MEDICAL

2022.09.27

スペシャリストとして腕を振るいながら順天堂ハートチーム一丸となって病に挑む<心臓血管外科トップ対談>

1968年の開設以来、日本の心臓血管外科治療をリードしてきた順天堂大学医学部附属順天堂医院の心臓血管外科。現在は、主任教授の田端実先生による低侵襲心臓手術、前主任教授で特任教授の天野篤先生によるオフポンプ冠動脈バイパス手術を中心に、高難度な先端医療で数々の実績を挙げています。そんな心臓血管外科を代表する2人の医師に、順天堂の心臓血管外科の特徴や強み、それぞれが心臓外科医として大切にしていることなどを語り合ってもらいました。

スペシャリストの層の厚さとチーム力が強み

順天堂大学心臓血管外科の特徴を教えてください。

田端

現在、当科では主に2つの専門的治療を重視しています。一つ目は患者さんの早期社会復帰を目指す低侵襲治療で、内視鏡を用いた心臓手術 (MICS) や経皮的大動脈弁置換術(TAVI)などのカテーテル手術、さらに天野先生がパイオニアとして行ってきたオフポンプ冠動脈バイパス術などがあります。そして、もう1つが一般的な病院では対応できないような高難度な治療です。一度に複数の手術が必要となる複合手術や繊細な剥離手技を要する再手術症例、心臓やその他臓器の機能が低下した症例など、複雑でハイリスクな症例を受け入れる“最後の砦”としての役割を担っています。

一人ひとり執刀医の技術が重要なのは当然ですが、チーム力をとても大切にしています。どんなに腕がいい外科医でも1人でできることには限りがあり、術前に正確な診断と評価をするチーム、麻酔科医や看護師、人工心肺を管理する臨床工学技士からなる手術チーム、さらに術後管理やリハビリを行うチーム、これら全てが揃ってこそ安全かつ質の高い治療ができるのです。

 

最近の心臓血管外科治療を取り巻く環境に変化はありますか。

田端

今は本当に手術のオプションが豊富で、患者さんの希望やニーズも多様化しています。元気で長生きしたいということは誰にも共通した希望だと思いますが、働き盛りの世代の人たちからは「遠い将来のことよりは、なるべく早く仕事に復帰して、すぐに100%の力を発揮できるようにしてほしい」という希望を聞くことがあります。そういった患者さんのニーズをきっちり聞いた上で治療法を考えていくことも我々の重要な仕事です。

田端 実 先生

天野

以前よりも圧倒的に高齢患者さんが増えていて、また大学病院の特徴として心臓以外の病気を抱えている患者さんが多くいます。このような患者さんへの外科治療の入口が低侵襲手術であるのは論をまちません。低侵襲治療の適応や新たな手術デバイスの正しい使い方に精通することが新たな医療安全分野となると考えます。

心臓手術は他の手術より身体への侵襲が大きいので、退院後に手術侵襲の影響が及ぶこともあります。ですから、術後にはいかに普通の生活に戻れたかを長年にわたって自分たちでモニターしてきました。しかし、例えば虚血性心疾患の原因は生活習慣病ですから、私たち心臓外科医が長くモニターするより、糖尿病や高血圧を適切に管理できる内科医に診てもらったほうがいいこともあります。何でも自分たちでやるというのではなく、あくまでも患者さんにとって何がベストかという観点で治療方針を選択しなければいけません。

 

田端

そういったこともチーム医療として大切な部分ですね。私たちは投薬治療の専門家ではないので、そこは内科医にお任せすると患者さんにも説明します。私は現在年間400例の手術を執刀していますし、天野先生は多いときにはもっとやられていたと思います。そうなると全部の患者さんを自分で継続的に診るということは不可能です。

弁膜症ではカテーテル治療を行うことがありますが、順天堂では循環器内科と心臓血管外科からなるハートチームという体制で行っています。外科治療、カテーテル治療、内科治療という選択肢が考えられる症例に関しては、ハートチームのカンファレンスで話し合っていますので、循環器内科でも心臓血管外科でも受診した科によって内容や質が変わることはありません。

時代に後押しされてエキスパートに

天野先生と田端先生は、それぞれどのようにしてご自分の専門を決めたのですか。

天野

冠動脈バイパス手術という得意分野ができたのは、時代背景においてそのような患者さんが多かったという影響がかなり大きいと思っています。私たちの時代はバイパス手術を必要とする患者さんが多く、一番多かった時期は心臓手術の9割がバイパス手術でした。その当時も弁膜症の患者さんはいたと思いますが、内科治療が中心で、手術に回ってこなかったのです。しかも検査精度が十分ではなく、手術が必要な段階で見つけられなかったという理由もありました。

私も田端先生も両方の手術を担当しながら得意分野を確立してきたのですが、今は順天堂の心臓血管外科の特色を強くするためにお互いの専門を前面に出す体制で進めています。そのため、知り合いから弁膜症の患者さんが紹介された時も田端先生にお願いして、田端先生が考える治療をしてもらっています。

