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2022.06.06

すべての人が「家に帰れる」世界へ。難民問題について考える公開講座を開催

16.平和と公正をすべての人に

世界的な課題である「難民」問題。世界に8,200万人以上が紛争や迫害などが原因で家を追われ、避難を余儀なくされている現在において、私たちができることは何でしょうか。

順天堂大学国際教養学部では、「UNHCR(国連難民高等弁務官)難民映画祭・学校パートナーズ」に参加しており、2016年度から難民問題をテーマにした映画の上映会をキャンパス内で開催することで、学生や一般の方を対象に難民や国際協力への理解を深める機会を創出してきました。

6回目となる2021年度は紛争で国を逃れた難民の若者たちの欧州への旅路に密着したドキュメンタリー『シャドー・ゲーム:生死をかけた挑戦(原題:Shadow Game)』の上映会を、ウェビナー形式にて開催。国際教養学部の教員によるミニ・トークセッションを交え、参加者と共に国際問題について考えました。

「難民」とは?世界の95人に1人が故郷を追われている現状

1951年の「難民の地位に関する条約」では、人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた人々を指すとされています。また、昨今では政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などから逃れるために、国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっています。紛争などによって住み慣れた家を追われたものの、国内にとどまっている、あるいは国境を越えずに避難生活を送っている人々を「国内避難民」と呼び、近年の増加が世界の問題となっています。国連の難民支援機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のレポートによると、2020年は8240万人が紛争や迫害などが原因で家を追われました。これは世界の人口77億人の1%、つまり95人に1人が故郷を追われていることになります。

難民への支援の第一歩は、考えること

難民という言葉について、グローバル社会領域で教鞭を執る玉村健志先生は次のように語りました。

玉村

「日本では、「難民」というと「帰宅難民」や「買い物難民」など「○○することが困難な人」といった使われ方をしている造語をよく耳にします。しかし、これは本来の「難民」の意味とは異なります。「難民」という概念が確立したのは、第二次世界大戦後だと考えられています。「迫害」に対する保護が必要な「難民」とそうでない「移民」の区別が明確にされるようになりました。

難民は迫害や紛争などにより、住んでいたところから移動せざるをえず、帰ることのできる場所がない人たちを指します。「移民」と混同されがちですが、「難民」には特に保護と救済が必要とされるという認識をぜひ持ってもらいたいです。

世界が抱えている難民問題には、次のような課題があります。一つは、難民の発生原因にどのように対処するのか。もう一つは、発生した難民に対しどのように支援するのかです。

この2つの視点を持って、難民について考えてほしいです。」

紛争や迫害がほとんどない日本に暮らしていると、どうしても遠い世界の出来事に感じてしまうかもしれません。しかし今この時にも、多くの地域で実際に起こっている出来事です。

近年では、新型コロナウイルスの世界的流行や自然災害、気候変動などもその原因となっていると考えると、他人事とは思えないはずです。

このような社会の中で、まず私たちにできる支援とは、「難民」という問題について理解を深めることです。今回実施した公開講座「UNHCR WILL2LIVEパートナーズ上映会」で扱った映画は、紛争から逃れようともがく若者たちの生死をかけた挑戦を綴ったドキュメンタリー。この映画を観て難民問題について考えることや、感じたことを人と共有することが支援の一歩になるでしょう。少しでもこの問題を身近に捉え、「自分にとって何ができるだろう?」と考えるきっかけを持ってほしいと考えています。

誰もがあたりまえに「帰る」ことができる世界を目指して

難民について考えるきっかけとして、同じく国際教養学部の岡部大祐先生は「帰る」とはどういうことかを想像してほしいと語りました。

岡部

「私の専門である異文化コミュニケーション学では、他者を理解する時には自分自身の前提を問うという姿勢があります。それは、私たちは生まれ育った環境に制約を受けており、社会的な価値規範から物事を判断しているという側面があるからです。「難民」について考える際、多くの人が「家に帰る」という行為を当たり前だと感じるでしょう。それが当たり前でなくなったのが難民です。さまざまな理由で故郷を追われ、私たちが当たり前のように日々行っている「帰る」ことができない暮らしがあるという事実に、思いを馳せてみてください。「帰れない」ということは、私たちの普段の暮らしの中で何ができなくなるのか。そんな風に考えてみると、家を追われた人々の思いや現状への理解も深まるでしょう。

難民について「知る」こと。私たちはどうすべきかを「考える」ことが非常に重要です。たとえ小さな一歩でも、必ず変化に繋がっていくはずです。」

年々増え続ける難民・国内避難民。

今後世界は、受け入れる側としての連帯をますます求められるでしょう。難民となった人々を、ディスプレイの向こう側ではなく、自分と同じ世界に生きる人々として考える機会を持ってほしいと順天堂は考えています。まずはその一歩として、「知る」ことから始めてみませんか。

国際教養学部の難民問題への取り組み

国際教養学部では、UNHCR駐日事務所が実施した動画企画にも参加。2021年度「ユース難民アートコンテスト」の最優秀作品の一つである、アフガン難民の少女ナディラさん(インド在住)がデザインしたサッカーボールを使い、「スポーツを通じてひとつに」をテーマに総勢約350人が思いを繋ぎました。

“ドリームボール”で夢をつなぐ~日本各地をめぐるユースの難民支援

https://www.juntendo.ac.jp/ila/news/20220126-01.html

国際教養学部公開講座「UNHCR WILL2LIVE パートナーズ上映会」開催概要

2022年2月22日、「UNHCR WILL2LIVE Cinema」の上映作品である『シャドー・ゲーム:生死をかけた挑戦(原題:Shadow Game)』をオンライン上映。上映に先立ち、グローバル社会領域の玉村 健志先生と異文化コミュニケーション領域の岡部 大祐先生によるミニ・トークセッションを実施し、司会は学部2年生2名が担当しました。

上映会には本学学生、教職員、一般の方々、合わせて45名が参加し、参加者からは、ミニ・トークセッションについて、「映画を見るにあたりどのような点に注目し、考えてみることが良いのが分かり、映画の内容をより深く理解できた」、「今後の選択や行動を考える上での1つの指針を示してくれた」といったコメントをいただきました。

主催:順天堂大学 国際教養学部(FILA

運営:UNHCR WILL2LIVE Cinema FILA運営委員会

齊藤 美野(チーフ・コーディネーター)

今井 純子・岡部 大祐・佐々木 優・髙濵 愛・玉村 健志・原 和也

後援:国連UNHCR協会

『シャドー・ゲーム:生死をかけた挑戦(原題:Shadow Game)』あらすじ

「紛争で荒廃した国を逃れた10代の若者たちが、保護とより良い生活を求めてヨーロッパの国境を越えようとしている。彼らの危険な旅路は、地雷原、密輸業者、国境警備員などの困難をくぐり抜けながら、数ヶ月から数年にも及ぶ。彼らは、国境を越えることを痛烈な皮肉をこめて「ゲーム」と呼ぶ。

ヨーロッパ中にフェンスが設置され、国境を越えて最終目的地に到達することは、かつてないほど困難になっている。彼らは直面する数々の障害を乗り越えられるのか?そして彼らは安住の地を見つけることができるのか?3年にわたって撮影され、また一部は主人公自身によって撮影された渾身のドキュメンタリー。」

時間  90分

制作年 2021年

監督 Eefje Blankevoort & Els Van Driel

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