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2022.09.01

タンブリング日本チャンピオンの北折愛里選手に聞く!競技にかける想いとは?【アスリート・トーク】

アクロバティックな技と圧倒的なスピード感で観る人を魅了するタンブリング競技。本学スポーツ健康科学部2年で体操競技部に所属する北折愛里選手は、今年6月にこのタンブリング競技の全日本選手権で2連覇を果たし、自身3度目となる世界選手権への出場を決めました。中学時代から日本のトップ選手として活躍する北折選手に、タンブリング競技の魅力や普及への思い、大学での練習環境などについて話を聞きました。

自分の強みを伸ばせるタンブリングへ転向

タンブリング競技は、一直線のタンブリングバーン(グラスファイバーが入った弾みやすい長い床)で8つの跳躍技を連続して行い、着地までの完成度を競うトランポリン競技の一種です。助走路から着地ゾーンまで約40mあり、1回の演技にかかる時間はわずか7~8秒。体操競技のゆか種目に似ていますが、高難度の2回宙返りや3回宙返りを複数入れるなど、体操競技では見られない演技をする選手もいます。技の難度の高さを感じさせないスピード感や、ダイナミックな跳躍技がノンストップで繰り出される迫力は、ほかの競技にはないタンブリングの大きな魅力だと思っています。勢いに乗って大技が成功することもあれば、逆に一つの小さなミスで失速したり演技が崩れてしまったりすることもあり、“大逆転”が起こり得るということも競技の魅力の一つかもしれません。

グラスファイバーが入った「タンブリングバーン」

タンブリング・北折愛里選手の跳躍技をご覧ください!

私がタンブリングと出合ったのは、小学4年生の時です。母が指導する体操教室で3歳から体操競技を始めたのですが、その合宿中にたまたまお会いしたトランポリン競技の指導者の方に「こんな競技があるんだよ」と紹介していただいたのがきっかけでした。お話をうかがって興味を持ち、動画サイトでタンブリングの演技を初めて見たのですが、最初の印象は「とにかくすごい!」のひと言。今まで見てきた体操競技とは違うアクロバティックな演技とスピード感に引き込まれ、自分もやってみたいと思うようになりました。
はじめは体操競技と並行してタンブリングの練習をしていたのですが、中学1年生からはタンブリングに絞って競技を続けています。元々、体操競技の種目の中でもゆかが一番好きで、得意でもありました。選手として自分の強みをより伸ばして活躍できる競技だと感じたのが、タンブリングを選んだ理由です。短い競技時間に集中力をぐっと高めて演技するというところも、自分に合っていると感じています。

遺伝子解析の結果でトレーニングを見直し

練習では、常に「その日の最高の演技」を出そうと心掛けています。もちろん毎日ベストコンディションで最高の演技ができればいいのですが、体に疲労が蓄積されていたり、気分が乗らなかったりする日もどうしても出てきてしまいます。コンディションが悪い日でも、それに甘えることなく、悪い日なりのベストを出すことが成長につながると考えて日々練習を積み重ねています。
また、大学入学後は、これまで以上に体調の変化に敏感になり、疲れを溜めすぎないように日常的に体をケアすることも大切にしています。昨年の全日本選手権の前に、大会に向けて練習をしすぎてしまい、疲労をうまく抜くことができずにパフォーマンスが落ちてしまうという苦い経験をしました。試合にピークを合わせるためには、自分の体ともっと向き合う必要があると考え始め、毎日のランニングで体の動きや疲労度をチェックしています。そして、コンディショニングへの意識をさらに高める機会になったのが、福典之先生が行われている筋肉の遺伝子多型解析への参加でした。1年次のスポーツ健康科学総論で福先生の授業を受けたことをきっかけに参加したのですが、解析していただいた結果、私の筋肉は高強度の運動で損傷しやすく、回復もしにくい特性があることが分かったんです。それ以来、あらためて体のケアや自分に合ったトレーニング方法について考えることができるようになりました。強めの練習をした翌日は必ずケアに行ったり、練習後にはストレッチの時間を長めに取るようにして、練習と回復のバランスに気を配るようにしています。

