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2022.12.27

将来の健康のために、乳児期からできることとは?

「スポーツ庁×順天堂大学リレーコラム」第1回(前回)では、幼児期の運動習慣が将来の健康にどのようにつながるか、発育発達の観点から鈴木宏哉先生(スポーツ健康科学部)に話を聞きました。第2回となる今回は、幼児期を迎える前の乳児期や妊娠中にスポットを当て、幼児期に運動あそびができる健康な体をつくるために乳児期から気をつけておきたいことについて、小児科医の東海林宏道先生(医学部小児科学講座先任准教授)にお話しいただきます。

スポーツ庁×順天堂大学リレーコラム「幼児期からの運動習慣づくり」

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リレーコラム第2回! 話を聞いた先生は…

 

順天堂大学医学部小児科学講座
東海林 宏道 先生


胎児医学、小児成育学が専門。小さく生まれた赤ちゃんのフォローアップ外来を主に担当している。順天堂医院周産期センターで副センター長を務める。

日本で増える低出生体重児

今、日本で生まれる赤ちゃんの低体重化が進んでいます。子どもの平均出生体重は、1980年代以降低下が続いており、80年代には男児は3,200g以上、女児も3,100g以上あった平均出生体重が、2018年には男児が3,050g、女児は2,960gにまで減少しました。また、2,500g未満で生まれる低出生体重児も増加しており、2019年度には生まれた赤ちゃん全体の9.4%を低出生体重児が占めています。

 

実は近年、低体重で生まれた子どもは、成人後に生活習慣病になるリスクが高いことが調査研究から明らかになってきました。胎内で低栄養状態に置かれて小さく生まれた赤ちゃんが、生まれた後に過栄養のような状態になると、そのギャップが、肥満、心筋梗塞、2型糖尿病などになるリスクを高めると言われています。数十年ほど前は「小さく生んで大きく育てる」を良しとしていた時代もありましたが、実際にはそれが逆に病気になるリスクを高めてしまうことになるというわけです。こうした見方は「胎児から2歳ごろまでの発育環境が生涯にわたる病気のリスクを左右する」というドハド学説(DOHaD:Developmental Origins of Health and Disease)といわれ、今世界で注目されている考え方です。

やせ女性と母体の低栄養

赤ちゃんが低体重で生まれる原因には、母体の低栄養、胎盤機能の低下などがあると
考えられています。日本では特に、若い女性のやせ願望が母体の低栄養を招いている可能性があり、さまざまな方面で問題視されています。日本は先進国の中でも、女性のボディマス指数(BMI)が下がり続けている珍しい国です。やせ(BMI 18.5㎏/㎡未満)の女性の比率は日本が先進国の中でもっとも高く、特に若い女性では、その比率が約20%と非常に高い状態にあります。妊娠前からやせ願望が強く、栄養を十分摂らずに生活している女性は、妊娠中も必要なエネルギー量や栄養をなかなか摂ることができないケースがあり、それが胎児の低栄養につながってしまうと考えられます。

 

そのため、厚生労働省は2021年、妊婦の推奨体重増加量の基準を見直し、妊娠前の体格が「やせ」だった妊婦については、その体重増加量の目安を「9~12kg」から「12~15kg」に引き上げました。産婦人科の先生や助産師さんも、こうした情報を得ながら栄養指導を丁寧にしてくださっていますから、今後は低出生体重児は少しずつ減っていくのではないかと考えています。ただ、「赤ちゃんの生涯にわたる健康には、妊娠前からの栄養状態が影響する可能性がある」ということは、男性女性問わず、結婚・妊娠前の若い世代のみなさんにもっと発信していかなければならない大事な情報です。さまざまな情報が溢れる時代ではありますが、ご自身の健康だけでなく生まれてくる赤ちゃんのためにも、適切な栄養や食事、そして適度な運動などに対する正しい知識を、身につけていただきたいと思います。

厚生労働省報道発表資料より

注目したい乳児期のBMI

ここまではお母さんの健康のお話をしました。次に、乳児期・幼児期の子どもについて、気をつけたいことをお伝えします。
肥満や生活習慣病は、早めにリスクを知って対策を取り、予防することが肝心です。そこで、乳幼児期に将来のリスクを予見するデータとして注目したいのが、乳幼児期のBMIの推移になります。

 

