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2021.11.22
製造業の現場を体感し、SDGsを考える 企業と学生が共に"燃える"、新しい形のインターンシップ
ものづくり大国と言われてきた日本ですが、今、中小製造業の存続が危ぶまれています。新興国の製造業の成長が進んでいるのに加え、少子高齢化による働き手不足やコロナ禍によるサプライチェーンへのダメージが、衰退に拍車をかけているのです。そんな中、国際教養学部の平林正樹特任教授は、これまでにない新しい形のインターンシップを企画しました。その名も「燃えるインターンシップ2021」。中小製造業の現場を体験するとともに、SDGsへの理解を深めることを目的としたこのインターンシップには、都内の製造業5社が協力し、順天堂大学や清泉女子大学などの学生16人が参加しました。平林先生の「燃えるインターンシップ2021」にかける思い、そして参加した学生に話を伺いました。
インターンシップにより中小製造業の活性化を試みる
民間企業の営業・人事部門を長く経験し、キャリアカウンセラーとしても活動してきた平林先生。現在は中小企業におけるキャリア形成や人材育成についての研究を行う傍ら、自身の経験を生かして大学と企業を繋ぐ橋渡し役となるべく独自の取り組みを続けています。今回行った「燃えるインターンシップ2021」もその一環として生まれた企画です。
「品川区で金属加工を手がける三和電気という企業の社長と面会する機会があった際、製造業が若者に対してその魅力をアピールできない現状を打破したいという熱い想いをうかがいました。中小製造業が今後も持続的に成長していくには、若い力を入れて活性化するしかないと多くの経営者が考えているというのです。そこで企業さんと共に企画したのが、『燃えるインターンシップ2021』です。私も近年、「就業体験」という本来のインターンシップの意義が失われてしまっていると感じていました。学生だけが懸命に頑張るのではなく、企業が学生と一緒になって頭と体を使い、悩みながら“燃える”。そうした本当に学生のためになる対面方式のインターンシップを提供したいと考えたのです」
実施にあたっては、幹事会社となる三和電機さんから東京中小企業家同友会の製造部会に打診していただいたところ、三和電気株式会社をはじめ、株式会社芝橋、ムソー工業株式会社、フジコン株式会社、有限会社中央バフ製作所の5つの企業の社長が参加を表明してくださいました。
「新卒採用を直接の目的にするのではなく、社内を活性化することを第一の目的としてご協力いただけた面が大きかったと思います。社員数が10人程度の企業もありましたし、多忙な時期であったにもかかわらず、どの企業も積極的にインターンシップに取り組んでくださいました」
「燃えるインターンシップ2021」の大きなテーマとなったのが、SDGsです。その理由を平林先生はこう語ります。
「近江商人は、『売り手よし、買い手よし、世間よし』の『三方よし』を商売の基本としていましたが、近年ではそれに『作り手よし、地球よし、未来よし』を加えた『六方よし』が経営に求められるようになりました。まさにSDGsの考え方が中小企業にこそ不可欠な時代なのです。一方、SDGsは学生の関心も高いトピックです。そこで、「中小製造業の現場を通してSDGsを考える」という大きなコンセプトを作りました」
学生目線でSDGsに向けた改善策を提案
「燃えるインターンシップ2021」は、学生に存分に現場を体験してもらうため、夏季休暇を使って2週間にわたり実施されました。コロナ禍の影響もありオンラインでの開催も検討されましたが、「絶対に現場を体験して欲しい」という企業側の強い要望もあり、感染対策を徹底した上で実施にこぎつけたといいます。
参加した学生は16名。順天堂大学を中心に清泉女子大学、法政大学、中央大学、帝京大学と幅広い大学から学生が集まりました。順天堂大学国際教養学部2年の小池千捺さんは参加した理由をこう語ります。
「高校の頃から環境問題に関心を持ち、大学でも独自にSDGsについて学んできました。SDGsをテーマにした『燃えるインターンシップ2021』は、そうして身につけた知識を生かせる場だと思い、参加を決めました。また、授業を通して問題解決力やプレゼンテーション力を磨いてきたつもりでしたが、それが社会でどれくらい通用するのか確かめたかったという気持ちもありました」
