SOCIAL

2021.06.15

社会にいち早く安心と健康を届けるために。 順天堂のコロナ禍への取り組みに見る「仁」の精神

新型コロナウイルス感染症の流行が拡大して約1年。コロナ禍に立ち向かうべく、感染症対策、COVID-19関連の研究など、順天堂はこれまでも多岐にわたる活動を積極的に行ってきました。そのすべての活動には、他を思いやり、慈しむ心である「仁」の精神が息づいています。

知見を活かした論文発表・研究の推進

順天堂大学ではコロナウイルスに関する研究や感染対策への取り組みを積極的に進めています。2020年3月から2021年3月までの1年間で発信した英文論文等の関連情報は91本に上り、コロナ禍で混乱する世の中に対し、順天堂が掲げる3つの柱「教育」「研究」「診療・実践」に基づき貢献を続けてきました。

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順天堂大学ホームページより

4月には清水建設(株)と共同で新型コロナウイルスの感染リスクをモニター画面上で可視化するシステムを開発したことを発表。ウィズコロナの社会環境下、室内空間を安心して利用するためには、感染リスクを低減する取り組みが欠かせません。このシステムは施設利用者や管理者に空間内の感染リスクの大小をリアルタイムに提示し、状況に応じた対策や行動を促すためのツールとして活用が期待されます。このシステムを活用することで室内空間でのコロナウイルスに対する人々の感染リスクや不安を減らすこともできるでしょう。

ワクチン接種のためのコホート研究

また、厚生労働省の新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業の一環として、専門家会議を通じて国民にワクチンの安全性情報を発信することを目的とする、「新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)」も担っています。ワクチン接種による発熱、倦怠感などの副反応疑いの情報を正確に把握し、接種を担う医療施設が本来の業務と両立してワクチン接種を遂行できるように情報を発信しています。医療従事者、高齢者、一般の方々とワクチン接種が加速していく中で、ワクチンの副反応に関する正確なデータを収集し、調査結果として公表することは急務と言えます。
このように順天堂では、日々さまざまな研究・調査を行い、社会の人々が少しでも早く安心して暮らせるよう、取り組みを続けています。

医学部の学生が高齢者のワクチン接種予約をサポート

2021年5月から、全国の市町村で高齢者へのワクチン接種が始まりました。オンラインや電話での接種予約が必要な一方で、自力で予約手続きを進めることに困難を抱える高齢者も数多くいます。そこで、医学部医学教育研究室の武田裕子教授の基礎ゼミナールでは、ゼミ活動の一環として、三鷹市野崎地域に暮らす高齢者のワクチン接種予約を学生たちがサポートしました。なかなか予約が取れずに困っている方々に対して、日程や会場の希望を聞きながら学生たちが申し込みの手助けをするなど、高齢者の不安解消にも一役買っています。

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医学部のゼミ活動の一環として学生が高齢者のワクチン接種予約をサポート

同窓会ネットワーク力でワクチン接種を

文京区にある本郷・お茶の水キャンパスでも、順天堂医院が区からの依頼を受け、区の高齢者4分の1のワクチン接種を担うことになりました。医師と看護師が連携して接種にあたることができる病院としての強みを生かし、また180年以上の歴史が形成した同窓会ネットワークを活用して、ワクチン接種の人員を確保し、打ち手不足の課題に立ち向かっています。
ワクチンの打ち手として接種の現場に立つ順天堂大学卒業生、順天堂医院の看護師OGら3名にお話を伺いました。

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ワクチン接種の会場となっている本郷・お茶の水キャンパス7号館の入口

〈PROFILE〉

■照沼則子さん
卒業生。その後順天堂医院で看護部長を務める。定年後内部監事として6附属病院の看護の監査やアドバイスを行う。

■木下邦子さん
卒業生。定年間近まで順天堂医院で看護課長を務める。最近は順天堂医院での受診相談を担う。順天堂大学看護学部同窓会役員。

■幅下貞美さん
助産科の教員として順天堂医療短期大学に着任。その後看護部長も務め、定年後現在は看護部長補佐を務める。

照沼 順天堂医院の高橋院長、堀感染対策室長から、看護学部同窓会の土屋会長に協力依頼が来たのは2月末ごろ。私が窓口となり、同窓会のネットワークを通じて呼びかけを行いました。予想以上に反応があり、あっという間に同窓生、職員OB、大学院生の12名が集まりました。現在では、更に同窓生6名が増えワクチン接種に協力しています。
木下 現場で働く看護師たちはコロナ病棟での対応などで大変ですから、私にできることはやるべきだと思いました。現在は病院での受診相談の合間に参加してます。現場から離れて長いため、大丈夫なのかと不安もありましたが、丁寧な事前指導やシステムが整っていたことで、スムーズに動くことができました。臨床で培った経験は失われていませんでしたね。

