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2018.12.21

宇宙で行うスポーツ競技を考える――地域の小学生と学生がアイデアを競いました

2018年11月24日(土)、順天堂大学さくらキャンパスにおいて、第64回日本宇宙航空環境医学会大会と順天堂大学「SAKURA未来プロジェクト」・「さくらキャンパス移転30周年記念プロジェクト」の合同企画による公開講座が開催され、地域の小学生や順天堂大学の学生が「宇宙で行うスポーツ競技 ~宇宙スポーツ大会を目指して~」をテーマに、アイデアを出し合いました。未来を担う子どもたちや学生から興味深い提案が次々に発表され、日本人女性初の宇宙飛行士である向井千秋先生をはじめ、4名のオリンピック・パラリンピック選手など多彩なパネリストとともに「宇宙とスポーツ」を考える、またとない機会になりました。この公開講座は、「東京2020応援プログラム」に認証されました。

スポーツとの相乗効果で宇宙について考える機会を!

日本宇宙航空環境医学会は、宇宙飛行士の健康や体について研究し、その成果を発表する学会。第64回の大会長を務める順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の和氣秀文教授は、以前より「子どもたちに宇宙について考えるきっかけを提供したい」と考えていました。そんな折、スポーツ健康科学部のあるさくらキャンパスで学会が開催される運びとなり、「東京2020を控えて盛り上がるスポーツとの相乗効果で宇宙に興味を持ってほしい」と今回の公開講座を企画しました。

第64回日本宇宙航空環境医学会大会長を務めた和氣秀文教授
宇宙での暮らしについて説明する井上夏彦JAXA主任研究開発員

Session1 ~宇宙でやってみたいスポーツ競技について自由に考えてみよう!(小学生企画)~

 

377件の応募から優秀作品10点を選出

地域の小学校高学年を対象に、「宇宙空間や月でしたいスポーツ」をテーマに絵画を募集したところ、377件の応募がありました。厳正な審査の結果、優秀作品10点、佳作33点が選出されました。
子どもたちの発表の前には、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士がどのように過ごしているのか、井上夏彦JAXA主任研究開発員より説明があり、「①宇宙は無重力なので、投げたモノはひたすらまっすぐ飛んでいく」、「②宇宙で力を加えると、必ず反対方向へ動く」、「③水がボール状になるので、ウォータースポーツは難しい」といった「宇宙スポーツを行う上での注意事項」は会場の興味を惹きつけました。
それでも、小学生には、あくまでも自由な発想で考えてもらうことが前提です。では、優秀作品10点の内容と講評をご紹介しましょう。

子どもたちの豊かな創造力が光る優秀作品10点

「月で行う宇宙パルクール」
「宇宙ぼうきアメリカンフットボール」
「スペースゴルフ」

〇「月で行う宇宙パルクール」 印西市立いには野小学校
月面にガラス張りの建物を建て、その中でパルクールの技を競います。地球の6分の1の重力しかない月面で、けがの心配なしに複雑な技をこなせるのが魅力。ガラス張りなので外から観戦することもできます。パルクールという着眼点に、パネリストから「発想が素晴らしい」という声が上がりました。

〇「宇宙ぼうきアメリカンフットボール」 佐倉市立小竹小学校
超高速で飛ぶ宇宙ぼうきにまたがって行うアメリカンフットボール。人種を問わず参加できるため、宇宙人も混じって相互理解を目指します。パネリストから「宇宙版ハリー・ポッター」「宇宙平和に役立つスポーツ」という感想が寄せられました。

〇「スペースゴルフ」 酒々井町立酒々井小学校
宇宙でゴルフをしたら、ボールがどこまでも飛んでいきます。これを利用していくつかの星にコースを設定。流れ星などの障害物を乗り越えて、最後に地球上の台風の目にホールインワンするのが目標です。パネリストからは絵の上手さとアイデアの独創性に賞賛の声が上がりました。

「身長関係なしバレーボール」
「長縄~月のうさぎになれるのか~」
「隕石から落ちるな!!」

〇「身長関係なしバレーボール」 酒々井町立酒々井小学校
発案者はバレーボールチームに所属していますが、背が低いためアタッカーができないそうで、「宇宙ならボールが落ちて来ないから身長は関係ない」と考案した作品です。山崎一彦さんから「実は僕も身長が低かったので陸上競技を始めた」と、意外なコメントが飛び出しました。

