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2022.08.31
"国籍"を持たない難民たち。世界の過去と現状を知る公開講座を開催
世界的な課題である「難民」問題を考える#シリーズ難民。順天堂大学国際教養学部では、2017年度より毎年、公開講座として「UNHCR WILL2LIVEパートナーズ上映会」を開催し、学生や一般の方を対象に難民や国際協力への理解を深める機会を創出しています。今回は『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』の上映会を3年ぶりに対面にて開催。国際教養学部の教員と学生によるミニ・トークセッションを交え、世界が抱える「難民」問題について考えました。
難民問題について考える、世界難民の日
毎年6月20日は国連が定める「世界難民の日」(World Refugee Day)。難民支援の輪を広げたいという思いを込め、東京スカイツリーや都庁など日本各地のランドマークがブルーにライトアップされました。順天堂大学国際教養学部では、2022年6月21日に公開講座「UNHCR WILL2LIVEパートナーズ上映会」を開催。戦争により国籍を持てなかった難民の姿を収めた『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』の上映を行い、248名の参加者が難民問題に思いを馳せました。上映に先立ち、難民問題についての出張授業を実施している学生団体SOAR(ソア)で活動する国際教養学部の今田知里さんと、異文化コミュニケーション領域の今井純子先生によるミニ・トークセッションも実施。私たちが今できる難民支援のカタチとは何かを語っていただきました。
存在を伝えるという難民支援
- ミニ・トークセッションでは、今井先生が聞き手となり、今田さんが学生団体SOARでの活動について紹介しました。
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今田
「学生団体SOARは、国連UNHCR協会と連携し、大学生が中心となって難民問題に関する出張授業を行う学生団体です。小学校・中学・高校・大学などへ足を運び、同じ学生だからこそ伝えられる言葉で児童・生徒たちに社会の現状を伝え、世界の難民問題について考えてもらうきっかけづくりを行っています。私は『いのちの持ち物けんさ』というワークショップを担当。これはワークシートを使って普段何気なく使っている持ち物を書き込み、それらが失われたらどうなるだろうか?を考えるというものです。今自分が持っているものが無い世界を想像するのは難しいことですが、私たちにとって当たり前のことができない難民の喪失体験を疑似体験するためにとても重要な機会になっています。このように、難民について知らない小中高生に向けて、情報発信を行うことが私たちSOARの役割です。」
- まずはその第一歩として、今回の上映会を通して関心を高め、身の回りの人達にも情報を広げてほしいと思いを語りました。今田さんがSOARと出会ったのは、大学で先生から教えてもらったことがきっかけだったそうです。
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今田
「小学校6年生の時に、授業の一環で国境なき医師団の方に実際の難民キャンプの様子や写真を紹介していただく機会がありました。そこで、自分と同じ年代の子供たちがそのような苦境に立たされていることを知り、難民を始めとした世界の課題に興味を持ち始めました。それから中学・高校でも私なりに学びを深め、『日本の子どもたちにもっと難民の現状について知ってほしい』という思いで国際教養学部に入学しました。SOARでの活動を通して、参加者の皆さんが積極的に考えてくれたり、関心を持ってくれたりすることが非常にうれしく、やりがいを感じています。今後は、難民キャンプなどにも参加し、リアルな現場の声を世界に広める活動に挑戦したいと考えています。」
生まれながらにして無国籍。残留邦人という「難民」たち
今回上映された映画では、フィリピンと中国の残留邦人について取り上げられました。フィリピン残留邦人は、第2次世界大戦時にフィリピンに移住した日本人移民の子孫で、戦後両親と引き離され現地に残された人々のことを指します。彼ら日系2世たちは本来であれば日本国籍を保持するはずでしたが、戦後フィリピンで迫害から逃れて生きるためには日本人であることを隠さねばならず、日本国籍もフィリピン国籍も持てないまま暮らすことを余儀なくされました。中国残留邦人も同様に、戦後の混乱の中で両親と離別し、身元を知らないまま中国で生活をしてきた人々です。