BMIは、体重(kg)÷身長(m)の2乗で表される体格指数です。健康診断の結果やご家庭の体組成計で、みなさんにもすっかりおなじみの数字かと思いますが、実は出生から6歳ごろまでの子どものBMIをグラフにすると、身長や体重とは異なる特徴的な動きをすることが分かっています。
この時期の子どもの身長と体重は、時間の経過とともに増えていくのが一般的です。ところが、BMIは生後9カ月ごろまで急上昇した後、一旦下がり、6歳ごろから再び上がり始めるのです。この再び上がり始めるタイミングを、アディポシティリバウンド(Adiposity rebound、AR)と言います。そして、ARが早い時期に起こる子どもは、小学生以降に肥満になりやすく、成人後に生活習慣病になるリスクも高いことが分かっています。ARが早期に起きているどうかは、1歳6カ月児健診と3歳児健診のBMIを目安に確認することができます。通常は1歳6カ月>3歳になるはずですが、1歳6カ月<3歳だったお子さんは、将来的な肥満のハイリスク群として注意深く経過観察をしていく必要があります。

東海林 宏道 先生

出生時の体重やARのタイミングは、小児の肥満や将来の生活習慣病のリスクを知る目安になるものです。もしリスクが高いと分かれば、乳児期からミルクや離乳食の摂り方を変えたり、保護者も含めた家族全体の食事や生活習慣を見直すなど、予防の手立てを講じやすくなると思います。以前から小学校などではカウプ指数(10×体重(g)÷身長(cm)の2乗、値はBMIと同じ)や肥満度(【(実体重-標準体重)÷ 標準体重】 ×100%)で把握する取り組みが行われてきましたが、もっと幼い乳幼児のBMIは、これまでそれほど注目されてきませんでした。乳幼児のBMIの推移とARについては、乳幼児健診に関わる保健師さん、乳幼児教育・保育に関わる先生方、一般の保護者のみなさんにも広く知っていただき、子どもたちの生涯にわたる健康のサポートをしていただきたいと思います。

乳児期は“運動できる体の基礎”をつくる時期

一般的に、肥満や生活習慣病の予防には、食事に気をつけるだけでなく、小さいころから運動習慣をつくることも大切です。乳児期はまだ運動というところまではいかないかもしれませんが、保護者の方と一緒に“体を使って遊ぶ”ことを心がけると良いと思います。一度肥満になってしまってから運動を始めようとしても、実際にはなかなか難しいもの。肥満のリスクが高いお子さんは、特に幼児期からしっかり体を動かす習慣を付けることが、その後の健やかな成長にとって重要だと思います。乳児期は、幼児期に運動できる体の基礎をつくる時期と考え、しっかり発育を促していきましょう。

外で日を浴び健やかな発育を促しましょう

ここ数年、コロナ禍で子どもたちの外出控えが増えています。幼児や小学生はもちろん、乳児にとっても散歩や公園遊びなど「外で日を浴びて遊ぶ」ことはとても重要です。骨の成長に欠かせないカルシウムは、体に吸収される時にビタミンDを必要とします。ビタミンDは日光の紫外線B波に当たることでつくられるため、乳児の骨の成長には屋外で日光を浴びることが欠かせないからです。ところが近年、親世代の紫外線を避ける意識の高まりにあわせて、赤ちゃんにも日焼け止めが必要だと考えている保護者が少なくないように思います。乳児期に日焼け止めを塗って紫外線を完全にカットしてしまうと、体内のビタミンDを活性化することができず、骨の成長や体づくりに影響を及ぼしかねません。過度な紫外線は皮膚がんなどのリスクになり得ますが、赤ちゃんにとっては紫外線を全く浴びないことも問題です。短時間でもいいので、乳児期は日焼け止めを使わずにお日さまの光を浴びて体を使って遊ぶ時間を設けてください。

 

将来の健康を脅かす肥満や生活習慣病のリスクは、乳児のうちに予見することが可能です。早いうちにリスクが分かっていれば、幼児期から運動習慣を付けるなど、病気を予防し健やかな成長を促すことができます。保護者のみなさんには、身長体重だけでなくBMIの変化もしっかりチェックし、お子さんの栄養などに気を配って健康な体の土台づくりをしていただきたいと思います。また、外に出かけて日光を浴びて、しっかり体を動かすことも成長には大切です。乳児期には、骨や体をしっかり成長させ、幼児期や小学生の時期に運動を楽しむための準備をしておきましょう。

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