〇「長縄~月のうさぎになれるのか~」 佐倉市立印南小学校
宇宙飛行士に必要なチームワークを長縄で養成する企画。月面は重力が小さいため、「いかに低く跳ぶか」がポイントです。「低く跳ぶ」という逆転の発想はもちろん、「道具が縄1本なので宇宙にも持って行ける。実現性がある」と井上夏彦開発員から高い評価を受けました。

〇「隕石から落ちるな!!」 印西市立牧の原小学校
隕石から隕石へと早く跳び移ることを競い、落ちたら負け。距離は短いけれど小さくて落ちやすい隕石と、遠回りだけれど大きい隕石の2コースから選択します。パネリストからは「コースが2つあることが面白い」という声が聞かれました。

山崎一彦先生(陸上競技 400m 障害:バルセロナ五輪、アトランタ五輪、シドニー五輪 出場)
宇城 元さん(パワーリフティング:アテネ、ロンドンパラリンピック 出場)
発表した小学生に言葉をかける向井千秋先生

「宇宙つなひき」
「みんなで大きな鉄棒」
「スペースボート」
「星ひろいゲーム」

〇「宇宙つなひき」 佐倉市立山王小学校
月面での綱引き大会。内藤久士学部長より「体重の重い人が有利でないのがいい」、井上夏彦開発員より「無重力空間では人が引っ張り合うと、逆にぶつかる。月面では足元がツルツルした状態になる」など、宇宙空間や月面の特性について興味深い説明がありました。

〇「みんなで大きな鉄棒」 印西市立平賀小学校
星と星の間に大きな鉄棒をかけ、大人数で遊びます。体操選手だった新竹優子さんの「今、鉄棒を教えているが苦手な学生が多く、宇宙なら全員単位が取れるだろうと思った」というコメントに、会場から笑いが起きました。

〇「星ひろいゲーム」「スペースボート」 愛知県東郷町立高嶺小学校
2014年より順天堂大学と連携して健康づくり事業を進める愛知県東郷町の小学校が特別参加。2分間で拾った星の数を競うゲームや、3人1組で宇宙でボートを漕ぐ競技などの発表がありました。

新竹優子先生(体操競技:北京五輪、ロンドン五輪 出場)
高田彬成さん(スポーツ庁)
会場内に展示された小学生の作品

鈴木大地スポーツ庁長官、冨田洋之順天堂大学准教授より子どもたちへのビデオメッセージ

 

子どもたちの発表に続いて、鈴木大地スポーツ庁長官から「どれも楽しそうで、いつか本当に宇宙で実現できるかもしれないとワクワクした。みんなのアイデアが宇宙オリンピックで実現することを期待します」というビデオメッセージが寄せられました。

また、アテネオリンピック体操団体金メダルの冨田洋之順天堂大学准教授からも「体操競技にはさまざまな技があり、見る人に感動を与えます。無重力なら誰でも月面宙返りができるかもしれません。将来は宇宙スポーツ大会が実現できればいいですね」とビデオであいさつがありました。

鈴木大地スポーツ庁長官からのビデオメッセージ

Session2 ~宇宙ステーション内で行う新しいスポーツを企画してみよう!(教員・学生企画)~

 

ゴムバンドなどで負荷をかけ、楽しみながら運動を!
小学生に続いては、順天堂大学の教員・学生による発表です。テーマは「無重力環境を活かした、安全で楽しく競技性があり、現実的で、体力維持にもつながる実現可能な新しいスポーツ種目」。国際宇宙ステーションに長期滞在する宇宙飛行士が、日本の宇宙実験棟「きぼう」内でできる運動を念頭に置いています。「きぼう」の大きさは、およそ電車の車両1台分。細長い無重力空間を活かして、楽しみながら運動不足とストレスを解消できるスポーツが提案されました。
学内のさまざまなゼミナールから発案されたスポーツは、全部で8つ。
その中から2つの作品をご紹介しましょう。

 

