MEDICAL

2019.07.19

手や腕のスペシャリストが治療する浦安病院の「手外科センター」

日常生活で大きな役割を果たし、生活の質(QOL)に深く関わる「手」。順天堂大学医学部附属浦安病院(以下、浦安病院)では、2018年7月に「手外科(てげか)センター」を開設。一般病院では扱えない、手や腕に関する専門性の高いけがや疾患の治療を提供しています。手外科とはどのようなものか、同センターでどのような治療ができるのか、手外科センター長兼整形外科准教授の原章医師が語ります。

手外科専門医3名が在籍する全国でも数少ない手外科センター

「手外科(てげか)」とは、手や腕の疾患を専門に扱う診療科で、末梢神経、筋・腱、手関節、ひじ関節などを幅広くカバーします。欧米では整形外科や形成外科などと同様に「Hand Surgery」として独立した部門として存在しますが、日本では認知度が低く、手外科専門医制度が発足してからまだ約10年しか経過していません。

浦安病院には私をはじめ、手外科専門医が3名在籍しています。ほかに形成外科の林礼人教授が当センター副センター長として加わることで、より専門的な治療が可能となっています。

このように手外科専門医が3名以上在籍する病院は、全国で38か所しかありません(2018年現在)。地方には14名しか手外科専門医がいない都道府県もあるほどで、当センターにも突然のけがで救急部門に来られた患者さんはもちろん、他の一般病院から紹介された患者さんが多くいらっしゃいます。

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一般病院では扱えない手の疾患の手術や治療を提供

当センターで多い手術症例は下グラフのとおりです。

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2018年4月~20193月まで手外科センターにおける手術件数:581例

救命救急センターや他院からの紹介で来られる患者さんが多いのですが、一般外科では扱えない下記のような疾患も少なくありません。

腕神経叢麻痺

交通事故や転落事故などにより、首にある腕神経叢が断裂し、腕が麻痺するものです。関東地方では、当センターを含めて数か所の医療機関でしか対応できません。

手関節、肘関節鏡視下手術

手関節・肘関節の鏡視下手術は一部の手外科専門医しか行うことができません。手関節TFCC損傷、手関節ガングリオン、肘関節の上腕骨外側上顆炎などは、鏡視下で治療することで、手術痕を小さく抑えることができます。

小児の先天異常

母指多指症、手の形成不全、橈尺骨癒合症など。当センターでも、人差し指を親指にする母指化手術などをおこなっています。

リウマチ手・肘の治療

膠原病・リウマチ内科と連携し、対応してます。手指や肘の人工関節を取り扱える医療施設は限定されています。とくに人工手関節は登録医療施設でしか対応できません。

末梢神経・腕神経叢から、皮弁1、関節鏡、リウマチの手術までおこなえる病院は、国内にはほとんどありません。他に骨折や腱損傷など、よくある外傷も外傷再建センターと連携し、幅広く対応しています。


1 血流のある皮膚・皮下組織や深部組織を移植する手術方法のこと。

 

繊細な手の動きを取り戻すために手術・治療~リハビリをシームレスに提供

人の「手」はとても繊細な動きをし、その内部には骨や腱や関節・神経・血管などが精緻な構造で存在します。細かな部分なだけに末梢神経や血管の縫合などには技術力も必要ですし、顕微鏡を覗きながらおこなうマイクロサージャリー(微小外科)手術などでは当然ながら豊富な経験と高い集中力が求められます。

さらに手外科専門医にとって難しい点は、複雑な動きをする手を元の機能まで戻すことです。例えば腕の骨折事故の患者さんの場合、骨そのものは完治しても、手が以前のように動かなければとても不便です。そこで当センターでは患者さんごとに目標となるゴールを設定し、手術・治療からリハビリテーションへとシームレスに連携。退院後のリハビリについても作業療法士が中心となって対応します。

リハビリでとくにポイントとなるのが、「つまむ」動作です。ひと言で「つまむ」といっても、指先でつまむ、指腹でつまむなど、さまざまな動作があり、痛みがあるときに「してもいい動作」と「してはいけない動作」があります。患者さんご自身が一人で判断し、リハビリを続けていくのは困難なこと。その点、当センターのある浦安病院では退院後もしっかりとリハビリスタッフが寄り添い、患者さんの生活の質を一歩一歩上げていきます。

