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2019.10.17
パラリンピック東京2020の先を見つめて 障がい者スポーツ同好会で活躍する学生たち
順天堂大学スポーツ健康科学部には、学生が自発的に立ち上げた「障がい者スポーツ同好会」があります。同好会では障がい者スポーツを自ら体験し、地域の小中学校で体験会を実施して指導も担当。さらに2019年8月31日に千葉ポートアリーナで開催された「パラスポーツフェスタちば2019」(主催:パラスポーツフェスタちば実行委員会、NHK千葉放送局)では、「小学生ゴールボール エキシビションマッチ」に出場する子どもたちのサポートもしました。障がい者スポーツの普及と振興に貢献するその活動の様子を、同好会のメンバー2人が語ります。
学内外を巻き込んで障がい者スポーツを体験!
―「障がい者スポーツ同好会」について教えてください。
阿部 2年次に渡 正先生の授業で、ボッチャ(*1)の試合出場者を募集していることを知り、仲間と3人で参加しました。出場したのは「ボッチャ東京カップ2017」という大会で、大学対抗戦でした。僕はずっと野球を続けてきましたが、障がい者スポーツの経験は初めて。体験してみると予想以上に面白くて、それが同好会を立ち上げるきっかけになりました。
*1:ボッチャ
パラリンピック正式種目。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青それぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりしながら、いかに近づけるかを競う。
関連リンク
・【Interview】スポーツ社会学を通して考える。障がい者スポーツとパラリンピックのあり方とは―?(スポーツ健康科学部:渡 正 准教授)
https://goodhealth.juntendo.ac.jp/sports/000213.html
・スポーツボランティアの学生がパラスポーツ「ゴールボール」を小学生に指導【Report】
沖 私は2年次に渡辺貴裕先生の勧めでゴールボール(*2)日本代表の試合のボランティアに参加したことから、障がい者スポーツに関わり始めました。そのとき観戦した試合が素晴らしくて! 「日本代表はやっぱりすごい! 視覚障がい者も健常者も関係ない!」と感動したんです。それから同好会に入会することを決めました。
*2:ゴールボール
パラリンピック正式種目。目隠しを着用した1チーム3名のプレーヤー同士が、コート内で鈴入りボールを転がすように投球し合って相手ゴールを狙い、得点を競う。
阿部 同好会では、学内でメンバーを募ってボッチャ、ゴールボール、シッティングバレーボール、車いすバスケットボールの体験活動を続けています。順天堂大学にはどの競技の用具も揃っていて、メンバーと場所さえ確保できれば、すぐに体験できるんです。
沖 スポーツ健康科学部と医学部の1年生は全員さくらキャンパスにある啓心寮に入寮し、1年間生活をともにしています。そのため、学生同士の縦の関係も横のつながりも強いのが、順天堂のいいところです。同好会も下級生がどんどん手伝ってくれるので、メンバーが集まりやすいんです。
阿部 これまでに、啓心寮の学生を対象にした学内ボッチャ大会の企画・運営もしました。でも、予選リーグ・決勝リーグとスケジュールを組み、参加チームの組み合わせを決めて場所を確保するのは、なかなか大変で。
スポーツ健康科学部の学生は部活動に打ち込んでいる人が多いので、そのような状況の中で、どうすれば一人でも多くの人に参加してもらえるのか、ずいぶん考えました。苦労した分、イベントをやり終えた後の達成感は、とても大きかったです。
沖 同好会ではゴールボールやボッチャの日本代表合宿のサポート活動も行っています。用具の用意はもちろん、ボールの軌跡を記録・分析して戦術に活かすお手伝いもさせていただいています。学生がここまで日本代表に関われるのも、順天堂大学が日本ゴールボール協会や日本ボッチャ協会と連携協力協定を締結しているからこそ。充実した経験ができています。
阿部 ほかにも、健常者対象のゴールボール大会にも出場しています。昨年は練習時間を確保できず1勝しかできませんでしたが、今年は大学内に練習環境が整ったので、大会にも準備万全の状態で臨めました。強豪チームとも接戦に持ち込むことができました!最終的に、予選・決勝リーグ併せて計7試合に出場することができ、とても嬉しかったです。
