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2018.09.10

イタリア名門サッカークラブにも帯同。選手の成長を支えるスポーツドクター

これまでジェフユナイテッド千葉や女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務めたほか、2015年にはイタリアのサッカークラブの名門ACミランに帯同した経験を持つ齋田良知先生。サッカーを中心にスポーツドクターとして活躍し続けている齋田良知先生に、お話をうかがいました。

「けがの予防」を実現するにはスポーツドクターの存在が欠かせない。

この夏も甲子園で投手の連投が話題になり、あまつさえ美談になりつつあります。しかし、アスリートとしての将来を考えたとき、私はひじの消耗具合が心配になります。
そもそも日本には、「けがの予防」という概念が欠けていると感じます。本当はけがをしてから病院へ行くのではなく、けがをしない体をつくっていくことが重要です。学校教育における「体育」と「競技スポーツ」では捉え方が異なることも、問題の解決を難しくしているのでしょう。
けがをしないためには、けが予防を見据えたトレーニングを行い、食生活を見直して栄養改善することが大切。そのためには選手1人1人の特徴を踏まえながら心身の状態を見守り、日常生活からトータルに指導できるスポーツドクターが不可欠です。そして万一のけがの際は応急処置を施し、どうしても手術が必要であれば当院のような整形外科を受診する。その連携がけがに泣く選手の減少につながると思います。

齋田先生「けがをしてから病院へ行くのではなく、けがをしない体をつくっていくことが重要です」
齋田先生「私自身、小学校からサッカーを始め、以来サッカーひと筋でした」

スポーツドクターを輩出する順天堂大学という環境。

私自身のスポーツとの関わりをお話すると、小学校からサッカーを始め、以来サッカーひと筋。大学進学後もサッカーを続けたいと考え、医学部があり、かつ関東大学サッカーリーグに所属している順天堂を選びました。
しかし入学後、医学部の講義を受けながらサッカー部があるさくらキャンパス(千葉県印西市)まで毎日通うのは無理だとわかり、入部をあきらめました。今更ですが、1年間でもいいから入部しておけばよかったと思います(笑)。
当時から順天堂大学にはスポーツドクターと呼ばれる方が複数在籍されていました。まず、古河電工サッカー部(ジェフ千葉の前身)のチームドクターを1971年から務められた森本哲郎先生。ジェフ千葉のチームドクターは森本先生から引き継がれました。ほかにもサッカー日本代表のチームドクターを務められた池田浩先任准教授。現在、ラグビー日本代表のチームドクターである高澤祐治教授(スポーツ健康科学部)など、枚挙にいとまがありません。

現場型と病院型に分かれるスポーツドクターの活動。

私がジェフ千葉のチームドクターに就任したのは2002年。前任の順天堂の先生から引き継いでのことでした。順天堂の先生方が選ばれるのは、やはりチームや選手からの信頼が厚いからだと思います。チームドクターは個人契約なので、その先生が信頼を得られなければチームから契約解除されてしまいます。ひと言でいえば、医師個人の技量と人柄が評価される世界です。
実はスポーツドクターは、現場型と病院型に大きく分かれます。現場型はチームに帯同し、選手がけがをする瞬間を自分の目で捉え、そのときの状況を踏まえて治療する。そして自ら手術も執刀し、リハビリ後、選手が試合に復帰するまでの過程を見守ります。一方、病院型は選手の来院を待って病院で診察し、手術を執刀します。
順天堂は現場型のスポーツドクターが多いんですよ。代表チームに帯同するとなると、1年のうち数か月は病院を留守にします。私もなでしこジャパンのチームドクターを務めていたときはそうでした。順天堂はこのような医師の活動に理解がある環境なのだと思います。

