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2020.03.31
再び出合えた「スポーツの楽しさ」。世界の舞台で、堂々と闘いたい
アイシェードを付けた選手たちが、鈴入りのボールを投げ合い得点を競うパラスポーツ「ゴールボール」。スポーツ健康科学部1年の佐野優人選手は、昨年の国際大会でも活躍したゴールボール男子日本代表チーム期待の星です。病気による視力の低下で大好きだった野球を諦め、失意の中で出合ったゴールボールが、佐野選手の新たな道を開きました。パラリンピックでの活躍を誓う佐野選手に、競技の魅力や意気込みを聞きました。
「すごくかっこいい!」と惹きつけられた
―佐野選手はずっと野球少年だったそうですね。いつ、どんなきっかけでゴールボールを知ったのですか?
幼い頃から野球が好きで、中学に入ってからは硬式野球のクラブチームで本格的に取り組んでいました。目に異常を感じたのは、甲子園に出場したいという夢を持っていた中学2年の冬。急にキャッチボールの相手の顔が見えにくくなり、それからどんどん視力が落ちていきました。次の週にはサインが見えなくなり、その次の週は得点板が見えにくくなり、最後にボールが見えなくなった。レーベル遺伝性視神経症という国指定の難病が原因でした。
ゴールボールとは…
視覚に障害がある選手たちが、交互に鈴入りのボールを相手のゴールに向かって投げ合う球技。1チーム3人で、コートの広さはバレーボールと同じ。競技者は全員アイシェードを着けて真っ暗な状態でプレーする。音だけを頼りにボールを投げ、体を張ってゴールを守ることから「静寂の格闘技」とも呼ばれている。
野球ができなくなった後の1、2カ月間は、本当に落ち込みました。当時は「野球以外はスポーツじゃない」と勝手に思い込んでいて、スポーツへの興味も失っていました。そんなとき、病院の先生に、「今度はパラリンピックという世界の舞台で活躍できるかもしれないよ。もう一度スポーツをやってみたら?」と薦められたのです。
実は、僕が落ち込んでいる間も、両親は僕が次に打ち込めるスポーツを見つけようと、いろいろなパラスポーツを観に行ってくれていました。そのたびに「楽しかったよ」「次は優人も一緒に行こうよ」と誘ってくれたのに、僕は「いや、いいや」と断っていて…。それでも、先生の言葉にも背中を押され、最初にブラインドサッカーを観に行きました。次に陸上競技。最後に先生が薦めてくれたのが、ゴールボールでした。
―初めてプレーしたとき、どんな印象でしたか?
中学3年の夏、初めて生で試合を観戦して、「すごくかっこいい!」とすぐに惹きつけられました。その場で体験もさせてもらいました。最初は、真っ暗になった瞬間、怖くて一歩も動けなかったんです。でも、教えてもらううちにだんだん動けるようになり、見えなくてもこんなに動き回れるスポーツがあるのか、と驚きました。気がついたら、全身汗びっしょりになっていました。その時ふと、野球をしていた頃の感覚を思い出したんです。「汗をかくのって楽しいな。スポーツって気持ちがいいな」久しぶりにそう思えて、感動しました。やっぱりスポーツはすごく楽しい。その思いに動かされて、ゴールボールを“第二の自分のスポーツ”としてやっていこうと決めました。体験で知り合った方々に「一緒にやろうよ、世界を目指そうよ」と熱心に誘っていただいて、その勢いに乗せられたところもあるのですが(笑)
ダイナミックで繊細。ゴールボールの魅力とは
―ゴールボールの魅力や見どころはどんなところにあると思いますか?
ゴールボールは、全身を使う激しいスポーツです。攻撃では、体を回転させて速くてバウンドの高いボールを全力で投げる。守備では、3人が指先からつま先まで使って必死にゴールを守ります。まずはそのダイナミックさを観てほしいです。しばらく観戦していると、きっと「あそこに投げたらゴールが決まるな」という守備の“穴”が見えてくると思います。実は、選手はしつこく逆サイドに投げ込んで、そこが空くように仕向けているんです。そして、フィニッシュボールで狙ったところにズバッと投げ込む。狙い通りにゴールが決まると、僕たち選手はもちろん、観客のみなさんもとてもテンションが上がると思います!
