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2021.04.02
多診療科・多職種のスペシャリストが子どもに優しい医療を提供する順天堂小児医療センター
順天堂小児医療センターは、「小児医療のエキスパートが有機的に連携することで、小児医療を集約化し、より高度で安全な医療を提供する」という理念に基づき、2019年10月、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)1号館10階に開設されました。多診療科・多職種が連携し、あらゆる小児の疾患を診療する同センターの強みを、清水俊明センター長が紹介します。
広々とした快適な空間に90床の子ども専門の入院病棟を整備
順天堂の小児医療センターが開設される前、入院される子どもの患者さんは各診療科の成人の病棟に入院し、大人用のトイレに不自由されたり、闘病のつらさを和らげるプレイルームもなく、さまざまなアクティビティサービスも受けられない状況でした。そこで以前より順天堂医院内に小児医療センターの開設と規模の拡張をお願いしていたところ、新井一学長のご推薦もあり、2019年10月、広々としたフロアに2か所のプレイルームを備えたセンターが実現しました。
プレイルームではお歌の会やプレイルームランチ、映画上映会、まほうのランプ(病棟ボランティア)さんとの交流が行われています。
当センターは小児科・小児外科を中心に、小児脳外科、小児心臓血管外科、小児眼科、小児形成外科、小児整形外科、小児耳鼻咽喉科、小児皮膚科などが連携し、基本的に15歳以下の子どもの病気の治療を行っています。各診療科が同じフロアに集約されたことで、距離的な問題だけでなく小児医療センターを核とした連携が進みましたし、病床数も72床から90床に拡張でき、より広く快適になりました。
順天堂小児医療センターの強み:低侵襲手術に熟達した小児外科とすべての疾患に対応できる小児内科
当センターの素晴らしさは、まず小児外科の治療レベルの高さにあります。小児外科では山高篤行教授・副センター長を筆頭に素晴らしい医師が揃い、腹腔鏡・胸腔鏡・ロボット支援手術など低侵襲の手術をごく当たり前にご提供しています。体重1,000gにも達しないお子さんの手術には精密な操作が求められるため、ロボット支援手術から受ける恩恵は計り知れません。
*特集記事「低侵襲手術のトップランナー 小児最先端外科医療の拠点 順天堂小児外科」はこちら
また、他の大学病院で小児専門の心臓血管外科や脳神経外科があるところは意外に少ないのではないでしょうか。もちろん、順天堂医院には形成外科や耳鼻咽喉・頭頸科などにも小児専門の先生方がおられ、私たちの要望に対応していただけます。
小児内科に関しては12の診療グループがあり、すべての小児疾患に対応できることが強みです。他の大学病院では指導する教授の専門性に偏ってしまう傾向があり、すべての疾患に対応できる大学病院は限られています。
また、順天堂医院は小児の消化器内視鏡チームを持つ、東京で唯一の大学病院でもあります。私は小児消化器が専門ですが、近年、炎症性腸疾患を患うお子さんが増えています。消化器疾患は内視鏡で見て組織を採取し、生体検査をしないことには診断がつきません。順天堂では提携病院で3か月間成人の内視鏡検査のトレーニングを積み、その後に小児の内視鏡のトレーニングを重ねるシステムができており、当センターにも小児内視鏡のエキスパートが複数名在籍しています。子どもの内視鏡が得意であることは当センターの大きな強みで、実際に消化器疾患の患者さんがたくさん来院されています。
入院生活を送る子どもたちのために、子どもの医療に特化した多職種が連携
当センターのもうひとつの強みは、子どもたちの「心」に配慮した医療をご提供していることでしょう。私たち小児科の医師だけでなく、児童精神科医、小児専門看護師、臨床心理士、病棟保育士、子ども療養支援士、音楽療法士といったスペシャリストが子どもたちに寄り添い、病院での生活を支える体制を整えています。ちなみに、子ども療養支援士とは遊びを通じて子どもたちに寄り添い、不安やストレスなどを軽減するケアを行う専門家です。ほかに音楽療法士によるミュージックセラピーや、入院児のためのボランティアグループ「まほうのランプ」の方々が週2日来院され、大きな子どもたちには勉強を、小さな子どもたちには遊びを提供していただいています。現在のところ、COVID-19の影響で来院できない状況が続いていますが、COVID-19以前は常に10人ぐらいで来院しておられました。これも順天堂ならではの取り組みだと思います。