スポーツを通じてコミュニケーションを学ぶ
―同好会でありながら、多彩な活動を展開されていますね。8月末に行われた「パラスポーツフェスタちば2019」での様子も教えてください。
沖 私たちは普段から千葉県内の小中学校でゴールボール体験会を実施し、学生指導員として子どもたちと接しています。「パラスポーツフェスタちば」では、県内の小学校の中から市川市立菅野小学校と千葉市立新宿小学校の5年生が対戦する「エキシビションマッチ」が実現。もともと、菅野小学校では昨年、障がい者スポーツ同好会の学生が参加して最初の体験会を開いていた縁もあり、菅野小学校の子どもたちが「パラスポーツフェスタちば2019」に出場することが決まって、私たちが練習をサポートすることになったんです。対する新宿小学校の子どもたちを指導していたのが、ゴールボール日本代表強化指定選手で同じスポーツ健康科学部の佐野優人くん。順大対決になりました(笑)
阿部 ゴールボールでは全員がアイシェードを装着し、音だけを頼りにボールを追います。最初は目が見えない恐怖心が勝っていた子どもたちも、練習を重ねるごとに楽しむシーンが増えていきました。ただ、対戦相手である新宿小学校の映像を練習中に見る機会があったのですが、新宿小学校の子どもたちは、競技中も声かけのコミュニケーションがしっかりできていて。それがみんなの刺激になりました。
沖 そこから私たちもコミュニケーションに力を入れるようになって。
子どもたちも最初はボールを投げたり受けたりするだけで必死で、お互いに声かけもできなかったけれど、練習を重ねるうちにだんだんできるようになりました。障がい者スポーツを通じて、コミュニケーションを学んでいったのだと思います。
阿部 試合当日は大きな会場に観客もたくさん入っていて、子どもたちも緊張していました。でも、いざ試合になると、心から楽しんでいたようです。試合は逆転に次ぐ逆転で、大盛り上がり!
沖 エクストラスロー(*3)までもつれて、最後に菅野小学校の子どもたちが勝ったときは、感動して泣きそうになりました(笑)。子どもたちも、ものすごく喜んでいましたね。
*3:エクストラスロー
延長戦で決着がつかなかった場合に行われる。1対1でボールを投げ合う。
「共生社会」の一員として、障がい者とともに生きる
―障がい者スポーツの魅力とは何でしょう?
沖 まず見ていて楽しいし、面白いんです。自分が実際に体験してみると、想像以上に難しいこともわかります。シッティングバレーボールという種目は腰を浮かしてボールを打てないルールで、上半身の力しか使えません。私はずっとバレーボールに打ち込んできましたが、とても難しくて、全然できませんでした(笑)。バレーボールと言っても、健常者のバレーボールとは全く別のスポーツです。そんな自分自身の経験もあるので、全ての障がい者スポーツにおいて、「選手はすごい!」と尊敬しています。
阿部 健常者のスポーツにない体験ができることも魅力です。実は、僕は障がい者スポ―ツに関わるまで、障がいのある方と接したことがなかったんです。障がい者にどのような配慮が必要なのか、「スポーツ社会学」の授業などで学んでいましたが、障がい者スポーツ同好会での活動を通して実際に接する機会を得られたことで、初めてその必要性を本当に実感することができました。
―将来の目標は?
阿部 学内ボッチャ大会の企画・運営を経験したことが自分の中で大きな体験になり、イベント関係の企業に就職したいと考えるようになりました。一般企業でも障がい者雇用が進んでいるので、大学で経験したことが役立つと思っています。
沖 私は特別支援学校の教員になるのが夢です。そして教員になったら、体育の授業で障がい者スポーツを採り入れたいと思っています。障がい者スポーツを実際に経験した人は少ないと思うので、この体験は自分の強みになると信じています。
身近な目標としては大学院に進学して、今までどおり障がい者スポーツの活動を継続していきたいです。今は東京2020があるから体験会もイベントも増えていますが、この盛り上がりを2020年で終わらせてはいけないと思います。パラリンピックが終わっても障がい者スポーツは続きますし、面白さに変わりはありません。
阿部 スポーツを通じて障がい者の方々と触れ合えて、渡先生がいつもおっしゃっている「共生社会」の意味が徐々にわかるようになってきました。スポーツ健康科学部の学生は卒業後に教員になる人が多いですが、勤務先が学校であろうと一般企業であろうと、障がい者スポーツを通じて学んだことは社会に出てから必ず活かされると思っています。