―プレーする選手から見たゴールボールの魅力は?
コートの中で自分の位置を把握するには、ほかの選手2人だけの声が頼り。どのスポーツよりもコミュニケーションが重要なところが面白いと思います。攻撃をする時は、1球ごとに3人で「レフトの手に当てて」「ライトの脚に行こう」と相談します。さらに投げた後には、相手の体のどこにボールが当たったかをほかの2人に伝えて、次に狙うポイントを決めていきます。音を聞けば、胸に当たった、すねに当たった、というような違いは、だいたい分かるのです。相手がドタバタしている雰囲気を感じたら「相手、焦ってるよ」と仲間に声を掛けることもあります。ゴールボールは、体を激しく動かすだけでなく、相手の動きや気配を敏感に感じ取る力も必要なスポーツなんです。
―野球での経験が役立つこともあるのですか?
守備には野球に通じるところがあると思います。野球の守備練習でノックを受けるときは、打球の軌道を読んで捕球します。ゴールボールでも、ボールが相手の手を離れた位置とバウンドした位置を線で結び、軌道を予測します。その精度が高いほど、しっかり止めることができるのです。野球は目で、ゴールボールは耳で、という違いはありますが、ボールをどこで止めればいいかを予測する力は、野球のゴロ捕球の感覚を思い出して高めていました。
―順天堂大学に進学しようと思ったのはなぜですか?
決め手になったのは、ボッチャやゴールボールといった、パラスポーツの協会と順天堂大学が連携協力協定を結んでいたことです。パラスポーツのサポートへの熱心さを感じましたし、順天堂大学の学生としてゴールボールで活躍し、その取り組みに貢献したいと思いました。高校時代に日本代表の合宿で出会った順大の障がい者スポーツ同好会の先輩方の印象がとても良かったことや、将来は特別支援学校の教員になりたいという目標があり、そのための学びができるところも魅力でした。
―普段はさくらキャンパスで練習をしているそうですね。大学での練習環境は、佐野選手にどんな変化を与えていますか?
順大はパラスポーツに手厚く、練習に必要なゴールやボールが元々あったので、それを利用できるのはありがたかったです。ただ、それまでは誰かが準備してくれた練習場所があって、そこに行くだけで練習できたのですが、大学ではそうはいきません。練習するコートの使用許可を得るため、いろいろな先生に相談しました。自ら積極的に行動する意識が生まれましたし、「順天堂大学にゴールボールを練習する環境を整えた」という経験そのものも、自分の糧になっていると思います。大学での練習では、障がい者スポーツ同好会の仲間が練習相手やサポート役を務めてくれていて、そのことにとても感謝しています。練習を手伝ってくれる人を増やそうと、同級生にも「ゴールボールやってみない?」と自分から声を掛けました。体験してくれた友人のうち5、6人が今も一緒に練習をしていて、彼らも大会に出場できるほど上達しています。
大学生は、授業やアルバイトで忙しいですし、スポーツはほかにいくらでもありますよね。だからみんなと練習していて、僕自身も「僕だったらゴールボールを選ぶかな」と思うときがあるんです。それでも練習に付き合ってくれるメンバーがいてくれて、本当に嬉しいです。
世界で勝てるチームの一員として
―今後の意気込みを聞かせてください。
日本代表チームは、東京パラリンピックで金メダルを獲ることを目標に練習を重ねています。ゴールボールの男子チームは東京大会が初出場。手の届かない距離に思えた「金メダル」ですが、チームのメンバーが一丸となって懸命にトレーニングを重ね、どうすれば世界を相手に勝つ集団になれるのか、悩みながら成長しています。
本番では、積み上げてきたことに自信を持って、堂々とプレーし、金メダルに挑戦したいです。そして、プレーや言動で子どもたちに「日本代表ってかっこいいな」と憧れを持ってもらえる選手を目指したいです。今はまだ「目指す」段階ですが、これからもっと成長して、意識して目指さなくても「自然になっている」というのが理想ですね。