自分の筋肉の特性を知り、練習後の体のケアをしっかり行うように

トップアスリートが集まる順天堂大学へ

順天堂大学に進学したのは、体操競技部の原田睦巳先生、冨田洋之先生をはじめ、オリンピアンや国際大会で活躍する選手が大勢いる環境で自分を高めたいと思ったからです。体操のゆか種目とタンブリングには共通するところが多く、体操競技部の仲間とは、普段からお互いに気づいたことをアドバイスし合ったりしています。体操競技部は基本的に個別に練習をしているのですが、みんな自分の練習をしながらほかの人の練習にも目を向けていて、私が最後の大技で着地を決めると、手を叩いたり「よし!」と声を掛けてくれたりするんです。自主性を持ちつつ一体感もある、とても良い雰囲気と環境で練習ができています。

スポーツ健康科学部の授業では、海外遠征で役立つ時差調整の方法、けがをした時のメンタルの整え方など、競技で感じている課題の解決につながる幅広い知識を学んでいます。また、ほかの部に所属する友人にも全国や世界で活躍するトップアスリートが多いので、一緒に食事をしながら自分の食生活を見直したり、モチベーションの保ち方を相談したり、さまざまな刺激や気付きが得られています。練習や授業だけでなく、普段の生活の中でもそのような環境があるのが、順天堂大学スポーツ健康科学部ならではの良さだと感じています。

体操競技部コーチのオルガ・コザチェンコ先生(左)とともに

世界での活躍を競技人口の増加につなげたい

今年6月の全日本選手権で2連覇を果たし、11月にブルガリアで行われる世界選手権の出場権を獲得することができました。現在は、世界選手権での決勝進出を目指して基礎を磨き、新しい技にも挑戦しています。これまでは、屈身2回宙返りと宙返りの連続技を自分の強みとしてきましたが、そこからさらに難度を上げ、伸身の2回宙返りと宙返りを続けられるよう練習を重ねているところです。ゆくゆくは、世界選手権で表彰台に上ることを目標にしています。
幼いころから高校を卒業するまで、母の体操教室で小さい子と一緒に練習をしていました。そこでは私は子どもたちより少し先を行くお姉さん的存在。大会になると、その子どもたちの応援に力をもらっていましたし、私がレベルの高い演技を披露して好成績を収めることで、子どもたちがタンブリングを好きになり、自分もやってみたいと思ってくれたらと願っていました。その思いがさらに広がり、今は、演技を通して日本中の方にタンブリングを知っていただく機会を作ることも自分の役割の一つだと考えています。

2022年7月にアメリカ・バーミングハムで開催されたワールドゲームズ2022に出場
決勝で5位入賞を果たす(母親でコーチの明子さんとともに)

日本国内のタンブリングの競技人口は100人程度といわれ、タンブリングを専門とするコーチもまだ限られています。私自身も、体操のコーチに指導を受けながら、海外選手の動画などを参考に練習方法を模索し、技術を磨いてきました。連続技のスピード感や跳躍の迫力が感じられるタンブリングの魅力をより多くの人に伝え、競技人口を増やすためにも、まずは自分が世界の舞台で成績を残して注目していただくことが大切だと思っています。タンブリング競技の普及に少しでも貢献できるよう、これからも高みを目指して挑戦していきたいです。

Profile

北折 愛里 KITAORI Eri
順天堂大学スポーツ健康科学部 2年
体操競技部

愛知県出身。幼少期に体操競技を始め、小学5年生の時に第22回世界年齢別トランポリン選手権大会(タンブリング種目)に出場し11位に。中学から本格的にタンブリング競技に打ち込み、2016インド・パシフィック選手権大会では、銀メダルを獲得した。2019年全日本タンブリング・ミニトランポリン競技選手権大会では世界選手権への派遣基準点を突破して優勝。日本人女子で初めて世界選手権出場を果たすとともに国別7位入賞となり、日本人初のワールドゲームズ出場を成し遂げた。2022年6月に行われた全日本選手権で2連覇、5度目の優勝を果たし、11月にブルガリアで開催される世界選手権への出場権を獲得している。

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