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2022.10.03

老後も自立した生活を送るために。データが示す、健康でいるための秘訣。

03.すべての人に健康と福祉を

「人生100年時代」と言われる今、老後も健康で生き生きした生活を送りたいというのは多くの人に共通する願い。その願いを実現するため、ヘルスケア分野にもデータサイエンスを導入し、ヘルスデータを分析して個々人の状態に則したアプローチを提案したり、要介護の兆候を早期に発見したりする動きが活発になってきています。こうした世の中のニーズに応えるべく、順天堂大学は2023年度4月に健康データサイエンス学部を開設します。同学部の特任教授である姫野龍太郎先生は、データに裏付けられた情報を基に、適切な運動習慣によって平均寿命や健康寿命を延ばすことが可能だと語ります。 (本記事は2022年7月に順天堂大学浦安・日の出キャンパスで開催された地域公開講座の内容をもとにして作成したものです。)

要支援・要介護の期間は、男女平均して約10年

2021年発表の厚生労働省のデータによると、2019年の日本人の平均寿命は男性で81.41歳、女性は87.45歳となっており、2001年から右肩上がりで伸び続けています。しかし、一概に平均寿命が長ければ長いほど良いと言うことはできません。誰もが寿命を迎えるまで健康でいられるとは限らないからです。近年、平均寿命とセットで「健康寿命」という言葉がよく語られるようになっていますが、これは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指しています。つまり、平均寿命と健康寿命の差は何らかの支援や介護を必要としながら暮らす期間であり、その長さは男性で約8.7年、女性で約12.1年となっています。健康寿命を延ばし、自立した老後を送るためには、早い段階からの努力が不可欠です。

(厚生労働省発表のデータより作図)

早期の対策のため、自分の今の健康状態を把握する

要支援・要介護の原因のうち、予防できる可能性があるものとして、高齢による衰弱、転倒・骨折、関節疾患、認知症が挙げられます。例えば認知症の場合、アルツハイマー型認知症を発症してしまうと現代の医療では完全に治療することはできませんが、発症に至る前の「軽度認知機能障害(MCI)」の段階ではまだ治療が可能です。そのため、認知機能の低下を早期に発見することが重要です。専門用語でIADL(Instrumental Activities of Daily Living)と呼ばれる、日常生活を送る上での判断力を伴う動作の能力を、普段の動作から測る指標として、日本では「老研式活動能力指標」が広く用いられています。公共交通手段を用いての外出や、読書、書類作成など13の評価項目で形成されており、年代ごとに設定されている合計得点の目安を下回らないことが重要です。では、具体的にどのような対策を行うべきなのでしょうか。

≪参考リンク≫
健康長寿ネット「高齢者の生活機能」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/seikatsu-kinou.html

歩行習慣を身につければ、要支援・要介護を予防できる

その答えは、都市部と農村部それぞれの前期高齢者におけるIADL低下者の割合から見つけることができます。どちらの方がIADL低下者が多いか予想してもらうと、農村部では農作業を行う高齢者が多く、生涯現役の人ばかりだと感じる方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?ところがこれまで日本で行われてきた実験の結果は逆を示しています。都市部の高齢者の方がIADL低下者の割合は少ない、すなわち自立できている人が多いのです。都市と農村の違いは何にあるのでしょうか。
大きな要因が「歩く時間の差」にあります。農作業は今や機械化が進み、農村での移動手段は基本的に自家用車であるため、農村部では1日にたくさん歩く高齢者の割合が少ない。現地で見ると一目瞭然ですが、道が狭く、道路を歩くと危険が多いです。一方、都市部では主に公共交通手段を用いる割合が多く、ウォーキング向けに整備された公園も各所にあるため、歩く機会が自然と増えていきます。
また、「スポーツの会への参加有無」も要因に挙げられるでしょう。スポーツの会に定期的に参加するとIADLの低下率が減少 するということがわかっていますが、都市部と農村部では都市部の方が参加者が多くなっています。さらに、スポーツは筋力を維持し、バランス能力を向上させるため、要支援・要介護の原因である転倒・骨折の予防にも繋がります。