天野 篤 先生

必要とされる治療についてベストを尽くし続けていた結果、得意領域になっていたということですね。

田端

私もそうです。弁膜症患者さんが増えてきた時代に育ったことが弁膜症手術を専門に選んだ最大の要因です。私の場合は、もう一つの大きなファクターとして「出会い」がありました。私はたくさんの師匠がいるのですが、なかでも医師6年目にボストンの病院での上司と出会ったことが大きく、彼は低侵襲手術や僧帽弁形成術のパイオニアで、彼の手術を学んで、こうした手術の魅力に惹かれその修行を積んだことがかなり影響しています。

 

患者さんにとっては、2人のエキスパートがいるということは大きな安心感になると思います。

田端

やはり1人でできることは限られていますし、1人しかいないとその人に何かあれば立ちゆかなくなってしまいます。我々以外にも順天堂には大動脈手術や先天性心疾患手術のエキスパートもいますし、二枚とはいわず、何枚岩にもなっていることがこのチームの力で、これからもさらに厚みのあるチームにしていきたいと思っています。

 

天野

当院のように手術件数が多く「ハイボリュームセンター」と言われる施設では、全ての領域を1人でカバーすることなど不可能ですから、早い段階から、意図的にそれぞれの領域の専門家を作っていく必要があります。それは臨床に限らず、研究者を育成していくことも大切なのです。

先ほど話したとおり20年前の治療の中心はバイパス手術でしたが、加齢などによる心臓弁のトラブルが多い高齢者が増えた今は弁膜症治療が中心になっています。もちろん大動脈瘤も増えています。では次の心臓手術の主流になるものは何かと聞かれても、今は誰もこたえることができません。大学病院は研究をしながら将来の方向性を探っていくという使命を負っていますから、若い研究者を育成しつつ新しい治療法の開発も進めています。

順天堂医院
次の世代の育成について注力していることはありますか。

田端

教育については多様性を重視したいと考えています。これまでの心臓外科医像は、朝から晩まで手術室や病棟に張り付いている印象ですよね。もちろん、そういう外科医気質はこれからも必要とされますが、働き方改革は必要ですし、そもそも皆が皆そういうタイプの外科医である必要はありません。色々な才能をもった様々なタイプの外科医にこの科で活躍してほしいと思っています。従来の心臓外科医像とは違っても活躍できることは必ずありますから、それぞれが持つ才能を生かして心臓外科医を育成していきたいです。医学の知識・技術だけでは医療は進歩しませんし、医学以外の何か得意なものを持っている人もどんどん引き入れて、イノベーションを起こすきっかけになればと考えています。

20ミクロンの隙間を覗くような職人的魅力

心臓外科のどういったところに面白さや醍醐味を感じていますか。

天野

私がこの領域に入った最初の頃は、臓器と臓器の間の1センチメートルくらいの隙間を見ていたんです。そこから経験を積むに従って、5ミリ、1ミリと狭まっていき、今は20ミクロンくらいの隙間を覗いている感覚です。隙間を見るといっても、目だけでなく、触覚などの五感を使って「感じられる」かどうか。そこには職人仕事の面白さと似たようなものがあると感じています。その隙間を見つけることができたら、患者さんの臓器の機能を回復させたり向上させられる。それが自分を突き動かす動機になっています。

最初のうちはどんどん技術が向上していることを実感できるのですが、時間が経ってくると、つまずくことも増えながら少しずつ進歩するようになる。そうやって辿り着いた今は、この先自分がどこに行くのかを探しているような状態で、その答えが見つからないから未だにやっているのかもしれません。

田端

心臓外科医は、生命やその後数十年におよぶ生活など、患者さんの人生そのものに関わる責任があり、その分やりがいもあります。また、手術の難易度も高いので、もっとチャレンジしていこうという気持ちをかき立ててくれます。そのおかげで心臓外科医になって20数年経ちますが、まったく飽きないですし、私より長くやってらっしゃる天野先生もぜんぜん飽きていないですよね(笑)。やはり常に高みを追求できる領域であることが最大の魅力ではないでしょうか。

また、心臓の手術はいくら低侵襲になっても未だに体への負担は大きく、中にはいまだに治療成績の良くない疾患もあります。まだまだイノベーションを起こす余地がたくさんあるということも、私にとっては心臓外科の醍醐味の1つです。社会貢献も重要なキーワードで、今までなら心臓手術をすると1ヶ月は仕事を休まなければならなかったのに、低侵襲治療によって1週間だけ休んで働けるようになれば、医療費低減や社会生産性の向上につながります。これはもちろんほかの診療科でも同じだと思いますが、患者さんの人生を背負う責任や手術技術向上への持続的挑戦によるやりがいだけでなく、イノベーションや社会貢献も考えられる領域なのです。

 