現場でなにが起きているか。現場にいるからこそ、気付きがある。

私たちが現場型にこだわるのは、現場でなにが起きていて、現場がなにを求めているのか知りたいからです。病院型ではけがをした後の状態しか見ることができません。また、手術を受けて、一見治っているように見えても、実は完治していないケースもあります。そこに気付けるのも現場にいるからこそ。選手のプレーを目の前で見ていれば、「もっといい治療をしよう」「けがを予防しよう」という気持ちが強くなるものです。
スポーツドクターの経験が浅くてわからないことがあれば、病院に持ち帰ってベテランの先生方や専門の先生方に相談することも大事ですね。実際、現場で診断やジャッジに不安があるときに、可能であればその場で上司へ電話をかけ、状態を説明したうえで「どう対応すればいいですか?」と質問する若手ドクターもいます。このように、わからないことは正直に周囲に伝えた方が、結果としてチームや選手からの信頼は厚くなります。その場をごまかしてしまうと、選手の信頼は得られません。「あの先生に診てもらってもしようがない」となってしまいます。

齋田先生「選手のプレーを目の前で見ていれば、“もっといい治療をしよう”、“けがを予防しよう”という気持ちが強くなるもの」(※写真はイメージ)
先進のスポーツ医療を深く知るため、イタリアの名門・ACミランに留学した齋田先生

愕然となった欧州との差。日本にもスポーツ医学の専門医が必要。

ジェフ千葉の監督だったイビチャ・オシム氏が日本代表監督に就任した頃、「スポーツ医学は欧州の方が絶対に上だ」と言われたことがあります。その後、ロンドンでサッカー医療の学会に出席し、衝撃を受けました。そこでは選手のけがの予防と軽減を目指して、各国のドクターが協力し合っていたからです。「先進のスポーツ医療をもっと詳しく知りたい!」と思った私は、伝手を頼ってイタリアの名門・ACミランにフェローとして留学。1年あまりの留学中に、欧州と日本のスポーツ医療の差を嫌というほど見せつけられました。
欧州では選手のトレーニング、食事・栄養、女性なら月経などをトータルで見守るスポーツドクターがいて、つねにチームに帯同します。けががあれば応急処置を施し、病院の整形外科医のもとへ紹介する。選手の成長に応じて当然けがの種類やトレーニング内容も変わるため、スポーツドクターはそこもフォローする。こうした一連のスポーツ医学を科学して、現場に落とし込む点において、日本はまだまだ遅れています。留学中、欧州のドクターたちに「どうして整形外科医が現場に行くの?」と何度も不思議がられました。欧州では整形“外科”医の仕事はあくまでも手術。スポーツ医学はスポーツドクターが担うべきなのに、現在の日本には残念ながらスポーツドクターの教育システム(専門医制度)が存在しません。
今、私はいわきFCという社会人サッカーチームのチームドクターを務めているのですが、いつか地元のいわき市にスポーツサイエンスの大学をつくるのが夢です。もちろん、順天堂がつくってくれれば言うことはありません(笑)。

スポーツドクターに必要なものは「情熱」。情熱がなければ信頼も得られない。

スポーツドクターの仕事を始めた頃、ドクターとしてチームの一員となり、チームで必要とされることが喜びでした。けがを早く治療することで選手が早くチームに戻り、チームの勝利に貢献できることが楽しかったですね。
現在は選手にけがをさせないことが最重要だと考えています。けがをしなければ、自然とトレーニング効率が上がり、選手は成長する。採血検査などで医学的に選手の体を科学して、不足する栄養素などを分析し、食事改善を行うと、選手はもっともっと走れるようになる。体が強いけれどしなやかではない選手、反対にしなやかだけど強くない選手など、選手にはいろいろなタイプが存在します。そんな選手1人1人のウィークポイントを克服し、ストロングポイントを伸ばせば、選手は驚くほど成長するものです。
選手の成長はスポーツドクターの喜び。自分が関わった選手がW杯のような大きな大会で躍動する姿を見ることが、スポーツドクターの最大のやりがいですね。

齋田先生「選手の成長はスポーツドクターの喜びです」

Profile

齋田 良知 YOSHITOMO SAITA
スポーツドクター
順天堂大学医学部整形外科学講座講師

順天堂大学医学部を2001年に卒業し、順天堂大学整形外科・スポーツ診療科に入局。2002年からジェフユナイテッド千葉のチームドクターを務め、2015年にはAFC(アジアサッカー連盟)の5th AFC Medical conferenceにおいて、Young Medical Officer Awardを受賞した。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務めたほか、2015年にはイタリアのサッカークラブの名門ACミランにフェローとして留学。2018年現在、いわきFCのチームドクターを務めている。

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