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2021.06.03

国内初!大学病院で開催するパーキンソン病患者さんのためのダンス教室

順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院(以下、順天堂越谷病院)では脳神経内科長の頼髙朝子教授の指導のもと、2019年11月より「パーキンソン病の患者さんのためのダンス教室」を月1回開催しています(新型コロナウイルス感染拡大による中断を含む)。パーキンソン病の患者さんが安心してダンスを楽しめる、医療機関としては国内で唯一の取り組みをリポートします。

パーキンソン病患者さんのためのダンスとは

進行性の難病であるパーキンソン病では、多くの方に筋肉がこわばって動きが鈍くなったり、体のバランスが取りづらくなり転倒しやすくなるなどの症状が現れます。病気が進行すれば徐々に生活動作も難しくなり、車いすや寝たきりになる方もおられるため、リハビリテーションなどを通じて運動を継続することで日常生活動作を維持できるよう努める必要があります。
そこで順天堂越谷病院では、患者さんへのサービスの一環として「パーキンソン病患者さんのためのダンス教室」を提供。患者さんが仲間とともに楽しく体を動かし、関節の可動域を広げ、自立した生活を維持できるよう努めています。

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順天堂越谷病院

提供するダンスは米国のコンテンポラリー・ダンス集団マーク・モリス・ダンス・グループがパーキンソン病患者さんのために開発した「Dance for PDR」の手法を採り入れたもの。2019年5月に同グループが来日し、指導者向けワークショップを開催した際、自身もクラシックバレエの経験があり、患者さん向けの体操教室を開催していた頼髙教授が参加し、メソッドを習得。公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団からプロのダンサーを講師に招き、同年11月より順天堂越谷病院でのダンス教室をスタートさせました。

バリエーション豊かなダンスレッスンを1時間。
効果的な運動をしつつ心も軽やかに!

ダンス教室は新型コロナウイルス感染拡大による中断期間を置いた後、2021年5月17日に再開。コロナ前は20名程度の参加がありましたが、再開後は万全の感染症対策を行ったうえで少人数に制限して開催することになりました。ちなみに、順天堂越谷病院の1階ホールで開かれる教室には毎回、頼髙教授も参加し、患者さんらと一緒に踊ります。
この日のプログラムでは、まず坂井萌美講師を中心に患者さんはソーシャルディスタンスを保ちながら いすに座り、呼吸ストレッチ、手拍子・足拍子などを5分ずつ行いました。運動中は本格的なバレエレッスンさながらに生ピアノの演奏があり、奏者が患者さんたちの動きに合わせて臨機応変にリズムやメロディを奏でます。
続く足の運動では、パーキンソン病の一症状である「すくみ足」に良いといわれるかかととひざの上げ下げ、かかとやつま先を前や横に出す動作を繰り返します。歩行運動ではかかととつま先を意識しながら前へ歩いたり、横歩きなども行います。


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「パーキンソン病の患者さんは、ふくらはぎの後ろ側の筋肉が短縮しやすいためかかとを伸ばす動作がとても効果的です。また、人はバランスを取るとき、足裏全体や足の指も使って体勢を保ちますので、足裏全体を使う運動も採り入れています」(頼髙教授)
他にもフィギュアスケートやサンバを意識した全身運動を組み込んだり、海の中の生き物を想像して全身で表現するなど、体だけでなく心まで開放して楽しめるプログラム構成です。
約1時間のダンスが終わった後、最後のあいさつでは患者さんが輪になって一人ずつ今の気持ちを体で表現し、隣の人へまるでギフトを渡すように動作を伝えていきます。思うように全身が動かない患者さんの中にも驚くほど豊かな感情表現を動作で見せる方もおられ、ダンスの持つ力を実感させられました。

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患者さん座談会

ダンス教室終了後、毎回参加されている3名の患者さんにお話を伺いしました。

「パーキンソン患者さんのためのダンス教室」の感想を教えていただけますか?

Tさん 私は自宅でも運動するようにしているんですが、ダンス教室でみなさんと一緒に体を動かすと気分が変わりますね。

Kさん 本当に毎月のダンス教室が楽しみで。生ピアノの伴奏がありますし、海の中の生き物を表現したりフィギュアスケートのように踊ったり、想像力が刺激されることがとてもいいです。

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Hさん 生の音楽があるのはとてもいいですよね。

Tさん いろいろな曲を弾いてくださいますしね。先日は私の大好きな『Never on Sunday』がかかりましたし、12月にはクリスマスソング、ラグビーW杯の時期には行進曲など、季節感やその時々の出来事を感じられます。

Kさん それにプロのバレリーナの先生が教えてくださるので、自分もバレリーナになった気分になれるんです(笑)。踊るうちに先生の世界に一緒に入って行ける気がします。

みなさんはどのようなきっかけで、このダンス教室に参加されたんですか?

Tさん 私は数年前から頼髙先生の体操教室に参加していて、このダンス教室が始まった当初からずっと続けています。頼髙先生も一緒に運動されるから、先生のお顔を見られるだけでもうれしいです(笑)。

Kさん 私も先生にお声をかけていただいて、今日で6回目です。実は他県から来ているので結構時間がかかるんですが、頼髙先生の笑顔が素敵で、私が運動をする突破口になっています(笑)。

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他にダンス教室の楽しみにはどんなことがありますか?

Hさん 普通に通院するよりも、オシャレができることでしょうか(笑)。もちろん、お友だちに会ってお話できるのも楽しみで。

Kさん そうですね。お友だちに会えるのは運動するのと同じくらい楽しいですね。

Tさん ひとりじゃなくて、みんなと動くからいいんだと思います。今日はお休みをされていますが、仲間には車いすの方もいらして、お会いできるのがいつも楽しみです。今後も続けていきたいです。

ダンス講師インタビュー

公益財団法人スターダンサーズ・バレエ団所属 坂井 萌美さん

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パーキンソン病の患者さんと関わり始めたのはどのようなきっかけでしたか?

