MEDICAL

2021.11.30

やせていても「少食で運動不足」はハイリスク。若い女性も気をつけたい糖尿病

日本の若い女性では、やせていても血糖値が上昇しやすく、肥満の人と同じような糖の代謝異常が起きている。そんな意外な研究結果が、順天堂大学医学研究科代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの研究グループによって明らかになりました。「まだ若いし、やせているから」と自分の健康を過信するのは禁物。生活習慣を見直し、しっかり食べて運動することが糖尿病予防につながります。研究を行った田村好史先生に、研究の成果と、やせた若い女性が気をつけたい健康づくりのポイントをうかがいました。

日本の女性の「やせ」=欧米の「肥満」?

肥満は今、世界各国に共通するとても重大な健康課題です。途上国の栄養状態も年々改善され、肥満度を測るBMI(体格指数)の国民平均値は、どの国でも上昇を続けています。ところが、世界にたった2つだけ、その動きに逆行してBMIが下がり続けている「特殊」な集団があります。それが、日本の女性とシンガポールの女性です。
日本は、やせ(BMI 18.5㎏/㎡未満)の女性の比率が先進国の中でもっとも高く、特に若い女性では、その割合が約20%と極めて高い状態にあります。「やせている女性が多いのは、健康的で良いこと」と思われるかもしれませんが、実はそうとも言えないということが、研究で明らかになってきてきました。意外なことに、これまでの研究から、中高年のやせている女性は肥満の女性と同じように、標準体重の女性に比べて糖尿病の発症リスクが高いことがわかっています。
世界全体を見れば、糖尿病予防策は、肥満へのアプローチが中心です。たとえば、肥満による糖尿病患者が多いアメリカでは、学校で甘いジュースの販売を禁止したり、元大統領夫人のミシェル・オバマ氏が食育に取り組むなど、子どものうちから肥満への対策を始めています。日本の女性の「やせ」が糖尿病の発症リスクであるなら、アメリカの「肥満」と同じように、より早い段階から糖尿病予防のアプローチを始める必要があるのではないか。そう考えてスタートしたのが、若い世代のやせた女性をターゲットにした糖尿病のリスクを明らかにする研究です。

やせていても「少食で運動不足」は健康にリスク?(順天堂大学の医師が伝える健康のハナシ)

耐糖能異常の割合は標準体重の約7倍

研究では、18-29歳のやせ型(BMI 16.0-18.49㎏/㎡)の女性98人と、標準体重(BMI 18.5-23.0㎏/㎡)の女性56人を対象に、75g経口糖負荷試験を行いました。この試験は、ブドウ糖を含んだ水を飲んで30分毎の血糖値やインスリンを測定し、体内の糖を処理する能力を調べるものです。2時間後の血糖値が140mg/dlを超える人は、「耐糖能異常」に当たり、“糖尿病予備軍”とも言われています。
試験の結果、標準体重の女性に比べて、やせ型の女性は耐糖能異常の割合がとても高いことが分かりました。標準女性の耐糖能異常は1.8%だったのに対し、やせ型女性は13.3%と約7倍も高く、アメリカの同世代の肥満者(10.6%)と比べても高い数値になっていました。つまり、日本のやせた女性は、欧米の肥満の人と同じくらい血糖値が上がりやすいことが明らかになったのです。
この研究で、もう一つ分かってきたことがあります。耐糖能異常の原因として、血糖を下げる働きをするインスリンの分泌量の低下や、インスリンが効きにくい状態にあることを示すインスリン抵抗性がありますが、やせた若い女性で耐糖能異常がある人は、インスリン分泌低下だけでなく、インスリンが効きにくくなっている「インスリン抵抗性」が生じているということです。
ヒトの体の中で、脂質は脂肪組織に蓄えられていて、主に空腹になると、エネルギーとして使うために遊離脂肪酸に分解され、血液中に放出されます。脂肪組織はエネルギーのタンクのようなもので、その働きをコントロールしているホルモンがインスリンです。体内の脂質が増えすぎてこのタンクの容量をオーバーしてしまうと、遊離脂肪酸はタンクから漏れ出し、肝臓や筋肉でのインスリン抵抗性をもたらし、血糖値の上昇を招きます。

これまで、遊離脂肪酸が漏れ出すことやインスリン抵抗性は、肥満に伴って生じると考えられてきました。ところが、今回の調査で耐糖能異常があった女性のほとんどは、やせているにもかかわらず、かなりの量の遊離脂肪酸が血液中に漏れ出ている状態で、肥満者並みにインスリン抵抗性となっており、これは私たちにとっても予想外な結果でした。つまり、やせた若い女性でも、肥満の人と同様の病態で耐糖能異常が生じているということを、今回の研究が世界で初めて明らかにしたのです。

