MEDICAL

2022.12.07

精度の高い画像診断を子どもたちに。~小児MRI検査の可能性~

強い磁場と電磁波を使って体内の状態を断面像として描写するMRI (Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断装置)検査は、疾患や外傷の診断、治療の効果判定を行う上で医療現場に欠かせない画像診断検査です。一回の検査に要する時間は部位によって異なりますが約20~30分と比較的長く、撮影中は静止が求められるため、動き回る小さな子どもへの検査は難易度が高いと言われてきました。しかし、現在は技術の進歩によって小児MRIは着実に発展を遂げています。MRI装置の進化や撮像手法の発展と、最新の小児MRI検査事情について、保健医療学部で技術指導を行う渋川先生に話を聞きました。

MRI検査とは~意外と知らないMRIの基礎知識~

MRI検査は、私たちの健康を支えるうえで重要な臨床検査です。検査は人工的に磁場を発生させた狭いトンネル状の装置の中に、ベッドに寝て体を挿入した状態で行われます。電波を当てることで得られる、体内に存在する水素原子核(プロトン)の分布情報を基に、人体内部の断面を様々な方向から撮影し、様々なコントラストで疾患・外傷部を判別します。腫瘍の有無や進行状態の判定、治療効果の確認、外傷の発見など、その用途は多岐にわたります。
MRI検査は、脊髄、内臓、筋肉、血管等、身体の様々な部位に用いられますが、特に脳腫瘍、脳梗塞、脳出血など、脳疾患に関する頭部の診断で多く用いられます。
近年では脳の形態変化が大きい統合失調症患者の診断など、精神科の領域やヘルスケアの分野にも研究が進み応用が期待されています。

実習の様子

MRI検査とCT検査~両者の違いは?~

よくMRI検査と混同されがちな検査にCT検査(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)がありますが両者にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

撮影の原理

・人体組織を強力な磁場の環境下におき、電磁波を用いてその反応をみるのがMRI検査であるのに対し、X線を照射し吸収率の差異を利用して検査を行うのがCT検査です。そのためCT検査では微量な放射線被曝が発生してしまいますが、MRI検査には放射線被ばくの影響はありません。
・MRI検査は強力な磁石や電波を用いることから、金属(磁性体)による事故を引き起こさないように、検査の際には身に着けている金属を外さなくてはいけません。体内にMRI検査に対応していないペースメーカー等の金属がある場合は検査が難しくなります。また、タトゥー・アイシャドウやマスカラ・カラーコンタクトなどにも微量な金属が含まれていて、電波の影響で熱を持つことがあります。そのため、検査の前にメイクは落とさなければならないことがあります。

 

撮影時間や適した診断

・CT検査にかかる時間は5~15分程度とMRIに比べ短時間です。また、心臓など動きを止めることが出来ない部位のより正確な画像描写が可能です。検査時間が短いという側面は患者さんへの負担も少なく、全身の検査を行う際はCTが多く利用されます。一方で、脳や軟部組織のコントラストはMRIの方が優れているためMRI検査の方が適しています。
・どちらの検査においても、画像上で疾患部を鮮明に表示するため、疾患や検査部位によっては造影剤を注射することがあります。しかし、造影剤には吐き気や発熱などの副作用がわずかながらあり、喘息などのアレルギー体質の方はそのリスクが高くなります。MRIは造影剤を使用せずとも撮像法の工夫で様々な部位を描出可能です。例えば血管の描出はCTでは造影剤を使用しなければなりませんが、MRIでは造影剤を使用せずに描出できる場合があります。

 

このように、どちらの検査にも得手不得手があるため、画像診断検査は、対象の部位や疾患など対象患者により適切に使い分けることが重要です。

小児MRI~難しさの理由~

臨床に不可欠な存在であるMRIですが、これまでは小児への適用が難しいと言われてきました。その理由は大きく二つあります。
一つは撮影時間の長さです。20~30分を要する検査の間、可能な限り同じ姿勢を保たなければなりません。また、撮影部位によっては15秒から20秒ほど息を止める必要もあり、それらは子どもにとって容易なことではありません。
もう一つの理由にトンネル内の狭さがあります。磁場を均一に保つため、直径は約60㎝程度に抑えられています。頭部を装置に入れる検査ではかなりの圧迫感が感じられ、加えて装置内はガンガンという大きな稼働音が響くため、検査を嫌がる子どもも少なくありません。
これらの問題に対する技師の工夫や装置の発展について、渋川先生はこのように語りました。

「撮影技師は撮影時の指示だけでなく、安心して検査を受けられるよう声掛けを行います。一人で撮影することが難しければ、保護者に付き添ってもらい、傍で手を握ってもらうなど、不安を和らげる工夫を行っています。また、装置内には鏡が設置されているので、間接的ではあるものの装置の外にいる保護者と互いに顔を確認することもできます。保護者が不在の場合は小児科の医師や医療スタッフが付き添うこともあり、できる限り子どもが不安を感じることなく検査を受けられる環境となるよう配慮しています。