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木下さん「私にできることはやるべきだと思いました。」

幅下 打ち手への指導については、高齢者接種に先行して行われた医療従事者への接種の際に用いた資料を活用しました。感染対策の勉強もし、手順書を作成して感染対策室にチェックしてもらい、きちんとマニュアルをつくることで、打ち手たちも不安なく接種にあたれたと思います。


正確な接種を可能にする医師・看護師・薬剤師の連携

照沼 まず、院長が「住民接種準備ワーキンググループ」を設置し、関連部署との打ち合わせ会を開催し組織体制を整えました。高齢者の導線を考え、医師の問診チェックの手順や、高齢者への接種を看護師2名体制とする事、急変発生時、救急室への連絡及び搬送ルートの確認まで、綿密に計画を立てました。また、現場では感染対策室の医師、看護師がマネジメントを行い、リーダーシップを発揮しています。打ち手として協力する同窓生や看護師OBも「ワクチン接種の医療リスク保険適応」の対象であることを確認し、働く環境も整いました。医療の専門家によって組織された病院としての利点を生かしたスムーズな仕組みづくりができたと思います。

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照沼さん「医療の専門家によって組織された病院としての利点を生かしたスムーズな仕組みづくりができたと思います。」

木下 薬剤師がワクチンを分注しておいてくれるのは良かったです。薬剤師が無菌調剤室で適量を注射器に詰めて用意しておいてくれるので、看護師はそれを打つだけ。よくニュースで聞くような分量のミスなどを防ぐことができます。
幅下 医師もしっかり問診をしてくれるので、私達は目の前のことに集中できます。医師・看護師・薬剤師の連携がしっかりとできていることで、スムーズな接種が可能になりました。複数の専門職が関わる一連の動きを円滑に行うことができるのは順天堂医院の大きな強みの一つですね。

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幅下さん「複数の専門職が関わる一連の動きを円滑に行うことができるのは順天堂医院の大きな強みの一つですね。」

救急室に患者を運び込む場合のシミュレーションや、介助者と観察者の役割分担をして流れをスムーズにしたことで、初週300人/日だった接種人数を次の週から予定の360人/日にスムーズに増やすことができるなど、ノウハウも貯まってきたといいます。

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接種終了後の関係者でのミーティングの様子

安心して接種に来てもらうための「仁」のケア

照沼 ワクチン接種に来られる多くの高齢者は不安や恐怖心を持っています。安心できるための「接遇」を心がけています。まず打ち手の看護師は、マスクで表情がわかりにくいですから、挨拶やアイコンタクトを意識し、ゆっくり声を掛けます。また、介助の看護師は注射をする肩と腕にそっと手を添え、高齢者の力みや緊張を軽減させることで痛みが緩和できると考えています。ワクチン接種をする時に、高齢者と接する時間はたった2分です。「真実の瞬間は15秒」(ヤン・カールソン)と言われているように、「高齢者と出会う2分間の看護を大切に」と、ワクチン接種時の看護を伝えています。これは順天堂の学是「仁」に通じます。

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幅下 みなさん、使命感を持って取り組んでいます。看護師ですから、もともと人の役に立ちたいという気持ちがあるんですね。もちろん年齢を重ねてできないこともありますが、できることがあるならやるぞ、という気持ちです。
木下 日ごろお世話になっている地域に還元できるのもうれしいですね。OG同士、知り合いも多く連携を取りやすい部分もあります。みんなが同じ「仁」の想いのもと、医療に従事してきた仲間ですから、このような状況でも息を合わせ「オール順天堂」で取り組めるのだと思います。
幅下 今後は、このような接種の仕組みやダブルワーク体制などをさらに整え、それが他の病院や地域にも広がっていってほしいですね。知人の看護師にも、「協力したいがどこに連絡すればいいかわからない」という人がいました。受け入れ体制が整っていなければ、せっかくの想いが生かされません。順天堂の接種体制がモデルとなって、今後のワクチン接種の展開に活用されると嬉しいです。

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左から木下さん、幅下さん、照沼さん

ワクチン接種のロールモデルを順天堂から発信

日本には看護師の資格を持っているが、臨床現場で働いていない「潜在看護師」が多く存在しており、ワクチン接種の担い手など、コロナ禍で不足する医療人材としての活躍が期待されています。様々な状況によって現場を離れている潜在看護師に効率よく協力いただくためには、受け入れ制度や運用システムを整備する必要があるでしょう。順天堂が培ってきた、迅速に協力し合える同窓会ネットワークや、医師・看護師・薬剤師の連携力を生かした仕組みは、ワクチンの打ち手にとっても安心し各々の力を発揮できるものです。このような仕組みがさまざまな市区町村に整えば、より接種が加速することが期待できるでしょう。高い研究力と確かな診療力、さらに相手を思いやり、慈しむ心をもって行う「仁」の精神により、今後も順天堂はコロナ禍に立ち向かっていきます。

*ワクチン接種をお手伝いいただける医療従事者の方は、メールでwakuchin@juntendo.ac.jpまでご連絡ください。引き続き募集をしております。

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