MEDICAL

2022.03.15

透析医療の新しいカタチ。工学×医療の知見から患者に寄り添う医療機器を生み出す

腎臓の機能を代替する人工透析治療。糖尿病などの病気をきっかけに腎不全に陥り、腎臓の機能が廃絶した患者に対し施行される代表的な治療方法のひとつです。透析治療は、世界で300万人を超える腎不全患者の救命・延命に成功しましたが、そこにはいまだ課題が山積しています。より患者の負担を少なく、より長く命を延ばすために、新たな人工腎臓治療の開発に挑む峰島三千男先生にお話を伺いました。

透析大国日本の腎不全治療の現在

さまざまな病気により腎臓の機能が低下する腎不全は、高血圧や心不全、水・電解質異常などの合併症を引き起こす可能性があり、そのまま放置すると最終的には死に至る恐ろしい病です。腎不全を引き起こす原疾患として最も多いのが糖尿病です。慢性腎不全の治療法には腎移植と透析治療がありますが、腎移植はドナー提供者の数に限りがあるため、透析治療を利用し延命していくことケースが多いのがわが国の現状です。この透析治療について、工学・技術面における権威で、血液浄化を中心とした臨床工学研究に従事する峰島三千男先生は次のように語ります。

「透析治療は日本では1950年代に開始され、現在では世界一と言われるほどの高い技術を誇っています。70年前には助からなかった命が、今では十年、二十年と延命できるようになり、その点では成功していると言えるでしょう。それでも、透析患者の平均余命は健康な人と比べて約半分ほどにとどまります。また、患者の血液を体外へ取り出し、装置で浄化して元に戻す工程を1回4時間×週3回行わなければならない透析治療は、身体への負担が非常に大きいのも事実です。私はこれではまだまだ治療法として不十分だと感じています。より負担を少なく、より寿命を長くするために、さらなる改良が必要だと考え研究を続けてきました。」

一人ひとりにあわせた透析治療を実現する“ナビゲーション透析”

約70年前に開発された歴史ある透析治療ですが、その過程で研究者たちは「人工物で腎臓を作ろう」と模索してきました。携帯型や埋め込み型などアイディアは生まれるものの、血液が固まったり感染を起こしたりとさまざまな問題に直面し実現には至らず、現在のような体外装置に繋いで血液浄化を行う人工透析の形が取られてきました。身体への負担が大きい透析において、患者さんが少しでも快適に治療を受けられるシステムを開発しようと、峰島先生が取り組んでいるのが「ナビゲーション透析システム」です。

「ナビゲーション透析の目標は、個々の患者さんに合った透析治療(適正透析)を実践することです。最新のセンシング技術やビッグデータ解析を活用し、患者さんをリアルタイムでモニタリングしながら、より安全な状態にナビゲートするという仕組みになります。具体的には、透析中の患者さんの細かな変化のデータを蓄積し、機械学習を通じてAIが解析。医師が適正な判断(処方)を下すための対処法の候補を提案するというものです。」
工学部の出身でかつ臨床現場で長年活躍してきた峰島先生だからこそ培われた、工学の知識と臨床における感覚が生かされているといいます。

峰島先生が開発に取り組むナビゲーション透析の仕組み

「患者さんの状態やライフスタイル、透析治療の進捗状況などに合わせてきめ細かく対応することで、透析による体の負担を減少できれば、より長く延命することに繋がります。技術や医療機器を進化させていくことで、患者さんの病態を改善させていきたいと考えています。」

さらなる医療の進歩による新たな治療法への期待

腎不全の治療に対する昨今のめざましい医療技術の進歩に伴い、透析医療ではない新たな治療法の開発にも注目が集まっています。一つはiPS細胞などを使った再生医療。「腎臓は構成する細胞だけでも30種類以上あると言われ、臓器の中でも再生が非常に難しいとされていますが、基本構造の再生はすでにできています。患者さんの皮膚などの体細胞をもとに腎臓を再生することができたらとてもすごいことですよね」と峰島先生は期待を寄せます。
もう一つが異種移植。異種間の臓器移植は激しい拒絶反応が起こりますが、患者の遺伝子を組み込んだ動物(ブタ)の腎臓を移植する「トランスジェニックと免疫寛容の技術」を活用することで拒絶反応を抑えた移植が可能になるとされており、今後の展開が期待されています。

透析医療ではない新たな腎不全の治療法の開発も進む

透析を超える未来の腎不全治療を生み出したい

さまざまな治療法が研究される中、透析とは異なる、全く新しい発想の人工腎臓治療技術として峰島先生が構想しているのが「マイクロリアクタ型人工腎臓治療システム」です。日本が得意とするマイクロテクノロジーを医療に転用し、小さなマイクロマシーンを体内に埋め込み、患者さんの身体の反応に合わせて必要な物質を放出することで治療を行う人工腎臓の開発を目指しています。
「マイクロリアクタとは、例えば、患者さんの血圧が下がったら、それを検知して血圧を上げる薬が放出されるといった仕組みです。また腎不全の患者さんは、体内のアルカリ産生が減り、血中の酸が過剰な病態にしばしば陥ります。ですから体内のpH(水素イオン濃度)をセンシングし、必要なアルカリを放出して正常状態を維持できる機器を埋め込むことができれば、病態の安定につながるでしょう。体内に小型の機器を埋め込むというとSFの世界のようですが、工学的に考えてもマイクロ化はとても効率がよく、有効性は高いと考えています。」実際に、体内での薬の分布を制御するシステム(ドラッグデリバリーシステム)はすでに実用化が進んでおり、技術の応用も可能だと峰島先生は語ります。
「一部はすでに実現している技術もあり、今後ますます発展していくでしょう。こういった第3のアプローチにより透析の導入を遅らせることができれば、健康寿命を伸ばすことが可能になります。これらの研究開発をさらに進め、いずれは透析を上回る技術を開発したいというのが私の目標です。」

医療科学部臨床工学科 峰島 三千男 特任教授

Profile

医療科学部臨床工学科 峰島 三千男 特任教授

峰島 三千男 MINESHIMA Michio
順天堂大学医療科学部 臨床工学科長・特任教授

早稲田大学 大学院理工学研究科博士課程 応用化学専攻修了。東京女子医科大学 腎臓病総合医療センターで助教授、臨床工学科教授を経て、2022年より順天堂大学医療科学部臨床工学科長・特任教授。
血液浄化を中心とした臨床工学の研究に従事。日本アフェレシス学会、日本透析医学会、日本生体医工学会、日本人工臓器学会等に所属。

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