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2021.04.08
医師として世界で活躍する順大生! ~アメリカで医師免許を取得した卒業生たちの今~
順天堂大学医学部には、卒業後にアメリカで医師免許を取得し、現地で活躍を続ける卒業生たちがいます。今回は、その中から3名の卒業生に、アメリカで医師となることを目指したきっかけや医師免許取得のための勉強で大変だった点、実際にアメリカで診療を行ってきた中で印象に残っている出来事などについて話を聞きました。
庄司 絵理 先生(2016年卒)
■専門分野: 精神科
現在、アメリカで医師としてどのような日々を過ごされていますか? ご自身の近況についてお聞かせください。
希望通りの進路に進み、理想通りの生活を送っています。...なんて。人生はそう甘くありませんでした。テキサスへ留学してから1年半が経過し、国民性の壁やシステムの違いにようやく慣れつつあるところです。コロナで一次帰国もままならない中、見知った環境や家族、昔からの友人から離れるのは、想像以上に辛いことを学びました。臨床留学(マッチ)は、本当にスタートラインに立ったにしか過ぎないことを痛感しています。米国内の格差や人種差別、貧困、薬物中毒など、日本では考えられない問題も多く、予想とはかけ離れた経験を積んでいます。幸い人間関係には恵まれていて、他州ですが同じく日本から臨床留学中の友人や、職場の友達がいます。全世界から集まっている他の留学生は第二の家族のような存在で、週末に一緒に旅行に行ったり、鍋をしたりします。あとは、長年の夢だったグランドピアノを購入して練習をしたり、大学のジム(ボルダリングまである!)で運動したりしてガス抜きを心がけています。
Translational Neuroscienceの研究室の先生と
左からDr. Neugebauer(出身 ドイツ)、筆者、Dr. Arandia(ノースキャロライナ州)
アメリカでの臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得を目指された"きっかけ"は何でしたか?
米国で働くのに必要だったから取得しました。
米国を目指したきっかけ:幼少期をアメリカで過ごし、家庭の事情で小学3年時に帰国しました。人生の決定権が無いことが子供ながらに嫌で、「大人になったら自分の力でアメリカに帰りたい」と強く思いました。両親共に留学をしているので、その背中を追っていたのもあると思います。
臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得のために、どのように勉強を進めてきましたか? 勉強を進めるうえで大変だった点、苦労された点があればお教えください。また、それをどう乗り越えましたか?
2年間、強迫的に勉強しました。寝ても覚めても臨床留学のことを考え、初期研修中は、病院に住み込みで朝4時起床で勉強し、5分でも空き時間があればQbankを解いていました。高得点を取得するため、Step 3含め2万問近く解いたと思います。勉強量が模試の成績に反映されていなかった時は落ち込みましたが、落ち込んでも成績は上がらないので、とにかく解きまくりました。
神経内科の同僚留学生と週末にスキー旅行!
左からWalter & Pamela(グアテマラ)、Igor(ブラジル)、筆者、Jie(中国 南京)
マッチングでは、当直の合間をぬって3カ月間で10回近く日米を往復しました。順天堂をクビになる覚悟だったのですが、ありがたい事に、マッチング面接のために3か月間、医局から研修中断の許可をいただけました。知り合いには、マッチングに関連して職場内で大バトルを繰り広げた末退職したり、とんでもないパワハラを受けたりした人もいて、職場からは留学準備の邪魔さえされなければ御の字、という心持ちだったのですが、幸いそういった目に遭うことはありませんでした。視野が広く、柔軟に対応してくれる人材がトップにいる事が、どれほどありがたいかを実感しました。今後も大学全体で、留学の夢を追いかける人の応援をしていただけたら、と思いますし、私も、順天堂に籍がありますので、出来ることがあったら是非協力したいと考えております。
米国臨床留学を実現するのに必要なのは、気合と根性です。あとは運。人事を尽くして天命を待つ、人生を賭けた挑戦、最後はくじ引き、こういった言葉がしっくりきます。もちろん留学してからも大変なのは続くのですが...。
アメリカで臨床研修資格(ECFMG certificate)や医師免許を取得する意義は、何だと思われますか?