アンパンマンと仲間たちが病棟を明るくしてくれています。
大人に成長された患者さんを成人の診療科で見守る「移行期医療」
現在、小児医療全体が抱える課題に「移行期医療」というものがあります。近年、小児医療の進歩により多くの子どもたちの命が救われ、成人に達するようになりました。しかし、子どもの頃に心臓疾患で手術を受けた人はそれでおしまいではなく、成人になってもずっとフォローし続けなくてはいけません。脳腫瘍や白血病、消化器や腎臓などの慢性疾患も同様です。ただし、成人になると妊娠・出産や生活習慣病など成人ならではの問題が出て来るため、いつまでも小児科ではなく、成人の診療科で診る必要があります。この小児から成人に移行するまでの医療を「移行期医療」といい、「かけはしの医療」と呼ばれることもあります。
移行期医療の必要性は2000年頃から米国で盛んに唱えられるようになり、日本でも2010年頃から検討されるようになりました。本格的にクローズアップされたのは、日本小児学会が移行期医療のワーキンググループを作った2015年からです。
患者さんの自立支援を促し、転科の際に的確な連携を図る
移行期医療のもっとも重要な課題は「自立支援」です。幼いお子さんには病気やお薬のことはわかりませんから、親御さんが代わりに管理をされるもの。しかし、大人になっても同じような感覚で内科を受診されていては、ご本人やご家族のためになりません。ご自身がどういう病気で、どんな薬を飲めばよいのか、健康情報をご自分で収集して理解する「自立リテラシー」を育む支援が必要です。
また、転科の際の診療情報の伝達が十分でないという問題も起きています。私たち小児科の医師にとっても、いつ患者さんが小児科から内科へ転科し、どのような診療情報を内科の先生にお渡しすればよいのか、統一した基準が求められます。「いつ」という問題に関しては、14歳ぐらいから移行の準備をし、18歳ぐらいまでに移行を終えるのがよいと最近になってわかってきました。診療情報に関しても、例えば当センターでは炎症性腸疾患の場合はチェックリストを用意し、内科の先生方にお渡しするなどしています。
トータルで優れた小児医療を提供し、子どもに優しい社会をつくりたい
ご存じのとおり、日本では少子化の進行が止まりません。また、海外にはチルドレンファーストという文化がありますが、果たして日本はどうなのか、私は常々疑問に感じてきました。ですから少なくとも私たち小児科医が頑張り、子どもの病気だけでなく、健康増進や疾病予防も含めて子どもに優しい社会をつくりたいと考えています。
今後、当センターは子どもに優しい医療を、そして親御さんに優しい医療を目指していきたいと考えています。順天堂医院には素晴らしい小児科・小児外科の先生方が在籍していますし、医師だけでなく多職種連携を強化し、チーム医療をしっかり進めていきたいです。また、順天堂には小児科・小児外科以外の診療科にも素晴らしい知識や技術を持つ先生方が多くいらっしゃるので、この強みを十分に発揮し、トータルで優れた小児医療をご提供いたします。病院の第一の仕事は、病気や苦痛を和らげ、治療すること。お子さまにトラウマが残らないよう最大限の配慮をしながら診療に努めて参りますので、どうか安心して大切なお子さまをお預けください。
清水 俊明(しみず・としあき)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 副院長
順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学 教授
順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児科・思春期科 教授
順天堂大学医学部附属順天堂医院 小児医療センター センター長
1983年、順天堂大学医学部卒業。1988年、同医学研究科修了。1989年、順天堂大学医学部小児科学講座助手。スウェーデン・イエテボリ大学小児科への留学を経て1997年、順天堂大学医学部小児科学講座講師。1999年、同助教授。その後豪州アデレード大学Child Nutrition Research Centerへ留学し2007年より順天堂大学医学部小児科学講座教授。日本脂質栄養学会ランズ学術賞、順天堂大学医師会ベストプロフェッサー賞。日本小児科学会等、多数の学会に所属。現在、日本小児栄養消化器肝臓学会理事長。
2021年、順天堂大学医学部附属順天堂医院 副院長。