PICK UP!
2019.04.19
夢中で取り組んだ先に、医師として人としての成長がある。
順天堂大学医学部では、毎年1年生を対象にフレッシュマンキャンプを開催。順天堂の若手医師が登場し、医学部で学ぶ心がまえや学生生活の過ごし方、医師としてのキャリアパスなどについて講演しています。その講師に2年連続で選ばれたのが、順天堂大学医学部附属順天堂医院・整形外科・スポーツ診療科の本間康弘講師。若くしてさまざまな経験を積んだ本間医師が、医師としての成長の過程を語ります。
学業と部活動の両立
学部時代はバスケットボールに夢中!
私が整形外科医を志したのは中学時代。小学2年生から続けていたバスケットボールの部活動でけがに悩まされ、思うように練習できない日々を過ごしていた頃です。自分と同じ悩みを持つ人をひとりでも減らしたい――その一心で勉強し、順天堂大学医学部に入学しました。
学部時代は勉強のかたわら、医学部のバスケットボール部に所属。浦安キャンパスなどの練習場まで週3回通い、部活動に夢中で取り組みました。親しかった友人もサッカー部、野球部、テニス部、ラグビー部などに所属して勉強と部活動を両立しており、私もそれが当然だと思っていました。
部活動で学んだのは、仲間を大切にする気持ちです。長期間練習をともにし、練習方法も知恵を寄せ合って工夫する。そんな仲間と部活も勉強も切磋琢磨し合った結果、チームは東日本医科学生総合体育大会で優勝、春季大会3年連続優勝、秋季リーグ5年連続優勝という素晴らしい成績を残しました。文武両道が普通のこととして存在していたので、仲間や環境にはとても感謝しています。
「整形外科医を志したのは中学時代。小学2年生から続けていたバスケットボールの部活動でけがに悩まされ、思うように練習できない日々を過ごしていた頃です。」
アイルランド留学
周囲の反対を押し切って海外留学へ
学部を卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院で初期研修を終え、アイルランドに留学しました。もともと海外志向が強かった上に、アイルランドは学術的文化が強く、整形外科の症例も多いと知って留学を希望したのですが、当時の周囲の反応は「何も経験を積んでない医師が留学して何をするんだ?」と冷たいものでした。そのとき唯一応援してくださったのが、現在同じ診療科で主任教授を務めておられる金子和夫先生です。
金子先生が背中を押してくださったこともあり、単身アイルランドへ。ところが当時は英語力が低く、最初の半年間は語学学校でひたすら英語を勉強。その後、面接試験を経て国立整形外科病院にクリニカル・オブザーバーとして研修することができ、手術助手などを務めました。日本の大学病院の3,4倍ほどの年間手術数を持つ研修施設であったので、豊富な症例を集中的に経験できたのは整形外科医としての自分の基盤になりました。
フランス留学
最先端の環境で努力と苦闘の日々
1年間のアイルランド留学を終えて再び静岡病院に戻った私は、「次は整形外科学発祥の地・フランスで学びたい。特に、骨の再生医療で最先端のことを行なっていたフィリップ・エルニグー教授のもとで勉強したい」と考えるようになり、勤務のかたわらフランス語の習得に励みました。2年後、その願いがかない、パリ東大学附属病院の整形外科で外国人研修医として働けることが決まりました。
日本よりもはるかに長い整形外科学の歴史を持ち、オリジナリティあふれる治療法が数多く存在する国での整形外科研修医。勇躍飛び込んだ私でしたが、そこには日本の医療現場とは大きく異なる文化が待っていました。
フランスでは、若手医師もベテラン医師と対等に自分の意見を主張し議論します。診断は何か。どんな治療がしたいのか。なぜその治療がしたいのか、科学的根拠は何か――臨床でも研究でも、その問いかけの繰り返し。ベテラン医師の意見ありきの日本の医療現場とのあまりの違いに私も最初は馴染めず、言いよどんでいると「自分の意見を言えないなら、国へ帰れ」と厳しい言葉が飛んできました。そこで私もつたないフランス語で意見を主張し、カンファレンスやプレゼンテーションを何度も何度も繰り返しました。手術の執刀も当直もこなさなければならず、とにかく必死の日々でした。ディスカッションと単純明快で論理的であることを好むフランス文化の中での整形外科研修は、現在でも私の日々の診断や治療に大きく役立っています。
どんなときも恩師と仲間が心の支えに
アイルランドでもフランスでも私を支えてくれたのは、恩師であり、周囲の仲間でした。そもそもパリ東大学附属病院で研修ができたのも、日本でのフランス整形外科学のパイオニアである金子先生から、骨の再生医療の権威フィリップ・エルニグー先生を紹介していただいたことがきっかけでした。
現地の研修医仲間も言葉や仕事の進め方を教えてくれるなど、親身にサポートしてくれました。仲間が大きな支えになることは、部活も仕事も日本でも外国でも変わりません。