色々な人と切磋琢磨できることだと思います。マッチまでたどり着く人は、並々ならぬ精神力のある人が多いです。米国で臨床に携わることの意義は、未だに私にも分かりませんが、少なくとも自分が日本にいるよりは、人生の幅は広がったと思います。表面的には、世界各国から集まった超優秀な人材と働けること、最新の医療システムを経験できること、また米国のBoard Certificationは、最も権威のある医師の資格であり、今後世界中どこに行っても有利に働くことが挙げられます。
COVID-ICUチームでのナイトフロートを終えて
左から Critical Care FellowのDr.Sotello(出身:El Salvador)、内科のDr.Ball(インド)、筆者、Critical Care FellowのDr.Ali(イラン)
実際にアメリカの医療機関で働かれていて、これまでに印象に残っているエピソードがございましたら、ご紹介ください。
白人至上主義を象徴する刺青をちらちらと見せられるなど、度々人種差別に遭遇します。アジア人女性なので、舐められていると感じることもあります。文化や宗教により、肉を食べない人が身近にたくさんいます。他には、人種などのわかりやすい差だけではなく、教育レベルや収入によって世界が分断されていることをまざまざと感じます。かと思えば、恵まれた家庭に育った人がドラッグで精神科病棟に強制入院することも珍しくなく、処方箋の必要なADHDの薬やベンゾジアゼピン系の薬が路上で取り引きされていたり、コロラド州で購入した大麻を大学キャンパス内で密売している学生に遭遇したりすることもあります。
今後のご自身の抱負や目標、資格取得を目指す学生へのメッセージをお願い致します。
まずはレジデンシーを無事修了したいと思っています。コロナICU病棟に(精神科のレジデントから唯一)配属された時や、職場内で陰湿な差別に遭った時は目の前が真っ暗になりましたが、その度に人の温かさに助けられました。「自分は何をやっているんだろう」と悩んだり、「どうして上手くできないんだろう」と悲しくなったりすることもあります。あんまり辛いなら一旦帰ってくれば、と両親にも言われるのですが、他の留学生たちと同様に、ホームシックは続いても、もう少しアメリカで頑張るつもりです。もう駄目だと思った時でも、道は必ずあるので、あきらめないで挑戦し続けることが成功の秘訣だと思います(でも休憩は必要)。支えてくれる人を大切にすること。
留学は辛いことがたくさんあります。ただ、臨床留学に挑戦しないという選択肢は、私の中にはありませんでしたし、ワーク・ライフ・バランスを考慮しても、米国が最も理に適った進路だったと思います。負けん気の強い性格や女性であること、「ガラスの天井」に対する怒り、若くて怖いもの知らずだったことが重なったからこそ、今アメリカに居るのだと思います。同世代で米国の精神科医として活躍できる人材は、私を除いてほとんど居ないだろうという自負もありました。Life can be tough but hang in there... Because ultimately, you will be OK.
料理持ち寄りで後輩レジデントのバースデー(前列右端が筆者)
小松 義宏 先生(2005年卒)
■専門分野:上部消化管外科
現在、アメリカで医師としてどのような日々を過ごされていますか? ご自身の近況についてお聞かせください。
ペンシルバニア州ピッツバーグ市にあるAllegheny Health Networkという病院施設で働いています。General surgery departmentの中のEsophageal Instituteという部門で主に上部消化管疾患を対象に、腹腔鏡、胸腔鏡での低侵襲手術や、内視鏡治療を行なっています。Da Vinci systemを用いたロボット支援下手術も2年前より取り入れ、積極的に活用しています。Esophageal Instituteには毎年全米から3名のクリニカルフェローを受け入れており、その指導も大切な仕事の一部です。
渡米時1歳であった息子も11歳になり、子供もいつの間にか4人に増え、同級生の妻に支えられながら毎日楽しく忙しく過ごしています。妻はピッツバーグ大学形成外科で移植に携わる研究をしており、ラボマネージャーとしても、その敏腕を振るっています。
Esophageal Instituteでのパーティーにて家族と
アメリカでの臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得を目指された"きっかけ"は何でしたか?