初日は5つの企業と参加者が一堂に会し、SDGsについて理解を深めるため、SDGsゲームやディスカッションを行いました。2日目からは5つのチームに分かれて各企業を訪問し、工場見学や担当者へのヒアリングを通して、製造業の現場を身をもって体験。それをもとに1チームが1社を担当してSDGs達成のための改善策を考えました。
国際教養学部2年の齋藤敬太さんが担当したのは、株式会社芝橋。最初は改善案の切り口を見つけるのに苦労したといいいます。
「環境に関する課題に目が向きがちでしたが、現場では今できる最善の策をとっています。そのため、企業側がまだできてないことを見つける方向に考え方を変えました。そして浮かび上がってきたのが採用の問題です。製造業は後継者不足、人手不足で苦労していますが、しっかり認知度を高めることで魅力を感じる学生が増えるかもしれません。そう考えて企業と学生を繋ぐ機会を作る仕組みを提案しました。自分が学生だからこそ、学生の気持ちがわかるし、働きかけやすいと思ったことも理由です」
小池さんはフジコン株式会社を担当し、15もの案を提案したといいます。
「いきなり大きな変化を求めるのではなく現実的に実践できる案であること、その場しのぎではなく実際に課題解決に繋がる案であることを重視しました。特に積極的に提案したのは、ウォーターサーバーの設置です。それだけで、ペットボトルの消費を減らすことができます。他にも、給水スポットを探すことができるアプリや検索するたびに植林に貢献できる検索エンジンの導入など、IT面の提案も盛り込みました。企業の方からはどの案も実行に移していきたいとおっしゃっていただきました。学生である私のアイデアにも真剣に耳を傾けていただけたことがとても嬉しかったです」
学生と企業の交流は続いていく
最終日には、各チームが改善策のプレゼンテーションを行い、アイデアを競い合いました。優勝したのは、フジコン株式会社を担当した小池さんが所属するチーム。小池さんは2週間のインターンシップを経て、新たな視点を持つことができたといいます
「ものづくりはどうしても環境に負荷をかけてしまうため、SDGsを考える上で製造業をマイナスイメージで捉えてしまっているところがありました。しかし、実際の現場を見ると、どの企業も環境負荷の改善に努力をしていることがわかりました。以前は環境問題に先進的に取り組んでいる企業で働きたいと思っていましたが、今回の経験を通して改善の余地が大きい業界でも知識を生かすことができるのではないかと思いました」
齋藤さんは座学では得られないスキルが身についたことを実感しています。
「以前は自分の意見を相手に伝えることが得意ではありませんでした。しかし、今回のグループワークやプレゼンテーションを通して、課題と原因を明らかにした上で解決策を提示すれば相手にスムーズに理解してもらえることを体験し、自信を持って発言できるようになりました。また、SDGsがどのように社会と関わっているのかも実感でき、より理解が深まったと感じています」
平林先生は、「燃えるインターンシップ2021」について、改善点はあるものの、初回としては大成功だったと評価します。
「就職に直結するインターンシップではありませんが、学生のうちに問題意識を持ち、行動に移すという経験ができる点では優れたプログラムだと思います。学生を受け入れる企業の従業員さん側にとっても、これが良い刺激になれば幸いです」
――「燃えるインターンシップ2021」が終わっても、学生たちの挑戦は続きます。小池さんはインターンシップへの参加をきっかけにフジコン株式会社の社内に「SDGs委員会」を立ち上げ、社長からの委嘱を受けて正式の委員長にも就任してしまいました。
「企業の方との交流は今も続いており、インターンシップで提案したことを実現すべく活動しています。SDGsを達成するには、1人で頑張ってもどうにもなりません。1人で100の努力をするより、100人が10の努力をした方が大きな力になり世の中を動かせます。そのためには、委員会で仲間と協力したり、企業の力をお借りしたりすることが重要だと思っています。学生だからこそできることにたくさん挑戦してSDGs達成に少しでも貢献する、それが今の目標です」
企業からも「若い新鮮な意見が面白く、社内にも活気が生まれた」「学生だけでなく社員も“燃える”ことができた」と好評だった本企画。今後も改善を重ねながら実施を続けていくと言います。企業と学生が互いに刺激し合いながら取り組むことで生まれる力が、持続可能な製造業界を形成する上での支えとなるでしょう。