メーカーの医療機器開発により装置も進歩を続けています。画質を維持しつつ撮影時間を短縮できる機能や体の動きをある程度補正できる機能を搭載した装置が出てきているほか、トンネルの直径が広がり約70㎝ある装置も登場しました。わずか10㎝程度の差ですが、装置の中に入ってみるとかなりの違いを感じられます。トンネルの狭さは子どもだけでなく、閉所恐怖症の方たちにとっても検査の弊害となっているため更なる拡張や、機器の開発に期待しています。」

新しい撮像手法~小児への実現~

MRI検査の撮影方法は対象部位によってある程度決まっており、操作する技師はその都度適切な手法を選択し撮影を行います。手法は装置を開発したメーカーにより指南されているものがほとんどですが、状況によっては現場の技師の知識と判断により撮像のパラメータを調整する場面もあります。また近年では小児MRI検査において有用性が向上している撮像手法として渋川先生は以下の3つを示しました。

 

①拡散強調像

成人においても特に急性期脳梗塞の診断に効果を発揮する撮像法で、脳神経領域の撮影には欠かせません。小児MRIにおいては、脳の神経細胞を繋ぐ役割を果たす白質の発達の評価や早期の予後予測などに用いられており、今後も利用の幅が広がっていくと期待されます。

 

②ASL(Arterial spin labeling)

造影剤を使用せずに血流を評価することが可能です。造影剤によるアレルギー反応や副作用のリスクを考えると、造影剤を用いずに小児の検査を行えることは大きな利点と言えます。MRI検査は放射線の被ばくがなく、成長過程の小児の体に負担を掛けず撮影することが可能です。比較的新しい撮像法ですが、現在では多くのMRI装置で撮像可能となり臨床応用されており、小児MRIでも活用の場が増えています。

 

③MRS(MR spectroscopy)

代謝の測定が可能で、描出した病態の性質を判別できます。例えば、脳の腫瘍を検査したときに、それが脳神経細胞由来のものなのか、肺がんからの転移によるものなのかを診断できます。これにより、腫瘍の性質に適した処方を行うことができ、治療方針を決めるうえで大きく役立ちます。小児においては神経発達に伴って、脳内の代謝物濃度が変化していきますがこの様子をMRSで観察することが可能です。

 

これらの新技術は徐々に広まりつつありますが、一般化には至っておらず、小児に用いる機会も限られています。小児が最新の技術による検査を受けることができるよう、従来の撮像法とともに新しい技術を応用した検査を進め広めていく必要があります。

子どもたちに同じ水準の検査を~診療格差のない治療に向けて~

MRIの基本原理は難しく、勉強に苦手意識を持つ技師の卵も多いようです。放射線技師になるには、国家試験に合格する必要がありますが、試験科目14科目の内、MRIの科目は特に難しいと言われています。
渋川先生は、画像診断撮像技術や画像情報の教育に対する意気込みを次のように語りました。
「MRIは座学だけでは分かりづらいところもありますが、臨床の場で実践することにより理解が進み、学びのモチベーションにもつながると思っています。そのためにも、MRI検査に必要な技術を身につけられる機会を創出していきたいです」

学生を指導する渋川先生

また、現場では柔軟な対応能力も求められます。撮影のために静止することや、息を止めることが難しい子どもの場合には、他の撮影方法を検討し、可能な限り精細な画像を描出できるようシフトする判断力が必要です。最近では、胎児の脳の奇形や発達などの診断にもMRIが用いられるようになりましたが、胎内を動き回る胎児の撮影には、様々な知識と能力が必要となります。渋川先生はこれからの小児MRIの展望についてこう締めくくりました。
「小児へのMRI検査は10年前に比べると、格段に進歩し、身近なものになってきています。どこの病院でも同等の質と基準の検査を提供できるようになるためには、検査、診断のスタンダードを確立していく必要があります。その実現に向けて、これからも精力的に画像診断の教育と研究を続けていきます」

≪関連記事≫

「MRIを用いた脳の高次認知機能の解明 大脳新皮質の神経回路から人間の『心』の正体に迫る」
https://www.juntendo.ac.jp/branding/report/157/

「放射線画像診断技術はどこまで進化したのか? CT、MRI研究の第一人者が語る最前線」
https://www.juntendo.ac.jp/branding/report/151/

Profile

渋川 周平 SHIBUKAWA Shuhei
順天堂大学保健医療学部 診療放射線学科 助教

博士(金沢大学)。東海大学医学部付属病院放射線技術科を経て、2021年度より現職。東海大学医学部専門診療学系画像診断学特任研究員、東京医科大学放射線医学分野兼任助教、東京大学大学院総合文化研究科特任助教を兼任。磁気共鳴画像、温度計測画像などの研究に従事。日本放射線技術学会、日本磁気共鳴医学会、放射線技師会、日本神経科学学会等に所属。

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