外科の先輩である折田 創先生の紹介により、ピッツバーグに研究留学をする機会に恵まれ、そこで臨床医として働く日本人や外国人に出会ったことがきっかけです。当初はやってみようかなという軽い気持ちでしたが、お金と時間をかけて勉強し始めたので、次第に受からないと意味がないなという気持ちになっていきました。
臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得のために、どのように勉強を進めてきましたか? 勉強を進めるうえで大変だった点、苦労された点があればお教えください。また、それをどう乗り越えましたか?
毎晩USMLE Worldというオンライン問題集をやり、その問題と答えの解説のポイントをUSMLE First Aidという定番の参考書に書き込んでいくという勉強法でした。受かっても本当にアメリカで医師としてやっていくかどうかもわからなかったので勉強を続けるモチベーションを保つのが大変でしたが、STEP1に合格したことで最後までやろうと決めました。STEP1に6ヶ月、STEP2CKに3ヶ月、STEP3に2ヶ月と大体の期間を決めて取り組んだのもよかったかもしれません。STEP2CSはカプランの5日間の講習を受けにシカゴへ行きました。CSは問診と診察で、いかに点を取っていくかというテストであり、そのポイントを学ぶことができたので講習料は高かったですが、その価値はありました。
同僚かつメンターである北方先生(右から2番目)とフェローと
アメリカで臨床研修資格(ECFMG certificate)や医師免許を取得する意義は、何だと思われますか?
特に外科医は、研修中に経験する手術件数が圧倒的に多いということが利点として挙げられると考えます。私はレジデンシーはやらず、フェローからでした。フェローはその分野の手術をほぼ毎日、執刀医や前立ちとして経験するので、とても濃い時間を過ごしたと思います。
実際にアメリカの医療機関で働かれていて、これまでに印象に残っているエピソードがございましたら、ご紹介ください。
私は順天堂静岡病院にて初期研修2年間、そして外科で約4年間、佐藤浩一教授をはじめ、諸先輩方に指導を受けましたが、Instituteに手術見学に来た医師に「どこのレジデンシーでトレーニングしたのですか」と聞かれる時は、とても誇らしく思います。また、患者さんから感謝の言葉をもらったりすると、続けてきてよかったなと思います。
今後のご自身の抱負や目標、資格取得を目指す学生へのメッセージをお願い致します。
何かに挑戦することは素晴らしいことだと思います。どんなことでもこれまでやってきたことで人生に無駄なことは一切ないと思っています。皆さんもそういった気持ちで頑張ってください。
Blair Jobe 教授(中央)とのフライフィッシング釣行にて
有田 治生 先生(1994年卒)
■専門分野: 麻酔科/ペインクリニック科
現在、アメリカで医師としてどのような日々を過ごされていますか? ご自身の近況についてお聞かせください。
順天堂で麻酔科研修をした後、ボストンとロサンゼルスで内科インターン、麻酔科レジデント、そして心臓麻酔とペインクリニックのフェローをやりました。全ての研修が終わり順天堂麻酔科に2年ほど戻った後また渡米することになり、その後ロサンゼルスの大学病院で10年ほど勤務しました。現在は自分のクリニックで様々な疼痛をもつ患者さんを診察、治療しています。
アメリカでの臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得を目指された"きっかけ"は何でしたか?