どんなときも恩師と仲間が心の支えに
語学の習得に関しては、私の経験から言わせていただくと「実践」しかありません。語学習得そのものを「目的」にするのではなく、「手段」にするのです。そのため、私は英語でもフランス語でも学会発表などをいくつも申し込み、話さざるを得ない状況に自分を追い込みました。人は責任を負うことで大きく成長します。この方法で学部卒業時には全く話せなかった私が、上手ではないですが、今は、英語にもフランス語にもそれほど不自由しなくなりました。
臨床と研究の両立
股関節手術における安全性向上を目指して
フランスから帰国後、順天堂医院で「アカデミック・サージョン」(手術を執刀するだけでなく研究も行う外科医)を意識しながら勤務しています。医院での外来診療は週1日、手術は週2回程です。それ以外の日は金子先生の研究室で研究を進めています。
現在取り組んでいる研究テーマのひとつが、「股関節手術における安全性の向上」です。例えば手術で人工関節を固定する場合、意図しない方向に人工関節が挿入されるケースや、人工物の硬さに負けて本来の骨が骨折してしまうなどの合併症があります。その際、ベテランの医師は骨を叩いたり切ったりする音を一つの参考にしながら異方向への挿入や骨折を事前に察知しますが、経験の浅い若手医師は異音を聞き取れず、合併症に至ることがあります。そこで音を解析し、振動数を測ることで合併症を未然に防ぐ研究を進めています。この研究は順天堂静岡病院の諸橋達先生がスタートされ、ご指導をいただいているのですが、最近ではAIの研究者もチームに加わり、私自身も最先端の研究に夢中になっています。
私たち外科医の世界では、感覚による巧みな技術はこれからも必要です。ただ、感覚だけではなく、見て聞いて触れて蓄積してきた医師の経験つまり感覚を定量化することで、誰が執刀しても安全に手術ができるシステムを構築していきたいです。
厚生労働省への出向
異なる視点から医療を見る目を養う
ほかにも2016年から2年間、厚生労働省医政局研究開発振興課・再生医療等研究推進室に出向する機会をいただきました。国の再生医療等対策専門官として、国の研究振興政策や研究への評価方法を知り、ひいては国の仕組みを肌で知ることができました。医療や研究に関わる法律やガイドラインにも詳しくなり、医療の世界をこれまでとは違った視点から俯瞰することができるようになりました。
研究の成果を人と社会に役立てるために、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、研究成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学を「レギュラトリーサイエンス」と呼びますが、こうした新しい視点を自分の中に築けたのはとても有難いこと。この経験を活かし、世界に影響を与えられる臨床と研究を進めていきたいです。
「レギュラトリーサイエンス」の重要性を語る本間講師
学生への指導
相手を見て工夫することが自分を育てる
臨床に研究に多忙な毎日ですが、学生への指導も私にとって大切な仕事です。現在3名の院生への指導をさせていただいていますし、医学部バスケットボール部のコーチも依頼されて務めています。指導する立場とはいえ、実際には学ぶことばかりです。
学生は一人ひとり個性が異なり、同じ指導をしても伸びる学生もいれば伸び悩む学生もいます。そこで同じことを伝えるにも相手の性格を見極め、言葉や指導方法をひと工夫しています。私自身が金子先生とエルニグー先生という2人のメンターをはじめ、先輩や同僚の先生方など多くの方々からご指導をいただいてきました。今は逆の立場で、学生に自分の指導がどう影響するか、何が適切な指導なのか、いつも試行錯誤していますが、同時に多角的な視野を身につけることができるので、お互いに成長しながら進んでいければと思っています。
医学部生へのメッセージ
夢中になれるものがあれば人はより成長する
最後に、これから医学部で学ぶ学生の皆さんにお伝えしたいことがあります。学生生活で何でもいいから夢中になれるものを見つけてください。夢中になると人は集中して力をつけるようになり、早く成長します。
そして学生時代に何かに夢中になれた人は、医師になってからも専門領域に夢中になりやすいはずです。専門領域に夢中で打ち込めば医師として大きく成長し、やりがいも責任も増すはず。充実した医師人生が待っているはずです。
順天堂大学医学部
整形外科学講座 講師
本間 康弘
2005年3月 順天堂大学医学部卒業(M.D)、2012年10月 パリ東大学修士課程修了、2014年3月 順天堂大学大学院医学研究科修了(Ph.D)
順天堂大学医学部附属静岡病院での初期臨床研修、アイルランド留学、フランス留学を経て、現在、順天堂大学医学部整形外科学講座講師。大学院医学研究科、順天堂医院臨床研究・治験センター研究開発企画室、革新的医療技術開発研究センターの講師も務める。専門分野は、股関節外科、再生医療。