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2019.11.29

スポーツの価値と魅力を発信する 「SAKURA未来プロジェクト」 ―学部長が語るプロジェクトの意義とは―?

東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向け、順天堂大学スポーツ科学部が3年前から取り組んでいる「SAKURA未来プロジェクト」。国内の「スポーツ振興」や「スポーツによる社会課題の解決」を目指し、順天堂大学にしかできない幅広い取り組みを展開しています。本年10月にはその一環として、学生が発案した動画コンテスト「第1回スポーツムービー選手権」が開催されました。様々な形態を取りながら、スポーツの価値と魅力を発信するこのプロジェクトの意義や未来について、プロジェクトの立役者でもあるスポーツ健康科学部の吉村雅文学部長が語ります。

スポーツ人材を育てる順天堂大学が
社会で果たすべき役割とは

順天堂大学はこれまで、オリンピアンをはじめスポーツ界で活躍する人材を数多く輩出してきました。しかし、私たちの使命は、優秀な選手やスタッフを育て、送り出すことだけではありません。広く社会にスポーツの価値や素晴らしさを発信していくことも、とても重要な務めだと考えています。そこで、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、人材育成、地域連携など多様な取り組みを通じてスポーツの価値を伝え、将来へのレガシーになるものを構築しようという想いから、2016年に「SAKURA未来プロジェクト」をスタートさせました。

 

SAKURA未来プロジェクトの企画には、決まった形はありません。これまで5回イベントを開催しましたが、シンポジウム、小学校でのパラスポーツ体験会、宇宙とスポーツを組み合わせた公開講座など、本学にしかできない多様な企画に挑戦してきました。
今年10月に開催した「第1回スポーツムービー選手権」は、映像を通してスポーツを盛り上げることを目的としたユニークなイベントですが、何より、初めて学生のアイデアから生まれたイベントであることに、私は大きな意義を感じています。

 

SAKURA未来プロジェクトには設立の段階から関わってきましたが、当初から一貫して抱いているのは、「学生が積極的に取り組めるプロジェクトにしていきたい」という想いです。スポーツムービー選手権では、発案者である加賀谷槙さん(スポーツ科学科3年)をはじめ、学生実行委員会のメンバーが教員と議論を重ね、運営を担いました。これも、SAKURA未来プロジェクトとしては初めての試みです。難しい部分もあったようですが、学生にしかできないイベントを追求してほしいと、私たち教員も期待を込めて叱咤激励していました。

 

<関連リンク>SAKURA未来プロジェクト「スポーツムービー選手権」。その舞台裏を支えた学生たちに密着!

学生のアイデアから生まれた「第1回 スポーツムービー選手権」
学生実行委員会のメンバーが教員と何度も議論を重ねてイベントを作り上げた

スポーツを応援する人、支える人も
大切なスポーツの価値

どんなことに「スポーツの価値」を感じるかは、人によってさまざまです。
勝敗に価値を求める人もいるでしょうし、結果までのプロセスにこそ価値があると考える人もいるでしょう。スポーツができる環境や、一緒にスポーツをする仲間に価値を見出す人もいます。「スポーツの価値」を考えた時に、何か一つに決めることはできません。

 

私自身、学生には常に「感情の変化が人を動かす原動力になる」ということを伝えていますが、“スポーツ”はまさに、人の感情を引き出したり、感情を揺り動かしたりする非常に強い力を持つもの。スポーツによって引き起こされる感情は、喜びかもしれないし、苦しみや、怒り、時には言葉で表現できない爆発するようなものかもしれません。それでも、勝って嬉しい、負けて悔しい、という単純なものではなく、いろいろな感情が深く入り混じって現れてくるのが、スポーツの素晴らしいところだと思っています。スポーツによって生み出されるそうした感情の変化や、感情に動かされて起こした行動もまた、スポーツの価値と言えるのではないでしょうか。

 


一方で、スポーツの価値は、決して選手だけのものではありません。今年のラグビーワールドカップでは、ラグビーの魅力が日本中の人に広がりました。合宿地で選手を温かく迎えた人、試合会場のボランティア、観客席やテレビの前で応援した人、それぞれがラグビーというスポーツに感情を動かされ、素晴らしさを感じたからこそ、これほどの盛り上がりに繋がったのだと思います。選手はもちろん、選手や試合を支える人、応援する人もまた、スポーツの価値の一つなのです。

