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2024.03.11

順天堂リレーエッセイ【Jバトン】第5回 「教養ゼミナール」

リレーエッセイ「Jバトン」は第5回を迎えます。前回は、平井周 医療看護学部長・医療看護学研究科長に、近況と昨今話題となっている「生成系AI」について思うことをについて綴っていただきました。 今回は、小池道明 保健看護学部長にバトンが渡り、保健看護学部「教養ゼミナール」にて開催されている読書会について記していただきました。

私には特筆するほどの趣味はありませんが、しいて言えば読書が好きです。
以前より、機会があればいつか学生たちと「読書会」をやりたいと思っていたところ、昨年9月から11月にかけて保健看護学部の講師陣の1人として「教養ゼミナール」の1コマを受け持たせていただくことになりました。これは毎週木曜日の午前中に開講されるゼミで、教授たちが提案したゼミを学生が選択し受講する仕組みです。どのゼミも7名前後で開催され、「読書会」には絶好の人数です。私のゼミの題目は「伊豆にゆかりのある作家の本を読もう」でした。学生が選んだ作家の本を全員が読み、その本を選んだ学生が司会を務めて最初に作家の経歴と伊豆との関わりを発表し、その後に皆で感想を述べ合う方式です。1年目はただ感想を話すだけでしたが、2年目からは司会者が話し合うテーマを3点決め、其々の意見を出し合うスタイルに変更したところ、本についての意見がより深く交換できるようになりました。

1年目は、川端康成、横山利一、夏目漱石、正岡子規、太宰治、井上靖、谷崎潤一郎。 2年目は、三島由紀夫、梶井基次郎、吉本ばななが加わりました。あまり本を読んだことがない学生ばかりでしたが、一人一人の感想が異なり個性的で驚きました。人によって捉え方がこれほど違うのだということを学生たち自身も体感したようでした。多様性を認め合うことはとても大切なことです。他者の価値を共有することで、人間の考え方に広がりと寛容が生まれます。

読書会の最終回に私の知り合いの作家、多胡吉郎先生をお招きして講義をしていただきました。多胡先生は東京大学文学部卒業後、NHKに入社し文化的な番組のプロデューサーとして活躍、仕事で訪れた英国で作家に目覚めてNHKを退職されました。その後、英国に10年以上滞在しながら執筆活動に勤しんでこられ、昨年、栄えある和辻哲郎文化賞を受賞されました。1年目は多胡先生の著作「生命の谺(こだま)川端康成と『特攻』」を読書。川端康成と九州鹿屋飛行場から散ってゆく若き特攻隊員との邂逅がその後の川端作品にどの様は影響を与えたか等について話し合いました。2年目は川端康成の「伊豆の踊り子」でした。川端の、執筆当時の心境や生い立ちとそこから生まれた死生観などを織り込みながら深いお話を賜りました。学生たちは、特攻隊の存在だけでなく太平洋戦争についての知識も少なく、心を大きく揺さぶられているようでした。自分の知らない時代の本を読むことは、たいへん貴重な体験だということを学び、ゼミ終了後には人生に奥行きが出たように感じました。看護大学の使命は、学生が深い教養を持ち、更なる看護の発展を担う人材に育て上げることです。教養ゼミナールをきっかけに読書の習慣が身につくことを切に願うばかりです。私自身も普段は本を片っ端から読むばかりで誰かと語り合うこともない中、若き学生や年配だが情熱的な作家先生と同じ本についてじっくり語り合う時間は、とても貴重でした。

読書会の様子
多胡吉郎先生・小池教授と生徒の皆さん

血気には老少ありて、志気には老少無し。『言志四録』の言葉ですが、人間の体力から発する血気には老人と青年とは大きな違いがあるが、精神よりほとばしり出る志気には老年と青年との間に違いは無いという意味です。まさにそのことを感じたひとときでした。

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