STORY

2018.11.06

保健看護学部主催 国際シンポジウム 「次世代介護を考える ~世界一幸せな国フィンランドからの提言~」【前編】

2018年10月20日(土)、順天堂大学保健看護学部はフィンランドのユヴァスキュラ応用科学大学から4名の先生方をお招きし、三島キャンパスにて高齢者介護に関する国際シンポジウムを開催しました。フィンランドも日本と同様に超高齢社会を迎え、今後慢性的な介護従事者不足が懸念されています。その解決策のひとつとして、両国が力を入れているのが介護現場へのロボットやAIの導入です。本シンポジウムでは、ユヴァスキュラ応用科学大学の4名の先生方と本学の教員2名が介護の分野におけるロボット工学や看護工学などについて発表しました。

発表①
「医療におけるロボット工学の活用(ヨーロッパ)」
ユヴァスキュラ応用科学大学 栄誉教授
カリ・ヴェーマスコスキ氏

講演①.jpg
Kari Vehmaskoski(カリ・ヴェーマスコスキ) 氏

一般的に、ロボット工学が進んでいるのは自動車産業が発達した国だといわれています。というのも、自動車にはさまざまなセンサー技術が採用され、製造する際の自動化ロボットも必須だからです。日本も米国もそうですし、ヨーロッパの国々でもそうです。
例えばイタリアでは糖尿病患者が多く、スマートな義足が活躍しています。スウェーデンでも医療ロボット技術が進んでおり、握力を高めるための手袋型ロボットなどが開発されました。

フィンランドの病院で非常によく利用されているのが、日本製のメンタルコミットロボット「PARO」。ほかに医薬品の搬送・管理などに使われる物流ロボットも、AIの進化とともに近い将来革命を起こすといわれています。日本との大きな違いは、平均入院日数が短いため、家庭におけるロボット支援が重視されていること。病院・施設と家庭間でコミュニケーションするためのテレプレゼンスロボットや、身体状態の把握や認知症患者の位置情報確認のためのスマートウォッチがよく用いられます。図3.jpg

また、日本では身体機能をサポートするロボットスーツを見かけますが、ヨーロッパにはまだありません。我々は今後、さまざまなことを日本から学ばなくてはなりません。

発表②
「看護学における加齢工学-フィンランドと日本の共同研究」
ユヴァスキュラ応用科学大学健康社会学部看護学科長
マルヨ・パロヴァーラ氏

講演②-2.jpg
Marjo Palovaara(マルヨ・パロヴァ--ラ)氏

順天堂大学と私たちユヴァスキュラ応用科学大学は、1年前より高齢者看護学の共同研究プロジェクトを推進しています。共同研究に至った背景には、フィンランドと日本の課題に共通点が多いことがあります。どちらも少子高齢化が進み、近い将来ヘルスケア専門職の数が不足するといわれているからです。

図5.jpg

本プロジェクトでは、フィンランドと日本の学生がインターネットを通じてともに学ぶことができます。学習単位は3つ。1つ目は高齢者の健康に必要な解決策やサポート方法などを学ぶ「ヘルスプロモーション」。2つ目の「看護学」では、非常に広い範囲から高齢者学や加齢工学に関する幅広い知識の獲得を目指します。3つ目の「リハビリテーション」では、「国際機能生活分類」という指標をツールのように使い、一人ひとりの高齢者のニーズを見極めていきます。3分野の授業を受けることで、学生は人間中心のプランを立案できる看護者へと成長していくのです。

ちなみに、インターネットを活用した授業はこのシンポジウムの直後からスタートする予定です。フィンランドの学生も日本の学生も、授業をとても楽しみにしています。

発表③
「超高齢大国日本が直面する課題 -介護力不足と福祉用具・ロボットの活用-」
順天堂大学保健看護学部
横山悦子 先任准教授/酒井太一 准教授

講演③-2.jpg横山悦子 先任准教授(右)、酒井太一 准教授

戦後、日本の高齢化率は右肩上がりで伸び続け、2015年には26.6%に到達します。韓国や中国も急速に高齢化が進んでいるため、近隣のアジア諸国も同様の課題を抱えています。2016年現在、国内では約190万人の介護人材が働いていますが、2025年には約245万人が必要とされ、差し引き55万人を残り数年で用意しなければなりません。その対策の一つとしてあげられるのが介護ロボットです。

日本が力を入れる介護ロボットの開発重点分野には、「移乗支援」「移動支援」「排泄支援」「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」があります。施設への導入も急速に進んではいますが、いまだ3割程度でまだまだ道半ばです。三島市には介護ロボットを先駆的に採り入れて介護を実践する「サンリッチ三島」という介護付有料老人ホームがありますので、その事例をご紹介しましょう。よく活用されているのが、30-50㎏のものも軽く持ち上げられる「マッスルスーツ」。使う人のスピードに合わせて移動速度を調節する「アシストカー」。そして睡眠を妨げず床ずれを防ぐ「自動寝返りベッド」です。

図3.jpg

介護ロボット導入の障壁となるものは、1番目にコスト、2番目に「人にしてほしい」という気持ちの問題です。さらに介護ロボットについての教育は、日本では看護のテキストに取り上げられたばかりでまだこれからというところです。このようなジェロンテクノロジー(加齢工学)の分野において、私たちはユヴァスキュラ応用科学大学との共同研究を進めていく予定です。

<コラム1>
フィンランドの高等教育について
順天堂大学保健看護学部 山下巖教授

フィンランド3.jpg

フィンランドの高等教育は、全国に14校ある「大学」と24校ある「応用科学大学」でおこなわれます。大学では学術研究が中心で、応用科学大学では職業に直結した実践的・学際的な学びが中心。大学と応用科学大学はどちらが上位というわけではなく、学生の目的に沿って高等教育が明確に棲み分けられています。
そもそもフィンランドの総人口はわずか550万人。そのため、国民同士が競い合うのではなく、「自己探求」や「自律学習」に重きを置いた教育方針が徹底されています。競い合う相手は諸外国であり、そのために多才なグローバル人材を育成することに力を入れています。

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