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2018.09.28

医学とスポーツ科学の融合と展開が新研究領域「Health Creation」を生み出す

09.産業と技術革新の基盤をつくろう

学長のリーダーシップのもと、全学的な独自色を打ち出す研究に取り組む私立大学を文部科学省が支援する「私立大学研究ブランディング事業」。順天堂大学では平成28年度の「医学」領域に続き、29年度も「スポーツ科学」領域で「スポーツ科学による"Health Creation":代謝科学研究を基軸に世界展開するブランディング事業」が選定を受けました。どのような事業が展開されているのか、医学領域とスポーツ科学領域で活躍する2名の教授にお話を伺いました。

患者とアスリートの両極から研究できるのが順天堂の強み

スポーツ科学による"Health Creation":代謝科学研究を基軸に世界展開するブランディング事業」とは、どのようなものでしょうか?

内藤:   順天堂大学は180年の歴史を持つ健康総合大学で、医学部、スポーツ健康科学部をはじめとする5つの学部を擁しています。医学部では病気の患者さんを、スポーツ健康科学部ではアスリートを対象として研究を展開します。一見両極に見えますが、実は根底は同じ。どうすれば人間は健康に生きられるのか。いかに病気を未然に防ぐか。この深遠なテーマにさまざまなアプローチで挑み、答えを探すのが本事業です。

岡崎:   実は一昨年、医学部の目玉ともいうべき難病の診断と治療研究センターをオープンさせました。我々のグループでは以前よりミトコンドリア病患者さんのゲノム解析などを進め、ミトコンドリア機能に重要な役割を果たす世界初報告の新規遺伝子をいくつも同定してきました。本事業でもミトコンドリアはキーワードで、ごく簡単に言えばミトコンドリアのエネルギーがなくなれば病気になり、うまく使えれば健康増進につながる可能性があります。その仕組みを解明できれば、Health Creationに大きく寄与できるはずだと考えています。

難病の診断と治療研究センター?(IMG_2901).JPG

順天堂大学 難病の診断と治療研究センター ゲノム医学研究・難治性疾患実用化研究室

内藤:   ミトコンドリアの分析技術はいろいろな場面で応用できる素晴らしいもの。アスリートのパフォーマンス、多種多様な病気、そして加齢などがどのように関係しているのか、研究を進めていく上で分析技術は大学の財産でもあります。

岡崎:   被験者集団についても、本学は附属病院の患者さんや、トップアスリートの協力が得られるので、双方を結び付けて大規模な集団で遺伝子解析ができることが強みでしょう」

内藤:   アスリートに関してはスポーツ健康科学部には体育学部時代から数えて60年以上の歴史がありますから、卒業生の数も膨大です。現役選手を含め歴代オリンピアンやメダリストが多数いるので、研究対象には事欠きません。さらに国際教養学部の考え方を採り入れてアジア諸国との共同研究を進め、国際的なヘルスプロモーションに取り組むことも視野に入れています。順天堂ブランドがグローバルに拡がっていく、今後の展開が楽しみです。

異なる学問分野が連携しあい、拡がりと強みを持つ研究へ

お話から大学の強みが前面に押し出された事業であることが伝わってきます。岡崎先生は医学、内藤先生はスポーツ健康科学と学問分野が異なりますが、このように複数の分野にまたがる研究のメリットとはなんでしょうか?

岡崎:   例えば平成28年度に選定された医学領域の『脳の機能と構造を視る:多次元イメージングセンター事業』では、病気になった脳から超健康な脳までを対象に多次元イメージング技術を開発し、神経疾患の予防・診断・治療法の開発や高次脳機能の解明を目指しています。これらの研究は私が専門とするミトコンドリア機能や遺伝の研究と一見異なるように見えますが、実は根底でつながっています。どんな研究でもその分野だけで完結しませんし、ひとつの分野にこだわると視野が狭まるもの。その意味でも、順天堂大学の研究の幅の広さは素晴らしいと思います。

内藤:   複数の学問分野にまたがるといっても、ただ単に広いだけでは深みのある研究はできません。一つひとつの研究が高い専門性と深みを持っていることが重要で、その点、順天堂大学には著名な研究者が多く在籍し、学内ネットワークの立ち上げもスムーズです。結果として多分野の専門家から深い研究が生まれますし、ある研究が行き詰っていても隣接分野の専門家が広がりを持たせてくれることもあります。この恵まれた環境で、我々研究者は研究を進めることができています。