〇「スペースサルト」 生理学ゼミナール(和氣秀文順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授)
一方の壁をキックし、途中にある鉄棒をキャッチしてから回転技やひねり技を入れ、もう一方の壁にあるエアロックに着地します。宇宙飛行士はゴムバンドを装着し、技の難易度と通過点の中心への近さを競います。
市販のゴムチューブや「きぼう」内にあるバーを鉄棒代わりに利用するため、コストもかからず、すぐにでも実行可能なことが特徴。
向井千秋先生から「宇宙では体重がないので着地がとても難しい。着地点も競ってはどうか」という提案がありました。

〇「スペースクライミング」 測定評価学ゼミナール(河村剛光順天堂大学スポーツ健康科学部助教)
「きぼう」の上下左右の壁に面ファスナーを設置し、コースを設定。宇宙飛行士も手足に面ファスナーをつけ、妨害レーザーを避けながら決められたルートを登り、タイムを競います。
井上研究員から「いちばん面白い。上下左右全ての壁面を使えるところがいい」と絶賛されました。

上記以外のゼミナールの発表にも多く見られたのが、体に負荷をかけるためのゴムバンドやゴムチューブの活用です。無重力空間では体にあまり負荷がかからず、短期間で急速に筋力が低下してしまいます。そこで重力の代わりにゴムバンドなどを使って動きに抵抗を加え、運動効果を上げようとする試みです。この工夫が「うまく使えば負荷のあるトレーニングができる」と、パネリストからも高く評価されました。また、向井千秋先生からは「実現可能なスポーツがたくさんあった。ただし、国際宇宙ステーションは安全性のため、振動を与えるようなスポーツはNG。空間をあまり広く使わず、障害物を利用してはどうか。ゴムバンドやゴムチューブを使うのは、とてもいいアイデア」と総評がありました。

 
次のステージは宇宙!

日本人が月面探査する時代が目前に。

 
発表の後、現在も宇宙開発に関わる向井千秋先生から有人月探査計画について紹介がありました。2017年10月、政府は国際的な有人月探査計画に参加することを決定。日本人宇宙飛行士が月面を探査できる時代がすぐそこまで来ていることが、次の向井先生の言葉からも伝わってきます。
「私たちのモットーは“次は宇宙だ!”。人はさまざまな技術を地球上で築き上げてきましたが、これからアウトプットする先は宇宙です。技術をどんどん宇宙で社会実装させていくこと。そのために必要なものが教育です。教育が夢を実現させるのです」
公開講座の最後に、内藤久士学部長より参加した子どもたちや保護者の方々、協賛企業の方々へ感謝の言葉がありました。さらに、さくらキャンパス30周年の年に地域への貢献活動を実現できたことや、今回の公開講座を通して宇宙医学と健康・スポーツの関わりについて活発な議論ができたことを取り上げ、「大成功の会」と締めくくりました。

会場の参加者に向けて有人月探査計画について紹介する向井千秋先生

【公開講座 概要】
◆開催日時 : 2018年11月24日(土)14:00~16:00
◆開催場所 : 順天堂大学スポーツ健康科学部:さくらキャンパス 第2体育館
◆主催 : 順天堂大学、第64回日本宇宙航空環境医学会大会
◆後援 : スポーツ庁、順天堂医学会
◆協力 : JAXA

【パネリスト】(※敬称略)
向井千秋:宇宙飛行士、JAXA(宇宙航空研究開発機構)特別参与、東京理科大学特任副学長
内藤久士:順天堂大学スポーツ健康科学部学部長
山崎一彦:陸上競技400m障害 バルセロナ・アトランタ・シドニー五輪出場
新竹優子:体操競技 北京・ロンドン五輪出場
宇城 元:パワーリフティング アテネ・ロンドンパラリンピック出場
北川貴理:陸上競技4×400mリレー リオ五輪出場、順天堂大学学生
井上夏彦:JAXA宇宙環境利用推進部 宇宙医学研究開発室 主任研究開発員
高田彬成:スポーツ庁政策課 教科調査官

【総合司会】
根本美緒(フリーアナウンサー)
和氣秀文:第64回日本宇宙航空環境医学会大会長、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授

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