「国籍を持つ」ということは、国の保護を受けられるということ。無国籍者は国の支援も受けられず、民間による支援に頼るほかありませんが、民間の支援にはどうしても限りがあります。国籍が認められれば、働くことができ、彼らの子や孫も教育を受けられるようになり、日本での就労も可能になります。生まれながらにして国籍を持てず、十分な保護を受けられなかった難民たちの未来の可能性が広がるのです。
スクリーンの向こう側ではなく、現実問題として受け入れるには
- 残留邦人問題は、まだまだ根本的解決に至っていないのが現状です。しかし、多くの人がこの現状を知り、日本という国がどのように対応していくべきかを考えることに意味があるでしょう。今回の上映会に参加した学生たちは、次のように感想を語りました。
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参加者Aさん
「残留孤児の存在は知っていたものの、あまり難民問題には関心を抱いていませんでしたが、映画を見てとても胸を打たれました。彼らの現状がより良くなることを願い、私もぜひ何か行動を起こせればと思いました」
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参加者Bさん
「フィリピン残留日本人や中国残留邦人の人々が日本国籍を得られた時や日本に帰国できた時の感動が伝わってきました。国籍を得たとしても、教育が受けられなかった理由で貧困格差が起きているため、その連鎖を断つことが重要だとわかりました。そのような人々がいることは知っていましたが、今回の機会を通して詳しく学べてよかったです。これら多くの問題が早く解決されることを強く願います」
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参加者Cさん
「日本にいると講義で学ぶ程度にしか難民について学べません。勿論、講義で学べることもとても貴重なことだと思います。ただ、実際にドキュメンタリー映画を通して見ることで難民問題の事実を視覚で確認でき、その深刻さをより感じることができました。講義では、事実を知ったところで何も知識のない自分がどう役に立てるのか、何ならできるのか、右も左も分からず、力になりたいという気持ちだけ残ってしまうことが多いです。しかし、今日のように実際に募金の場を設けていただいたことにより、少しでも助けることに力を貸すことができました。貴重なお話と映画をありがとうございました」
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参加者Dさん
「同じ日本の血を受け継ぎながら、全く違う場所で幾度となく過酷な状況に耐えてきた方々がいることに、映画の序盤は言葉も出ないほど驚きました。そんな中でも『戦争に向かう父親が悪いわけではないので恨むことはなかった』『今までの大変なことは全て子どもや孫のためだった』『今とても幸せだ』と話していた彼らに、自分が生きる道を見つけ、生き延びてきた強さを見せてもらった気がしました。」
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参加者Eさん
「国家間の争いに巻き込まれたことにより差別や貧困という厳しさを味わってきた残留孤児の方々が、それでも両国に感謝をしつつ、現在では国と国をつなぐ架け橋になろうとしていること、また同じような境遇の人々のサポートを率先的に行っていることに心が揺さぶられました。」
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日本で暮らしていると馴染みがなく、どこか遠い世界の出来事だと感じてしまいがちな難民問題ですが、スクリーンの向こう側の出来事ではなく、同じ世界で起きている出来事です。私たちにできることは、まずきちんと「知る」こと。そしてその輪を広げていくことでしょう。同じ地球に生きる人間として、世界のことを考えてみませんか。
国際教養学部公開講座「UNHCR WILL2LIVE パートナーズ上映会」開催概要
2022年6月21日、「UNHCR WILL2LIVE Cinema」の上映作品である『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』を上映。上映に先立ち、学生団体SOAR(ソア)に所属し活動している本学部学生の今田知里さんと異文化コミュニケーション領域の今井純子先生によるミニ・トークセッションを実施しました。
主催:順天堂大学 国際教養学部(FILA)
運営:UNHCR WILL2LIVE Cinema FILA運営委員会
齊藤 美野(チーフ・コーディネーター)
今井 純子・太田 有子・岡部 大祐・佐々木 優・髙濵 愛・玉村 健志・原 和也
後援:国連UNHCR協会
『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』
時間 98分
制作年 2020年
企画・製作 河合 弘之
監督・脚本 小原 浩靖