そして、今回のスポーツムービー選手権はまさに、スポーツを切り口にしながら、選手だけでなく「目立たなくても頑張っている人にも注目してほしい」という“学生の想い”から生まれた企画でした。イベントそのものは「動画作品のコンテスト」という形を取っていますが、スポーツに関わるさまざまな人の姿の中に“スポーツの価値”を見出していく試みでもあったのです。イベント当日、さまざまな動画が上映された会場には、感動、驚き、笑いなどいろいろな感情があふれていました。それを見て改めて今回の企画に、スポーツの素晴らしさや魅力を発信する“新たな可能性”を見て取ることができました。

スポーツには、人の感情を引き出したり、感情を揺り動かしたりする“強い力”がある

順天堂大学にしかできない
パラスポーツの振興

SAKURA未来プロジェクトでは、スポーツを取り巻く社会課題の解決やスポーツ振興を目的に掲げていますが、特徴的な取り組みの一つに「パラスポーツ(障がい者スポーツ)の振興」が挙げられます。
本学は2017年度から2年連続で採択されたスポーツ庁の「大学スポーツ振興の推進事業」で、パラスポーツをテーマにしたモデル事業に取り組み、SAKURA未来プロジェクトでも2度のパラスポーツ体験会を開催しました。パラスポーツの中でも、特にゴールボールとボッチャは、本学の卒業生が強化指導部長(当時)を務めていたというご縁もあり、2018年1月にそれぞれの協会と連携協力協定も結んで競技の強化普及を図っています。また、本学は特別支援学校教諭の免許を取得する学生が多く、パラスポーツに関わることが学生の実践的な学びにも繋がると考えています。

 

パラスポーツもオリンピック競技も同じ「スポーツ」であり、選手がスポーツを愛する気持ちやスポーツに掛ける思いも何ら変わりはありません。自己の能力を高めて切磋琢磨していくことに、障がい者も健常者もないのです。全力でスポーツに情熱を傾ける選手たちの姿は、必ず多くの人に影響を与えることでしょう。
しかし残念ながら、オリンピック競技に比べると、パラスポーツはまだ注目度も知名度も十分ではないと感じています。単に試合で観客席を埋めるだけなら、それほど難しくはないのかもしれませんが、それでは本当の意味での「パラスポーツ振興」にはならないでしょう。会場に自ら足を運んで応援してもらうためには、パラスポーツを体験し、「こんなに難しいことをやっているのか」と驚き、選手のレベルの高さを実感してもらうことが一番大切だと私は思っています。

2018年1月に日本ゴールボール協会、日本ボッチャ協会と連携協力協定を締結

パラスポーツもオリンピック競技も同じ「スポーツ」であり、選手がスポーツを愛する気持ちやスポーツに掛ける思いも何ら変わりはありません。自己の能力を高めて切磋琢磨していくことに、障がい者も健常者もないのです。全力でスポーツに情熱を傾ける選手たちの姿は、必ず多くの人に影響を与えることでしょう。
しかし残念ながら、オリンピック競技に比べると、パラスポーツはまだ注目度も知名度も十分ではないと感じています。単に試合で観客席を埋めるだけなら、それほど難しくはないのかもしれませんが、それでは本当の意味での「パラスポーツ振興」にはならないでしょう。会場に自ら足を運んで応援してもらうためには、パラスポーツを体験し、「こんなに難しいことをやっているのか」と驚き、選手のレベルの高さを実感してもらうことが一番大切だと私は思っています。

 

また、例えば「ゴールボール」はアイシェード(目隠し)をした状態で、鈴の入った音の出るボールを転がして得点を奪う競技ですから、選手の投球中は観客も音を出してはいけません。そうした観戦マナーも、一度体験すれば子どもでも自然に理解できます。体験を通じてパラスポーツの価値と魅力を感じてもらい、参加や観戦といった行動に繋げる。それが私たち順大にしかできないパラスポーツの振興支援だと考え、SAKURA未来プロジェクトをはじめとするさまざまな場で発信を続けています。

 

<関連リンク>

 

SAKURA未来プロジェクトは、東京オリンピック・パラリンピックを見据えてスタートしたプロジェクトではありますが、スポーツの価値や素晴らしさを発信することの重要性は、2020年以降も変わることはありません。自治体やスポーツ団体と連携しながら、長く継続していく努力を続けていきたいと思っています。

パラスポーツ体験会では、大学院生や学生が指導スタッフとして子どもたちに競技を教えている (写真はゴールボールを体験している様子)

Profile

吉村 雅文 YOSHIMURA Masafumi
順天堂大学スポーツ健康科学部 学部長・教授

1992年、順天堂大学大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。2019年より、順天堂大学スポーツ科学部 学部長。専門はスポーツ科学、スポーツコーチング学。2005年、日本サッカー協会公認A級コーチライセンス取得。2011~2013年にはユニバーシアード日本代表監督を務める。

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