「エネルギー低回転タイプ」のやせ女性は要注意

研究では、耐糖能異常の調査と合わせて、体組成測定、体力測定、食事内容や身体活動量に関するアンケートも行いました。その結果、若いやせた女性は標準体重の女性に比べて、食べる量が少ない、運動量が少ない、筋肉量が少ないといった特徴があることも分かりました。こうした人は、食べ物から摂取するエネルギーも、運動で消費するエネルギーも少ないことから、「エネルギー低回転タイプ」と呼ぶことができます。
少ししか食べず運動もしなければ、たしかに体重は減るかもしれませんが、決して健康的なやせ方ではないと考えられます。
私たちスポートロジーセンターが、やせた中年女性を対象にして行った研究では、筋肉の「量」が少なく、筋肉に脂肪がたまり脂肪筋の状態になっている「質」も低下している人ほど、血糖値が高いという結果が得られています。エネルギー低回転タイプの女性が、筋肉の「量」と「質」を改善し、糖尿病になるリスクを下げるためには、まずはしっかり動いてお腹を空かせて、しっかり食べるという生活習慣に変えていくことが重要と考えられます。たくさんエネルギーを回転させればさせるほど、健康になれる。そんなイメージを、みなさんに持っていただきたいと思っています。

まずは1日8,000歩を目標に

食事では、バランス良く食べて十分な栄養を摂ることを心掛けることが大切です。やせた女性に多いのが、おなかが空いたときにお菓子やパンだけを少し食べる、というパターンですが、これはで摂取する栄養が炭水化物に偏ってしまいます。筋肉の量を増やすために、肉、魚、豆類などでしっかりタンパク質を摂るのがおすすめです。肉の脂には健康に悪い飽和脂肪酸が多く含まれるので、避けることを意識してください。からだに良い不飽和脂肪酸が多く含まれる魚や、脂質が少ない鶏肉がおすすめです。
さらに大事なのが、動くことです。目標にしてほしいのは、厚生労働省のガイドラインに示された「1日8,000歩」。8,000歩は、距離にすると5~6キロ、時間にすると80分程度になります。大体10分で1,000歩が目安になります。最近は、スマートフォンのアプリでも簡単に自分が歩いた歩数をチェックすることができますから、まずはそれを見て、日常生活でどのくらい歩いているかを意識することから始めてみてください。
この1日8,000歩という目標は、健康を維持するためのベースラインです。これにプラスして、週に2回程度、軽いジョギングや筋力トレーニングをしたり、フィットネスクラブで体を動かすなど、いわゆる「スポーツ」をすると、さらにいろいろな健康効果が得られるでしょう。

「30分に1回、3分間」の運動を積み上げる

以前は、「運動は30分以上続けないと効果がない」といったことも言われていましたが、現在は、むしろ細切れに運動をした方が、食後の血糖値が上がりにくくなるなど、細切れでも様々な健康効果が得られることが研究で確認されています。長時間続けて運動することにこだわらず、仕事や勉強の合間にちょこちょこ動いて活動量を積み上げ、1日のトータルでどれだけ動けたかを意識してください。
“ちょこちょこ運動”の目安は「30分に1回、3分間」。日中に座りがちな人は、たまに立って動き回ることを意識すると良いでしょう。どうせ動くなら、強度も意識するとさらに効果的です。ややきつく感じるけれど、話したり歌ったりできるくらいが、安全で体にも良い運動の強度です。コロナ禍で在宅ワークをしてる方も多いと思いますが、家の中でもできるおすすめの運動の一つが、その場で足踏みをすること。とても簡単ですが、1分間に100回のペースで3分間続けると、意外にいい運動になります。運動の強度は、膝を上げる高さやからだの上下動などで調節してください。

運動を続けるポイントは、日常生活の中で習慣化することです。通勤や通学で一駅手前で降りる、買い物に行く頻度を週1回から毎日にする、散歩のコースを少し遠回りに変える、というように、日々の習慣の中で活動量を増やしていきましょう。最近では、スマートフォンの位置情報を利用して実際の街を歩いて遊ぶゲームもあり、そのおかげで活動量が増えた方もいます。自分なりの楽しみをうまく見つけながら、運動を習慣づけてください。何かを楽しんでしていたら、いつのまにかからだを動かしていた、というのが理想と言えるかもしれません。散歩、ウインドウショッピング、観光など、身近な所に沢山のヒントがあると思います。
健康のための運動で大事なのは、一歩目を踏み出すこと。そして、毎日少しずつ活動量を積み重ねていくことです。今まであまり運動をしてこなかった方は、いきなり高い目標を立てず、まずは「何でもいいから今よりも動く」という気持ちで運動を始めてほしいと思います。

Profile

田村 好史 TAMURA Yoshifumi

順天堂大学 国際教養学部 教授
大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー 先任准教授
大学院医学研究科代謝内分泌内科学 准教授

1997年、順天堂大学医学部医学科卒業。2000年、カナダ・トロント大学生理学教室に研究生として留学。2005年、順天堂大学大学院医学研究科修了。順天堂大学医学部内科学 代謝内分泌学講座准教授、国際教養学部先任准教授を経て、2017年より国際教養学部教授。2020年より大学院スポーツ医学・スポートロジー 先任准教授(併任)、2021年より大学院ジェロントロジー研究センター 准教授(併任)。2016年~2018年までスポーツ庁参与も務めた。

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