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2026.01.20
確かな技術と患者さんファーストの診療放射線技師を育成 ~低被ばく・高画質に向けた研究開発~
X線やCTをはじめとした画像診断技術は、現代の医療にとってなくてはならないものです。デジタル化による技術の進歩も著しく、診療放射線技師にはこれまで以上に高い専門知識と技術力が求められます。そうした中で、高度かつ安全な放射線診断技術やより効果的な教育コンテンツの研究開発に取り組んでいるのが、保健医療学部診療放射線学科の室井健三先任准教授です。長年にわたる臨床現場での経験を活かして研究を進める室井先生に、次世代に向けた取り組みについて伺いました。
被ばく量を低減し、画質を向上する技術を研究
――室井先生は診療放射線技師として臨床現場に立ちつつ研究も進めてきたそうですが、どのような研究テーマに取り組んできたのでしょうか。
X線やCTなどの検査や画像診断では、放射線を用いて体内を撮影します。その際、放射線量を多くするほど画質が良くなる傾向があり、見えにくいところまで見えるようになるというメリットがある一方、被ばく線量が増えるというデメリットがあります。そこで、高画質でありながら被ばく線量を低減する方法について研究してきました。
――どのようにして被ばく線量低減と画質向上を実現しようとしているのですか。
主なアプローチ方法は2つあります。1つ目は、デジタル処理によって画像のノイズやデータの乱れを低減して画質を高める方法です。かつてX線検査は、X線フィルムに増感紙という特殊な材料を貼ることで、撮影感度を上げつつ被ばく量を減らしていました。その後、フィルムからデジタル画像へと移行しデジタル処理で画質を最適化できるようになりましたが、まだ改善の余地があります。
そして2つ目は、画像撮影に必要なX線のエネルギー領域だけにフォーカスし、不要なエネルギーをカットするという方法です。具体的には、撮影機器に金属フィルターを取り付けることで低エネルギーX線を透過しにくくし、その分の被ばく線量を低減しようというものです。被ばく線量低減のために金属フィルターを用いるという方法は昔から行われており、金属フィルターとしてはアルミや銅などが使われてきました。私の研究では、従来の金属よりも原子番号の大きい*金属フィルターを用いることで、低エネルギーX線を吸収しやすくしようとしています。
*原子番号が大きいほど電子の数(電子殻)が多く、放射線のエネルギーが電子と衝突して吸収する機会が増えるためエネルギーを失う(吸収しやすい性質がある)
――デジタル化しても金属フィルターのような従来に近い方法は有効なのですね。
金属フィルターで低エネルギーX線を吸収すると放射線が不足するところが出てきてしまうため、そこをデジタル処理で補完しようという研究も進めています。2つの研究を融合することで、フィルムでは固定された感度で撮影しなければいけなかった部分を、デジタルでは必要に応じて撮影感度を変えられますし、画像処理によって弱い部分を補完できるので、さらに被ばく線量を低減した撮影ができるのではないかと考えています。使用する金属によっては特定のエネルギーを吸収できるので、そのような金属と組み合わせたときのデジタル処理についても研究対象となります。
「学生視点」「患者視点」の教育コンテンツを開発
――もう一つの研究テーマとして「教育工学」がありますが、これはどのような研究なのでしょうか。
診療放射線技師として臨床に必要な技術を身につけるために、学生は臨床実習を受けます。その臨床実習の前には、患者接遇、機器操作、撮影ポジショニングなどを評価するOSCE(客観的能力試験)という試験を受けなければいけません。一般的なOSCE指導では、指導教員による実技指導のほか、模擬試験に対する評価や改善点の指摘が行われますが、学生は模擬試験中の自分自身を客観的に見て実技内容を振り返ることはできませんでした。この現状を改善し、OSCEの振り返り学習に用いる情報として、スマートグラスやビデオカメラを活用した教育コンテンツの開発に取り組み、教育現場での実装に向けて研究を進めています。スマートグラスは学生自身の見ている情報を得る「学生視点」と患者から学生の言動などを見る「患者視点」を映し出し、さらにビデオカメラを活用した「全体(評価者)視点」をひとつのモニタ上で同期して観察できる多角的視点を実現しました。学生自身が患者さんからどう見られるかだけでなく、患者さんをどう見ていたかも客観的に振り返ることが可能になり、より多くの視点から振り返りを行うことができます。プロの臨床検査技師との目線の向け方の比較にも使えますね。
――このコンテンツを利用することでどのような教育効果が得られますか。
学生はまだ修行中の身ですから、プロの診療放射線技師のような洗練された動きにはならず、全体が見えていないために無駄な動きになりがちです。だからこそ客観的評価が重要なのですが、従来のように教員から口頭で指摘されたり、文章にまとめられたものを読んでもすんなり頭に入ってきません。その点、自分自身が映っている映像であればかなり熱心に見てくれます。繰り返し見て改善しようとする姿勢も見られて、学習意欲につながったことはかなり大きな利点です。
教育現場での導入を目指して改良中
――スマートグラスを活用した教育は実際に導入されているのですか。