当バレエ団の総監督である小山久美先生のご紹介で「Dance for PDR」の指導者向けワークショップを受講したことが、パーキンソン病と関わることになったきっかけです。その後、順天堂越谷病院でのこの教室や、彩の国さいたま芸術劇場でのワークショップ、オンライン指導などにも関わっています。

患者さんへの指導では、どのようなことに気をつけておられますか?

ご無理のないように最初は座位で上半身⇒下半身⇒全身の順に動かし、しっかりウォーミングアップしてから、立ち上がって運動するように毎回プログラムを組んでいます。
大切にしているのは「想像力」です。例えば今日のプログラムなら、風船を膨らませるイメージをしたり、海の中の生き物や星空を想像していただきながら体を動かしていくと、お気持ちがほぐれて大きく動けるようになり、創作ダンスへのハードルも下がります。想像の世界では何かになりきって軽やかに空を飛ぶこともできますから、気持ちも開放されますよね。

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日本人は「自由に動いて」といわれると固まる傾向があり、創作ダンスが苦手な方が多いんですが、当教室では回数を重ねるごとに患者さん一人ひとりが個性を発揮されるようになり、見ている私たちも楽しくなります。同時に患者さんの側でも「こんな動きもできる!」という発見があり、より楽しく感じられるようです。

先生ご自身のやりがいは?

なんといっても最大のやりがいは、患者さんが帰って行かれるときの笑顔です。「楽しかった」「感動した」「素敵だった」と言ってくださることも少なくありません。音楽の力を借りながら踊ることの素晴らしさ、バレエの技術を教えることでは味わえない幸福感を感じます。拝見していると患者さんの中でスイッチが入る瞬間があり、改めて「人ってすごい!」と思います。

順天堂越谷病院について

患者さんと医療関係者の方々との距離が近い病院だと感じます。国内でここにしかないダンス教室ですので、今後も長く継続していきたいです。

頼髙教授インタビュー

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パーキンソン病の患者さんにダンス教室を提供する意義を教えていただけますか?

パーキンソン病の患者さんは動き自体が減りますし、動きの大きさも小さくなるため、運動量が減少します。体が曲がる傾向もありますので、曲がる前から運動して予防したり、まっすぐ立てるように体幹を鍛える必要を以前から感じていました。そこで以前から 私が音楽に合わせての体操教室を主催し、担当する患者さんを中心に広くお声をかけて、お越しいただいておりました。患者さんにはリハビリテーションも受けていただいた上で、さらに教室で音楽に合わせて美しい動きや面白い動きをすることで、治療以外の変化を感じることができます。
また、患者さんは主治医が勧めると積極的に運動に取り組んでくださることがあります。 患者さんが自立した生活を1日でも長く送ることができるように、こういった取り組みが継続して運動することの一つの助けになるのではと考えています。

順天堂越谷病院でダンス教室を始めた経緯は?

2019年5月、「DANCE for PDR」の指導者コースがあると知り、参加したところ、スターダンサーズ・バレエ団の小山久美総監督とお会いする機会がありました。それまでの体操教室は私がひとりで指導していましたが、スターダンサーズ・バレエ団にお願いすることでプロのダンサーの方に指導していただけるようになりますし、患者さんもいろいろな方から教えていただいた方が楽しいだろうと思い、同11月から院内でダンス教室を始めました。

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教室では頼髙教授(写真 右手前)も患者さんとともにダンスに参加します。「患者さんが楽しくされていることが医師のやりがい。一緒に踊ると患者さんも喜びますし、私も楽しくなります

実施に当たっては、院内で患者さんに運動をしていただくわけですから、感染症対策はもちろん、起立性低血圧などに備えた安全対策も万全に行っています。万一、患者さんに変調があっても主治医の私がその場におりますので、すぐに対応することが可能です。逆に、一般施設等において医療関係者が不在な環境で教室を開くことは相当ハードルが高いのではないかと思います。その点でも当教室は先駆け的な取り組みといえます。

患者さんの反応はいかがですか?

毎回、音楽に合わせて仲間と踊る楽しさを存分に感じていらっしゃることが伝わってきます。車いすの患者さんもいらっしゃるんですが、運動後は元気を取り戻され、帰り道では車いすを押して歩いて帰られることもあるほどです。もちろん、完全に車いすから離脱するのは難しいですが、教室で運動して、御自身の体が動けている実感を得られると自宅でも続けやすいですし、リハビリテーションも進むと考えます。
また、仲間と一緒に過ごす時間が楽しいとおっしゃる方が少なくありません。今はコロナウイルスのためにできませんが、以前は体操教室ではラインダンスを楽しんだり、教室の後にみなさんがお茶をご一緒されたりすることもありました。

DVDも企画されているとお聞きしています。

以前、『パーキンソン病患者さんの自宅でできる体操』というDVDをリリースさせていただいたことがあります。ただ、以前のものが少し運動負荷が高かったことから、次回は音楽に合わせての軽めの運動を集めた『パーキンソン病患者さんのやさしい体操』というDVDをリリースする予定です。私自身が体操の構成を考え、実際に演じています。

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頼高教授が製作したDVDと、ダンス教室の出席カード

最後に患者さんへメッセージをお願いします。

普段から主治医とよくお話し、最適な薬物等の治療を受けていただくと同時に、効果的な運動療法を続けていただきたいと思います。バランスのよい食事、適切な水分補給、そして効果的に体を動かす運動を、ぜひ心がけてください。

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