を学べる環境

木村:一般に薬剤師というと、調剤薬局やドラッグストアでの調剤や薬品管理が中心の仕事だと思われがちですが、医療がどんどん進歩する中でその役割は薬を扱う「物」中心から患者さんの治療に直接関わる「人」中心へと変化しています。薬剤師の意識も変わっていく必要がありますね。


佐野:薬剤師は薬を調剤だけしていればいいという時代ではありません。順天堂大学では医学部附属病院でさまざまな領域を見て、学び、経験することもできます。チーム医療を担う一員として働ける機会も多いので、その中で薬剤師も大きく成長できるのではないでしょうか。


木村:順天堂大学の医学部附属病院では、すでに数多くの多職種連携が進んでいるので学生のうちからそういったことを体験できるのは大きな糧になるでしょう。薬学部は、そのような多職種連携を実践している薬剤師が直接学生さんを指導できるという面でも充実した教育が提供できると思います。臨床に根差し、チーム医療で活躍する未来の薬剤師の道を開きたいと考えています。

Profile

ファシリテーター
木村 利美
(きむらとしみ)先生
医学部附属順天堂医院薬剤部長

医師
齊藤 光江
(さいとう みつえ)先生
大学院医学研究科特任教授
(専門:乳腺腫瘍学)

薬剤師
佐野 阿耶
(さの あや)さん
医学部附属順天堂医院薬剤部
(日本医療薬学会 がん専門薬剤師)

看護師
髙 幸子
(たか さちこ)さん
医学部附属順天堂医院看護部
乳腺センター 主任

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