この教育コンテンツの効果を評価するため、従来の教育方式(対照群)とスマートグラスを用いた教育コンテンツでの教育方式(介入群)での教育前後の模擬OSCEを実施しました。模擬OSCE前後の評価点の差から、その教育的効果について検証しました。その結果、これまで不可能だったOSCE時の患者視点、学生視点、学生行動を客観的に観察できることが明らかになりました。ただし、スマートグラスの導入によって模擬OSCEでの高得点化につながると予想していましたが、スコアの面で有意な差は見られませんでした。スマートグラスのようなウェアラブル技術の活用は、高い教育満足度をもたらす可能性があるものの、デバイスの取り扱いや安定したネットワーク環境、画質の維持などが必要で、このコンテンツを教育現場に実装する際の課題が明らかになりました。この研究時に使っていたメガネタイプのスマートグラスは装着時の違和感があり、動きが制限されるということもわかったので、現在は、上部の動画で使用している胸もとに装着するタイプのスマートグラス2を活用した研究を進行中です。
――OSCE指導以外の用途も考えられそうですね。
自学自習での利用を期待しています。この教育コンテンツのいいところは、自分で映像を撮って見ることができるという点で、学生の自習に向いていますが、そのためには、使い勝手が良く、シンプルなシステムにする必要があります。また、診療放射線技師だけでなく看護師やほかの医療職にも使えますし、さらにいえば医療以外のどんな職種のトレーニングでも役立つと思いますので、将来の汎用性も見据えた研究を進めていければと考えています。
技師の技術が問われる一般撮影のやりがい
――診療放射線技師という仕事のどのようなところにやりがいを感じていましたか。
臨床現場では毎日多くの患者さんの放射線画像を撮影しますが、患者さんごとに撮れる画像は違い、撮影技術次第でより鮮明な画像を低被ばく線量で撮れます。患者さんも毎回同じ状態とは限らず、病状の回復具合に合わせてその場で工夫して撮影しなければいけない場合もあります。そういうときに技術や知恵を出して工夫をすることが必要で、とても難しいのですが、だからこそやりがいを感じます。X線やCTの撮影はマニュアル通りにやれば技術差は出ないものと思われがちですが、意外と奥が深いのです。
――診療放射線技師は、X線やCT、MRIなどさまざまな画像診断機器を扱いますね。
私は一般(単純)撮影といわれるX線に一番思い入れがあるかもしれません。X線はシンプルに見えますが、とても難しいからです。頭や骨、おなかなど全身のあらゆる部位が撮影対象であり、頭といっても耳の中の蝸牛や内耳道、副鼻腔などいろいろなところを撮ります。それぞれに撮影方法があり、患者さんによっても違うという難しさがあります。その中でいかに良い画像を撮るかというところに技師の技術を活かすことができて、成長を実感することができます。画像診断にはそれぞれに役割があり、まずX線で調べ、そこで異常が見られたときにCTやMRIなどの画像診断を行います。私は全ての行程を経験しているので、それぞれの役割を意識しながら仕事をしてきましたが、診療放射線技師は「チーム医療」の一つのピースですから、次のステップまで考えてできるようになると、さらにこの仕事が面白くなるのではと思っています。本学保健医療学部は施設が充実しているので、現場を意識した学修が可能です。学生には、将来を見据えて授業に取り組んでほしいと思います。
AI実習など最先端技術も学べる恵まれた環境
――順天堂大学保健医療学部の魅力はどんなところにありますか。
保健医療学部は、理学療法学科と診療放射線学科の2学科で構成されています。私は診療放射線学科ですが、国家試験対策や教務関連などさまざまな場面で理学療法学科と情報共有する機会があります。他学科の取り組みを知ることで異なる視点から考える機会があり、教育内容のさらなるブラッシュアップを行う上で相乗効果が生まれていると感じています。両学科で共同研究に取り組んでいるケースもあり、教育・研究の両面でユニークな活動が実践されていることが、本学部の魅力だと感じます。診療放射線学科は、診療放射線技師のほか、医師、医学物理士、自然科学の研究者などさまざまな背景を持つ教員が集まっています。そのため自然科学の基礎から医療現場における応用までさまざまな観点からの教育を実践できています。学外から講師を招いて講義や実習を行うこともあり、AI研究を行う企業の方に来てもらう授業は、座学で学ぶだけでなくAIに触れて学ぶ実習形式です。学内にとどまらず、医学部附属病院という恵まれた環境で実践的な教育が行えますし、大学院での研究・教育環境が整備されているため学部から継続した研究活動にも取り組めます。研究のフィールドは大学や附属病院のネットワークを生かして海外での活動にも繋がっていますから、ますますの発展が期待できることも本学科の魅力の一つです。
――学生にはどのような姿勢で学んでほしいと考えていますか。
人として、自身の目指す職種の一員として、研究者として、自立してほしいです。そのために、まず第一に本学の学是である「仁」の精神を心に抱き、自己研鑚のもと高い倫理観を持って学問・研究に取り組んでほしいと思います。また、学生生活では、ときにうまくいかないこともあるかもしれませんが、うまくいかない状況を受け入れ、次にどうするかを常に考える粘り強い姿勢、本学の理念である「不断前進」を心掛け、将来さまざまな環境で活躍できる人材として、出身校、国、性別などで差別することなく、相手のことを理解し自分の役割を認識して行動できる医療人(順天堂大学学風「三無主義」)を目指してほしいです。私も教員として全力でサポートしていきます。


