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2022.03.23

「人生100年時代」!高齢者の健康長寿に影響を及ぼす「フレイル」とは

03.すべての人に健康と福祉を

「最近、これといった理由もなく体重が減った」「階段の昇り降りがつらい」「ペットボトルのふたが開けづらくなった」「物忘れが多い」「歩くスピードが遅くなった」「まったく外出せず、気力もない」......65歳を過ぎた方で、とくに深刻な持病があるわけではないのに、こんな症状を感じた経験はありませんか?その症状、「年のせい」ではなく、もしかしたら「フレイル」かもしれません。高齢者が気をつけたい「フレイル」について、お話します。

人生100年時代、超高齢社会のわが国で急増中!
「フレイル」ってどんなもの?

平均寿命世界一のわが国は、高齢者が国民の約3割を占める超高齢社会であり、100歳以上の高齢者も約8万人と急増し、いまや人生100年時代を迎えています。超高齢社会のわが国においては健康長寿がキーワードとなっており、平均寿命よりも、日常生活に制限のない期間である「健康寿命」の方が重要であり、「いきいきと」楽しく生きる大切が注目されています。そのため、「いきいきと」生きるために、日常生活に支障をきたす要介護にならないための対策が重要であり、最近フレイルという言葉が注目されてきました。

「フレイル」とは英語の「Frailty(虚弱)」から生まれた言葉で、「加齢により心身が衰えた状態」を指します。フレイルをそのまま放置すると、日常生活に支障をきたし、要介護状態となる危険性が高まります。つまり、「健康」と「要介護状態」の中間にある状態がフレイルと考えるとわかりやすいかもしれません。

一度要介護状態になってしまうと、昔のように自分の足でどこへでも行ける力を取り戻すのは至難の業です。一方、フレイルは早めの段階で把握できれば、適度な運動やバランスのよい食事を続けることで、健康な状態に戻れる可能性があるといわれています。

実はフレイルには身体の虚弱をさす「身体的フレイル」だけでなく、「社会的フレイル」「精神・心理的フレイル」の3つの要素があります。「社会的フレイル」とは、ひきこもりや孤立、孤食、社会的サポートの欠如など、社会的側面の脆弱性を指します。「精神・心理的フレイル」には、軽度認知機能障害(MCI)やうつ状態などによるメンタル面の虚弱を指します。「身体的フレイル」「社会的フレイル」「精神・心理的フレイル」の3要素からなるフレイル(虚弱)は、要介護状態のみならず、転倒・骨折・認知症・生命予後・医療費の増加など多岐にわたり悪影響を及ぼすことが知られています。また、最近では健康は 口は、生きるの1丁目ともいわれ、口腔機能の低下が低栄養やフレイル・サルコペニアを引き起こすともいわれ、オーラルフレイルとして注目されています。さらに、皮膚や泌尿器機能の低下もフレイル症状のひとつとして認識されつつあります。

こんな症状が出たら要注意!
お心あたりはありませんか?

では、フレイルの兆候とはどのようなものでしょうか。よくある症状をご紹介します。

〇これといった理由もなく体重が減った
〇青信号で渡り切れなくなった
〇階段の昇り降りが以前よりつらくなった
〇なんとなく身体がだるい
〇身体が思うように動かない
〇ペットボトルのふたが開けられない
〇なぜか食欲が湧かない
〇手足がやせてきた(指で作った輪が足首からひざまでスッと通る)
〇物忘れが多い
〇歩くスピードが遅くなった
〇外出もせず、気力もない
〇一人暮らしで、一日中誰とも会話しない

ご紹介したのは加齢とともにありがちな症状のため、かかりつけ医に相談しても「年のせい」で片づけられがちです。しかし、一見して、健常者とフレイル患者さんは判別しづらいこともありますので、専門医の検査や診断を受けて初めて判明する例も少なくありません。

専門医が語る「フレイル診断の現場」

フレイルの症状は人によりさまざまで、認知症患者さんの約7割がフレイル、もしくはプレフレイルともいわれており、うつ症状を合併していたり、腹部症状(胸やけ・胃もたれ・便秘等)を有していたり、骨粗鬆症やサルコペニア(手足の筋肉量の低下した状態)を高率に合併していたり、低栄養状態であったりします。
また、フレイルを調べるうちに他の病気が見つかることも少なくありません。排尿障害や嚥下障害、不整脈や呼吸機能低下や消化器症状、低亜鉛血症などとの関連が判明することもありますし、誤嚥性肺炎の予防など総合的な治療にもつながりやすくなります。

どうやって診断する?
簡単な検査でフレイルがわかる

フレイルの検査や診断はおもに専門外来で行います。代表的なフレイルの診断方法を用いて、下表の5つの項目のうち3つ以上が該当すると、フレイルと診断されます。1~2つは「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれにも該当しない場合を「健常」と判断します。