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手のけがには初期対応がなにより重要。「これぐらいで」と思わず、病院へ

手外科センターにはけがが原因で来院される患者さんが少なくありません。例えば、突き指は日常生活でよくあるけがですが、実は腱を損傷していたり、時には骨折していることも珍しくありません。「突き指ぐらいで病院なんて」と考えず、長期間腫れが引かない場合はぜひ手外科を受診してください。お子さんの外傷も同様で、半信半疑で来院される親御さんもなかにはいらっしゃいますが、レントゲン検査の結果、骨折とわかる重症事例もあります。

初期対応の重要性は言うまでもありません。スポーツで地面などに手をついたときに起きる「舟状骨骨折」という手首の骨折があります。最初は腫れや痛みがありますが、やがて痛みが自然に引いていくため放置してしまい、骨折の重篤な後遺症である「偽関節」につながりがちです。最終的には患者さんご自身の骨盤などから骨を採取し、患部へ移植手術をすることに。ところが、けが後すぐに来院いただければ、15分ぐらいの局所麻酔手術ですむのです。このように骨折の部位によっては、意外に痛みがなかったり、動かせたりすることもあります。「これぐらい」と思わず、少しでも早く当センターに来院されることをお勧めします。

 

腕の神経の難手術で動かなかった肩やひじが動くように!

ここで重篤な手外科の事例についてご紹介しましょう。

バイク事故や高所から落ちて肩などを打ちつけることが原因で起きるけがに、「腕神経叢麻痺」があります。

脊椎の首のあたりから出た5本の神経が複雑に入れ替わりながら脇の下まで伸びているものを腕神経叢と呼びますが、首のあたりで神経が断裂すると肩やひじを全く動かせなくなります。

この場合、当センターでは肋間神経などを移植し、患部に縫合します。すると、肩やひじが全く動かせなかった人が手を上げたり、ひじを曲げたりできるようになります。けがや手術をしたことがわからなくなるぐらい回復される患者さんもいらして、私たち医師も大変やりがいを感じる手術事例です。もちろん、患者さんから感謝いただけることは言うまでもありません。

「腕神経叢麻痺」の治療ができるのは、関東地方では当センターを含めて数施設ほどしかありません。救命救急センターに三次救急2が多い当院が得意とする分野でもあります。

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2 救急患者のうち、集中治療室に入院する重症患者への医療のこと。

 

「ダヴィンチ」を利用したロボットマイクロサージャリーを目指して

手の疾患の診断にとても有用な方法が超音波(エコー)検査です。手外科が扱う手術の大部分は超音波検査機器があれば局所麻酔による腕神経叢ブロックで治療ができ、全身麻酔は必要ありません。そのため、腱損傷などの外傷の手術はその日のうちに実施することも可能です。これは浦安病院の手術室がよく整備されているためで、これほど速やかに手外科手術ができる病院はほとんどありません。

また、MRI(核磁気共鳴画像法)は要予約ですが、CT(コンピュータ断層撮影法)検査はその場ですぐにおこなうことができ、骨折状態を診るのに適しています。マイクロサージャリー機器ももちろん備えており、切断された指の再接着手術も浦安病院の外傷再建センターにて対応します。

さらに20172月より、浦安病院は内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」も導入。将来的にはダヴィンチを使って神経などを縫合するロボットマイクロサージャリーにも挑戦したいと考えています。副センター長の市原理司助教はフランス・ストラスブール大学でロボットマイクロサージャリーの専門手術を多数経験し、国内では並ぶものがいないほど、同分野の知識・経験を有している医師です。今後も当センターではお互いの知識・経験をさらに研鑽し、最先端の手術・治療を患者さんに提供できるよう、努めていきます。

 


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順天堂大学医学部附属浦安病院

〒279-0021 千葉県浦安市富岡2丁目1番1号

TEL 047-353-3111

原 章 准教授
順天堂大学医学部整形外科学講座
順天堂大学医学部附属浦安病院 手外科センター長

1990年三重大学医学部卒業。1996年順天堂大学医学研究科 医学博士。日本手外科学会認定専門医・代議員、日本リウマチ学会専門医、東日本手外科研究会運営委員、ヨーロッパ手外科学会会員。

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