医学教育振興財団プログラムに参加し、学生実習をイギリスで受ける機会に恵まれました。それがきっかけで海外でのトレーニングに興味を持つようになり、大学卒業後は横須賀米軍病院でインターンを受けることにしました。
横須賀米軍病院の同期にはすでにUSMLE を受かっていたインターンが二人もいて、自分も受験してみたいと思うようになりました。学生時代はUSMLEのことなど全く情報もなく、受けようとも思っていませんでしたし、日本人が受かるとも思っていませんでした。自分にとっては置かれた環境が進路選択に大きく関わったようで、イギリス研修に参加していなければ、米軍病院インターンもなかったでしょうし、USMLE受験もなかったはずです。
臨床研修資格(ECFMG certificate)、医師免許取得のために、どのように勉強を進めてきましたか? 勉強を進めるうえで大変だった点、苦労された点があればお教えください。また、それをどう乗り越えましたか?
現在のようにインターネットもなく、どのような参考書を使ったらいいのかや試験の傾向と対策など情報がなく、ほとんど手探り状態でした。それでも米軍病院の同期に聞いたりして何とか乗り切った気がします。現在は情報がかなりあるので勉強するポイントさえわかれば、あとは英語で書かれた問題を早く読む読解力だけなので、それは大学に入れる英語能力で十分なはずです。
アメリカで臨床研修資格(ECFMG certificate)や医師免許を取得する意義は、何だと思われますか?
医師として勉強を進めていくと、将来自分の専門分野をアメリカで勉強したいと思うときがくるかもしれない。そのときは見学ではなく実際にチームの一員として臨床に携われます。この資格はアメリカだけでなく、オーストラリアやニュージーランド、東南アジア、はたまた中近東やイスラエルなど諸外国でも通じる国際的な資格です。英語で臨床医学が理解できるというのは仮に日本でずっと働くとしても、医師として活躍するためには非常に大切なスキルです。USMLE受験を通して若い時期に一通り英語で医学を学んでおくことは医師として生涯役に立つはずです。
実際にアメリカの医療機関で働かれていて、これまでに印象に残っているエピソードがございましたら、ご紹介ください。
数多くありますが、大学病院スタッフとして治療にあたり、他の大学病院や同じ分野のエキスパートから送られてきた患者が自分の手で軽快するようになったときです。医学部卒業後、20年近く経っていましたが、自分の受けた教育やトレーニングは間違っていなかったと確信できたからでしょうか。長く医師をしていると自信をなくしたり、考え込んだりすることも多いですが、結局自分を助けてくれるのは過去のトレーニングや経験以外にありません。
今後のご自身の抱負や目標、資格取得を目指す学生へのメッセージをお願い致します。
アメリカは日進月歩で新しい技術や治療法が出てきます。現在の自分に慢心せず、これからもより一層勉強して良い医療を提供できるように精進したいと思っています。
順天堂の学生さんへのメッセージとして、ECFMGをとった場合の私が考える理想的な使い方をお知らせします。
それはまず日本で初期研修、後期研修をやり、専門医までを終えることです。そして、医師として自分の極めたい分野がはっきりした時点で、レジデントではなく興味ある専門トレーニングだけをフェローシップとして受けることです。専門にもより、2~3年程度の期間になりますが、アメリカで専門分野の臨床経験を積み、そして学んだ最新技術やトレーニング方法を日本に持ち帰るのです。このやり方なら日米研修の両方を生かしたハイブリッドなトレーニングが受けられ、しかもその経験が日本で生かせる医師になれるはずです。もしさらに勉強したければ、フェローシップ後にそのままアメリカの大学病院に臨床スタッフとして残る方法もあります。
私は英語やアメリカに興味ない医学生にも是非トライしてもらいたいと思っています。難しそうに聞こえるUSMLEという試験ですが、アメリカ人医学生にとってはかなり簡単らしく、実際はそのために時間をかけて準備をするということはありません。昔から言われている事ですが、Step 1の準備に1ヶ月、Step 2に1週間、そしてStep 3に鉛筆一本だそうです。この文章を読んでいる順天堂の学生さんが周到に準備したら合格しないわけがありません。これを読んでたった一人でも順天堂の学生さんが興味をもってくれたら光栄です。