岡崎:   例えば現在、医学界で大きな問題となっているメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)などは、どちらも運動が予防・治療法ですよね。運動療法は医学と運動が密接に結びついたものですので、運動を学問として捉えているという点で本当にいい大学だと思いますね。

内藤:   おかげさまで文部科学省から2年連続で私立大学研究ブランディング事業に選定されましたので、現在2つの事業を同時進行しているところです。

研究への入口はひとつではない。
大学の研究力が選択肢を増やす

学生が本事業に関わることは可能でしょうか?

内藤:   大学院生レベルでないと本格的に関わるのは難しいですが、プロジェクトの一部を学部生の卒業研究で取り扱うことはあります。スポーツ健康科学部の場合、アスリートとして被験者になる学生もいますよ。アスリートはつねに"もっとパフォーマンスを上げるにはどうすればいいか"を考えており、その研究を突き詰めていけばミトコンドリア機能に辿り着く可能性もあるわけです。学部生が研究の内容全てを理解することは難しいでしょうが、研究への入口は数多く開いています。医学部でなくてもこうした研究ができる。そういう意味でも間口が広い大学ですね。

岡崎:   大学が積極的に研究活動を推進していますからね。研究力の高い大学を選ぶことが結果的に自己研鑽につながり、将来の進路の選択肢を増やすことになり得ますね。

内藤:   もうひとつ本学の大きな特長ですが、医学部とスポーツ健康科学部の学生は1年次にさくらキャンパス(千葉県印西市)の寮で生活をともにするんですよ。中には医者の卵とオリンピックメダリストが相部屋になるケースもあります。学生時代に異分野の相手と互いに刺激し合う関係は、人脈づくりはもちろん、学生にとって大きな糧となるはずです。

素直な疑問を持つこと、課題を発見する力が重要

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順天堂大学 さくらキャンパス 陸上競技場

これから大学で研究に携わりたい高校生に向けて、アドバイスをお願いします。

内藤:   スポーツ健康科学部はスポーツが得意な人が多く入学しますが、スポーツが苦手で、"どうすればできるようになるのか知りたい"という人も大歓迎です。伝統的にスポーツの世界は経験則に基づく指導法が多く、"なぜこのトレーニングが効果的なのか"という理由づけがはっきりしないケースが少なくありません。しかし、医学と連携する本プロジェクトなどで理由が解明されれば、最先端スポーツ科学が一気に進歩する可能性もあります。そういう意味でも研究テーマがとてもたくさん残っている分野なんですよ。

岡崎:   医学部に特化していえば、研究活動を経験せずに臨床だけ続けていても限界があると思います。臨床の現場で医師は患者さんと向き合いますが、長く続けるうちに迷いが生じることもあります。そんなとき、大学院に戻って一定期間研究活動に従事し、論理的思考力を強化することがとても重要です。研究の経験は再び臨床に戻った際に非常に有用であることは間違いありません。

内藤:   どんな分野であっても、研究の第一歩は素朴な疑問を持つことです。

岡崎:   そして何事にも興味を持ち、"なにが課題なのか?"を考え続ける人が伸びますね。

内藤:   ぜひ自分の中の疑問や社会の課題を究明し、社会の役に立つ研究者になっていただきたいです。

内藤 久士 教授

順天堂大学スポーツ健康科学研究科長・学部長
スポーツ健康医科学研究所長

1983年筑波大学体育専門学群卒業。順天堂大学大学院体育学研究科修士課程修了。順天堂大学体育学部講師を経て、米国州立フロリダ大学運動スポーツ科学センター客員研究員。2001年より順天堂大学スポーツ健康科学部に在籍し、2018年スポーツ健康医科学研究所所長に就任。

岡崎* 康司 教授

順天堂大学大学院医学研究科
難病の診断と治療研究センター長

1986年岡山大学医学部卒業。大阪大学大学院医学研究科博士課程修了後、理化学研究所へ。2003年埼玉医科大学教授就任。2008年同大学ゲノム医学研究センター所長。2016年理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター・ゲノムネットワーク解析支援施設長兼任。2017年より現職。

*やまへん に たてさき

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