専門領域が異なることで、互いに学び合うことはありますか。

田端

天野先生のようなビッグすぎる先輩に対して恐れ多いですが(笑)。私は順天堂に来るまでの8年間ほど自分がトップとしてやってきたこともあり、自分より経験ある外科医の手術を見る機会がほとんどありませんでした。それが順天堂に来てからは日常的に天野先生の手術を見られるようになり、考え方や技術などあらゆる面で勉強になっています。しかも、とても気さくにアドバイスをしてくれますし、非常に恵まれた環境でやらせてもらっています。

天野

私は以前は自分からどんどん言いたいほうでしたけれど、今はみんなで考えたことを尊重したいと思っているため、カンファレンスでも意見を求められれば話す程度で、ほとんど何も言いません。ただし、術後管理が困難と思われるケースについては、基本的に手術をしないという選択肢も含めて検討するように提案しています。その多くは重症化した高齢患者さんの再治療などですが、いくら自分の手術に自信があっても、医療安全の観点から手術を回避する手段を探します。そこは最後のチーム医療として私が重視していることです。

一方で、そういった判断はチーム全体で検討することでもあります。リーダーが最初からできないと言ったら、みんなできなくなってしまいますよね。だからこそ、リーダーとしては「Yes, We can.」の精神も大事です。しかも、田端先生は今より少しでも良くできるように新しい器具や再生医療を取り入れるなど、次の医療のビジョンを作りながらやってくれています。そういう意味でも、田端先生は理想的なリーダーだと思っています。

「不断前進」の精神で常に上を目指す

それぞれ目指す外科医像はありますか。

田端

心臓外科医のもとにやってくる患者さんは、自身はもちろんのことその家族や紹介してくれた医師たちの大きな期待とともに受診されます。私はプロフェッショナルな心臓外科医として常にその期待を超える結果を出すということを常に意識しています。そして、現状に満足せずに常に自分たちの仕事を改善し、また新しいものを創っていくことを目指しています。順天堂大学の理念である「不断前進」は私もすごく好きな言葉で、いつもそうありたいと心に刻んでいます。

それぞれの医師が持つ高い技術力とチーム力が心臓血管外科を支えている

天野

未だに自分を求めてくれる患者さんがいて、「やっと会えました!」と手を握られると心動かされるものがあるものです。その気持ちには誠実に応えていきたいですし、そういうものがある限りは現役でいたいと思っています。

私が順天堂にいる理由のひとつに、病院長だったときに理事長から言われた言葉があります。「今の医療や今の患者さん、今の職員にではなく、将来の医療や将来の患者さん、将来の職員に応えられる順天堂でなければならない」というその言葉が、グサッと胸に刺さりました。その思いを今度は私から言えるように、未来の順天堂で働いてくれる人たちの期待に応えられるような環境づくりや医療の展開をしていきたいと思っています。

では最後に、今後の順天堂大学心臓血管外科の展望をお聞かせください。

田端

全国にたくさんある心臓外科の1つであるならば意味がありません。順天堂大学心臓血管外科が存在する意義を追求して、臨床、研究、教育の全てにおいて日本のみならず世界をリードする施設を目指していきたいと思います。臨床、研究、教育、そしてそれ以外の分野でも、前例にとらわれず新しいことにチャレンジをして、イノベーションを起こしていくことで個々の患者さんと社会に貢献していきます。

 

天野

私は現在、800床の新病院開設のための設立準備委員長を務めているのですが、その病院全体を低侵襲治療の病院にしたいと考えています。そのステージで改めて心臓血管外科としての絵を描いてほしいというのが当科への希望です。病院のあり方を考え直し、新しいステージに向けて環境を整えておくということが今の私の使命だと考えています。

関連リンク

順天堂医院心臓血管外科(順天堂医院HP):https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shinzo/

順天堂医院心臓血管外科(オリジナルHP):https://juntendo-cvs.com/index.html

Profile

田端 実  TABATA Minoru
順天堂大学医学部附属順天堂医院 心臓血管外科 主任教授

1999年東京大学医学部卒業。新東京病院レジデント、米国Brigham and Women’s Hospitalフェローを経て、2004年にハーバード大学公衆衛生大学院修了。コロンビア大学メディカルセンター、OLV clinic、榊原記念病院、東京ベイ・浦安市川医療センター、虎の門病院などを経て、2021年より現職。専門は低侵襲心臓手術(MICS)、内視鏡下心臓手術、僧帽弁形成術、弁膜症手術、経カテーテル弁膜症治療(TAVIやマイトラクリップ)など。

天野 篤  AMANO Atsushi
順天堂大学医学部附属順天堂医院 心臓血管外科 特任教授

1983年日本大学医学部卒業。関東逓信病院(現NTT東日本病院)、亀田総合病院、新東京病院、昭和大学横浜市北部病院などを経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月に天皇陛下(現上皇陛下)の心臓バイパス手術の執刀医を務める。順天堂大学医学部附属順天堂医院副院長、院長を歴任し、2021年より現職。専門は虚血性心疾患(off-pump冠動脈バイパス術)、心基部再建外科。

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