データから読み解く、歩行・運動がもたらす効果

歩行が健康に与える影響は他にもあります。なんと、歩行速度が速い人は平均余命が長いというデータがアメリカで示されているのです。65歳で歩行速度が1.6m/secの人は、同じ年代で速度が0.2m/secの人より平均余命が25~30年ほど長くなっています。
同じくアメリカで、1日の歩数が多い人ほど死亡リスクが下がるという論文も発表されています。この論文では、1日の歩数が1万2千歩以上の群の死亡率が、4千歩未満の群の約16の1だという結果が出ています。

(Pedro F. Saint-Maurice, JAMA. 2020を元に作成)

運動ができなくなっている人の生存率を測ったデータもあります。①体重減少②筋力低下③疲れやすさの自覚④歩行速度の低下⑤身体活動量の低下の5つの項目のうち3つが当てはまる状態を、身体の筋肉が弱まってきている「フレイル」、1~2つ当てはまれば「前フレイル」と定義されますが、これまでの調査によると、フレイル状態の人のその後の生存率は、健康状態の人と比べて低くなること が分かってきています。ただし、フレイルは筋肉が衰えている状態であるため、適切なトレーニングや栄養状態の改善を行えば改善が可能です。他に、ここ数年で耳にされた方もいらっしゃるであろう「ロコモーティブ・シンドローム(ロコモ)」も移動するための能力が衰えた状態のことで、同様に運動・食事で進行を抑えることが可能です。

フレイルもロコモも、運動量が減ると筋肉が使われずに痩せていき、その筋力低下によって疲れやすくなり、さらに運動しなくなるという負のサイクルを起こしています。予防・改善に大事なのは、この負のサイクルを断ち切ることです。もちろん無理は禁物ですが、歩行は認知機能回復にも効果が認められており、総じて歩行・運動が人々の健康促進に絶大な影響を与えるとデータから読み解くことができます。

“誰かと一緒に”運動に取り組むということ

いざ、運動を始めようと思っても、気持ちが乗らなかったり、ハードルが高い方も多いでしょう。そんな方は知り合いと連れ立って喋りながら歩いたり、思い切って運動教室に参加するのがおすすめです。以前、長野県で2ヶ月~6ヶ月の運動教室を開催し、併せて参加者個々人の健康状態が参加前と後でどう変化したかの検証を行ったことがあります。結果は、多くの参加者に体力・認知機能の向上が認められただけでなく、ある80歳の方の場合、以前は家の中に閉じこもりがちで転倒リスクも高かったのが、参加後はよく人と楽しくお話されるようになり、転倒リスクの低下が見られました。週一回の運動に加え、いろいろな世代の人々と和気あいあいと話すことが良い刺激になったのだと思います。仲間との運動は、互いに応援したり評価し合ったりすることができ、継続しやすいのではないでしょうか。
順天堂大学では学生が浦安での運動教室を計画中ですので、ぜひ今後にもご期待ください。自分の力で生き生きとした生活をできるだけ長く送れるように、自分に合った歩行・運動習慣を身につけてみませんか。

≪関連記事≫

健康寿命と平均寿命の間には約10年の差が?! どうすれば人生の最晩年まで自立して暮らせるのか。
https://goodhealth.juntendo.ac.jp/social/000041.html

「人生100年時代」!高齢者の健康長寿に影響を及ぼす「フレイル」とは
https://goodhealth.juntendo.ac.jp/social/000268.html

今、求められるデータサイエンス

データによって得られた情報は、健康を客観的に分析し、考えるうえで大いに役立ちます。
テクノロジーの発達は目覚ましいスピードで進んでおり、現在は身の回りのあらゆるデータの取得が可能となりつつあります。「超高齢社会」を迎えて久しい日本社会において、データを適切に活用することは、健康寿命の延長や質の高いヘルスサービスの提供につながります。
健康データサイエンス学部では医療やスポーツをはじめ、あらゆる領域でデータ分析に基づく新しいソリューションを提案できる人材の育成を目指します。

≪関連リンク≫

順天堂大学健康データサイエンス学部
https://www.juntendo.ac.jp/hds/

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データサイエンスの興隆をもたらしたものとは?【データサイエンスの未来】

https://goodhealth.juntendo.ac.jp/pickup/000272.html

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