改訂日本版CHS基準(J-CHS基準)より

検査はごく一般的な体重計や握力計などを使って行われます。その場で患者さんが歩く速度を医師や看護師がストップウォッチで測定するなど、心身への負担は軽微なものとなっています。

専門医が語る「隠れフレイルの発見」

フレイルの患者さんには、見るからにがっしりとした体格の方や、体力がありそうに見える方もいらっしゃるので、一見してフレイルとわからない方が少なくありません。こうした「隠れフレイル」を簡単な検査で発見し、早めに対策をすることで、要介護対策を事前にたてることにもつながります。

フレイルのほかに知っておきたい
「ロコモ」と「サルコペニア」

近年、フレイル以外によく耳にするものに「ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)」「サルコペニア」があります。
「ロコモ」とは、身体を動かす骨・関節・筋肉の機能が低下し、「立ち上がる」「歩く」など移動に関わる動作が難しくなることを総称したものです。「ロコモ」の中には骨の密度が下がる骨粗鬆症、関節の軟骨に障害が起きる変形性関節症や変形性腰痛症、そして四肢の筋肉量が減少する「サルコペニア」が含まれています。サルコペニアは栄養障害とも関連があるといわれており、転倒や骨折はもちろん、認知症・糖尿病・骨粗鬆症や、排尿障害・脱水・熱中症・摂食嚥下障害などと密接に関わっています。

気をつけたいのは、フレイルも、サルコペニアも、骨粗鬆症や変形性関節症などを含めたロコモも、要介護の直接の原因になりやすいという点です。厚生労働省の調査によると、74歳までの前期高齢者が要介護になる原因の半数程度は生活習慣病からくる脳血管・心臓血管障害ですが、75歳を超えるとその割合はどんどん減り、代わりに衰弱(フレイル)や転倒・骨折(ロコモ)が急増します。つまり、長生きすればするほどフレイルやロコモが原因で要介護になりやすく、人生100年時代にフレイル・ロコモ対策が欠かせないことがわかります。

専門医が語る「年齢を理由にあきらめない!」

大きな病気がなくても要介護状態と密接な関係があるフレイル・ロコモ・サルコペニアは、ある意味、社会全体の長寿化が生んだ結果ともいえます。外来にいらっしゃる80代の患者さんの中には、「もう年だから…」とあきらめ半分の方もいらっしゃいます。しかし、「今は人生100年時代。あと20年、ご自身がお元気に過ごしていただくことが、ご本人の幸せだけでなく、ご家族の介護負担を減らすことにもつながりますよ」とお話させていただくと、新たに100歳を目指して、ご本人の意識が変わることもあります。ひとりでも多くの方に人生の最後まで生き生きとハッピーに過ごしていただくこと、それが私たち専門医の願いです。

フレイルの予防と対策は?
フレイルの専門外来も登場

フレイルにならないためには、日頃からたんぱく質が豊富な食事をとり、ウォーキングやラジオ体操・スクワットなど適度な運動を続けることがなによりも大切です。丈夫な足腰を保つためには全身の筋肉量を減らさないよう、日常的に身体を動かして運動機能を維持する必要があります。さらに栄養や運動に配慮するには、高齢者を孤立させず、周囲の人が食事や身体の動きに気を配り、こまめにコミュニケーションを取ることが理想です。

最近では各地の病院に「フレイル外来」や「ロコモ外来」ができており、専門医が診断も行っています。フレイルは全身の衰えに起因する状態ですので、現在のところ、特効薬のようなものはありません。ただし、診断後に理学療法士による運動指導や管理栄養士による栄養指導を行っている病院もあり、プロフェッショナルによる指導が患者さんの大きなやりがいにつながることもあります。

高齢者医療を重点的に行う順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターにも2020年9月より「長寿いきいきサポート外来(フレイル・サルコペニア外来)」が開設され、専門医の診断や運動指導・栄養指導などを提供しています。フレイルの段階であれば健康な身体へと戻ることも可能です。「年のせい」とあきらめず、一度正確な診断を受け、今の自分の健康状態を把握することをお勧めします。

専門医が語る「コロナ禍におけるフレイル」

新型コロナウイルスの感染拡大により、最近では「コロナフレイル」という言葉も登場しています。感染を避けるため高齢者が自宅にひきこもり、運動不足になったり、社会との接点が減ってコミュニケーション能力が低下するなど、見過ごせない問題が起きています。もともと超高齢社会の日本。新型コロナウイルスがフレイル対策の重要性をますます高めたといっても過言ではありません。

取材協力:高齢者医療センター 長寿いきいきサポート外来(フレイル・サルコペニア外来)

宮内 克己 副院長・循環器内科 教授

浅岡 大介 消化器内科 科長・先任准教授

菅野 康二 呼吸器内科 科長・准教授

松野  圭 呼吸器内科 助教

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